桜のトンネルをくぐり抜けてみると、地元の良さに改めて気づいた
この街はつまらない、なんて考えていたのは、ぼくが10代のころだった。
電車は1時間に1本しかないし、徒歩圏内にコンビニはないし、大型のショッピングモールや流行の店があるわけでもない。
ただただ街の真ん中に大きな川が流れていて、青々とした稲が風にゆられている――。兵庫県小野市とは、ぼくにとってこんな街だった。あれから20年以上がたったが、街の様子は今もたいして変わらず、あいも変わらずのどかなものである。
この街に帰ってきて、2度目の春を迎えた。
今、おの桜づつみ回廊を歩いている。
ちょうど桜の見ごろを迎え、大勢の見物客が訪れていた。スマートフォンやカメラを片手に歩く人々。それに、自転車やバイク、車で回廊脇の道路をのんびりと通り過ぎる人達もいて、ぼくもその流れに身を任せ、カメラ片手に春の休日を満喫していた。
「つまらない」と思っていた街に、どうして帰ってきたのか。
何年か前のことだ。小野市の低山・小野アルプスの頂上から我がふるさとの景色を眺めていると「悪くないかも」と思えてきたのがきっかけだった。
小野市には豊かな野山があり、例えば鴨池公園は、秋になるとシベリアからコハクチョウが飛来する、最南端の越冬地として知られている。
小・中学生のころ、赴任してくる教員が、決まって「ここはコハクチョウが飛来する、たいへん環境のよい街なのです」と挨拶をしていたことを思い出す(君たちは恵まれた環境で学べるのです、というメッセージですね)。
当の本人は「ハクチョウが飛来するからどうしたというのだ」と斜に構えていたものだ。ぼくにとっては、ハクチョウが渡ってくる池があるのは当たり前すぎることだったからだ。
街にはスタバもウーバーイーツもないけれど、そのかわり、こだわりの焙煎所やコーヒースタンドがあったり、知る人ぞ知る、隠れ家的お店があったり、街の中をちょっと観察してみると以外な魅力があふれていることを知った。
この桜づつみ回廊も、小野市を代表する魅力のひとつである。
全長4kmの桜並木には、ソメイヨシノを筆頭に、5種類650本の桜が加古川の上流から下流へ順に開花する。桜を楽しめるこの時期は観光バスがやってきて、川沿いは一大観光名所の様相をていする。
今日は真新しいランドセルを背負った子供たちを何組か見かけた。
ランドセルを背中にポーズを決める子供と、それを見守るご家族のまなざしが温かい。きっと入学祝いの記念撮影に来られたのだろう。
地元の子供たちだろうか――。
だとしたら将来、きっとこの街が好きになる。
今のぼくのように。