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聞かせて差し上げろ!
朝七時、明けたばかりの空はずいぶん澄み渡り、心地よい鳥の鳴き声が時折聞こえ、穏やかな空気が流れている。
「あー!なんかもー全然痩せない、ちょーむかつく!!」
朝から耳触りのよろしくない声が聞こえてきたぞ!!!
「ちょっと!!!気分良く朝のウォーキングしてんのに腹立たしいこと言うな!!」
「だって全然ダイエットの効果が出ないんだもん!!」
学校のない土曜日曜は、私の日課である朝のウォーキングに娘も参加している。彼女はずいぶん重量感のある体を相当気にしており、時間を見つけては運動しているのだが、如何せんものすごく食べるので…どうにもこうにも面積が縮小していかないのだな。
「まあ地道に運動して脂肪を筋肉に変えていくしかない。」
「ドンドン足が太くなってるもん、筋肉はめっちゃついてる!!」
そりゃ筋肉も付くだろう、毎日駅まで徒歩20分、満員電車に揺られて立つこと20分、駅から学校まで徒歩20分。
「あんたね、弟を見なさいよ、毎日地道にあさイチのウォーキング続けてるから、ずいぶん引き締まったよ?」
「ずいぶん引き締まった。」
やけに食欲旺盛な我が家、家族という家族すべてがきっちり太ましくてですね!!息子はその重量ゆえの走行スピードおよび跳躍力その他もろもろに対する影響がですね!!まあ、ぷくぷくしてかわいいんだけど、体育の授業で気の毒な事になりがちで、俊敏な動きはできずとも、せめて動き続ける体力だけは確保しておきたいと思ってですね!!!
毎朝一時間ウォーキングをして約二年、体重は変わらず身長が伸び始めた息子の姿があるといいますか。このままずっと毎朝歩いていたら、多分きっといずれおそらくいい感じにがっちり体型へと変わってくれるはずなのですよ。今はぷくぷくからスマートへの、過渡期、過渡期!!
「あさイチは土日しか無理、夜はバイト三昧…、こんなんじゃいつまでたっても華奢になれない、詰んだ!!!」
「あんたはただの食べすぎだよ!!なんでどんぶりでご飯を食べるの、普通若い女子ってかわいらしくお茶碗で食べるんじゃないの。」
だから食い過ぎだと何億回言わせるんだ、この人は。私は食事の際、毎回毎回食べすぎだと忠告させていただいているのですけれども?
「そんなん食べる量減らしたらおなかがすくじゃん!力湧かないじゃん!働けないし学べないじゃん!!」
「じゃあ、土日の時間あるときはもっと負荷の大きい運動したらどうなの。ジョギングとか縄跳びとか。」
ちょいちょい家で運動しているのを見かけるけど、多分ぬるいんだな、疲れたらやめるとか、そういう中途半端な運動がより一層の食欲を盛り立て、より強固な脂肪を生み出しているに違いない。運動ってのは多少オーバーワークにこなしていかないと成果が出にくいというか、脂肪が燃やされるために負荷を与えられていることに気付きにくいというか。
「毎日腹筋だってしてるのに、ちっとも腹が凹んでいかない、むしろ出てきた!!何この肉、この腹…!!ちょーウケるんですけど!!」
…普通さあ、年頃の女子ってこう、腹ポンポン叩いて大口開けて笑ったりしないんじゃないの。もっとこう、奥ゆかしいテレ方とかさ、赤面して俯くような、か弱さというかさあ。…なんなんだ、うちの女子は。
「もーなんでこんなに太いの、全てにおいて太すぎる、あり得ない!!」
「そんな太い太い言ってるからさあ、足だって太くなきゃいかんかと思って太く成長するんだよ。」
言霊というシステムが、この世界には存在していると言われておりましてですね。
「弟を見なよ、何も言わずにただ黙々とウォーキングしてたからこんなに引き締まったんだよ。」
「かなり引き締まった。」
弟が自慢気にガッツポーズを決める。この子は大概無口だからな、言霊システムはおそらく発動していない。彼は地道な努力で自らを引き締めたのだ。
「腹が出てるって言ったら、そりゃあ腹も出ておかねばなるまいと思うじゃん!足だって太いなあって言われたら、太いままでいないといけないって思うじゃん!全部君のせいです、痩せないのは。」
「なにそれ!!!言いがかりじゃん!!」
「言いがかり?滅相もない!!じゃああんた自分の腹に、足に向かって、細くなったねえって話かけてみなよ。あっちゅーまに細くなるわ!!やりもしないで人の言葉を否定するとは、大した自信ですね、まずはやってみてから否定しろ!!!」
「やったほうがいい。」
「せめて自分の体に、太いだの醜いだのどうしようもないだの言わずに、素敵な言葉を聞かせて差し上げろ!失礼ですよ、自分の体に!」
「ぐぬぬ・・・やったるわっ!!!」
かくして、娘の言霊ダイエットが始まった。
平日家に帰ってきて、靴下を脱ぎつつぶつぶつ言っている。
「今日もよく歩いたね、脂肪が取れてすっきりしてきた!お疲れお疲れ!」
バイトに行くまでの間、腹筋をしながらぶつぶつ言っている。
「今日も腹筋ついてきた、良い感じ、おなかも凹んでキター!よっしゃあと十回!!」
バイトから帰ってきて、ダンベルを持ちながらご飯が出てくるのを待ちつつぶつぶつ言っている。
「引き締まった腕、シャープネスが光る!!はい、イチニ、イチニ…!!!」
私も微力ながら、援護射撃などをお見舞いしてみる。
お菓子に手を伸ばした娘にぽつりと一言。
「引き締まりつつある体の皆さんに、余分に消費せねばならぬエネルギーを付与するとかどこの疫病神かな。」
どんぶりに山盛りご飯を盛る娘にぽつりと一言。
「なるほど、成長期の腹筋の皆さんに必要なたんぱく質を与えずに過剰なまでの炭水化物を与えるとか、完全ツンツンですね、腹筋は君を慕っているというのに、たいした仕打ちだ、なるほど。」
寝る前に冷蔵庫をあさっている娘にぽつりと一言。
「ふむ、寝ている間は筋肉修復の、肉体疲労回復の貴重な時間だというのに、胃袋を働かせて消化活動を活発化させようとはずいぶんスパルタですね、なるほど、君は宿題をやってる最中に作曲をこなしさらに編み物を仕上げて世の中がアッと驚くような論文を書き上げることができるんですね、マルチタスク乙、さすがです。」
「お母さんがひどすぎる!!!!」
やけに騒いだ娘ではあったが。
…言霊効果は素晴らしく、徐々に徐々に、娘はその身を引き締めることに成功したのである!!
「けっこう引き締まったね、何キロ減ったの。」
「そこは秘密にしておく!!!」
やけに引き締まった娘は、もともとの運動好きが高じて、このところジムに通っているんだよね。で、体を動かすことにハマっちゃって、どんどんこう、活発というか、なんというか。
「今日は肉食べたいな、ア、違った、今日もだった!ぎゃはは!!!」
動くようになって、ますます食欲が増して!!!相当食費を、圧迫!!圧迫!!!
「僕も食べたい。」
息子までもが、筋トレにはまって相当、食費が!食費が!!!
「お父さんも食べる―!!」
旦那は相変わらずでかい体で、食い放題、増量中で!!!
私なんかいつも腹八分目食べることができたらいい方なのにさ!!
私だってたまには腹いっぱいおいしいもん食べたいのにさ!!
食べてないのになぜか太ましい一方でさ!!!
私も言霊ダイエット、やってみようかしらん…。
とにも、かくにも、ですよ。
痩せようが痩せまいが、引き締まろうがぶよぶよだろうが…いつまでたっても、エンゲル係数が高くて高くて仕方がない家庭が…ありましたとさ、という、お話です…。
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