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【読書メモ】雇用管理と企業内キャリア形成:『新・マテリアル人事労務管理』(江夏幾多郎・岸野早希・西村純・松浦民恵編著)
『新・マテリアル人事労務管理』はタイトル通り人事について一通り学ぶ(学び直す)上で適したテキストです。今回は、第4章「雇用管理」と第5章「企業内キャリア形成」から特に興味深かったポイントをいくつかみていきます。
配置転換
第4章の中の「配置転換」の項目は、石山ゼミの小山はるかさんが執筆されています。この項目は、人事としてわかりみが深い内容で、よくぞここまで配置転換の考え方を整理してかつ簡潔に書かれたなぁと感服します。このような文章を私もいつか書けるようになりたいものです。
外資にいたとき、expatを転居を伴う配転をする際、特に家族がいるケースでは非常にセンシティヴであることに驚いたことがあります。ちょっと日本企業では考えられないレベルでした。反対に言えば、日本企業では異動命令に関する企業側の権限の強さがあり、従業員側がそれを受容するというしくみがあると言えます(最近は徐々に変わりつつありますが)。
この背景として、長期雇用を前提とした包括的な(心理的)労働契約により企業の裁量が広く認められているという背景があります。そのため、配転は企業の人事権の行使としての業務命令であり、従業員側は拒否できる余地が小さくなっているわけです。他方、欧米の企業においては、「職務と勤務地を含む雇用契約が結ばれることが一般的であり、配置転換の際には雇用契約の変更と本人の同意が必要となる」(46頁)のです。
キャリア自律を活かす仕組み
次に見たいのは第5章の中にある「キャリア自律を活かす仕組み」(菅原佑香著)です。キャリア自律は意識と行動とに分けて概念の整理がなされていますが、こうした私たちの意識と行動に影響を与えるものには企業における人事制度という仕組みがあると本項では解説されています。
従業員の意欲に基づき応募ができる社内公募制や、導入率としてはまだまだ低いが、希望をより直接的に伝えて挑戦することができる社内FA制等の仕組みは、個人の意思がより尊重されやすく、個人のキャリアに対する納得感も高まりやすい。
社内公募と社内FAが仕組みとして挙げられています。特に社内公募については、提示されたオープン・ポジションに対して興味がある社員が職務経歴書あるいはそれに近いレベルのものを提示し、面接まで行う、というような運用であり、ほぼほぼ転職活動と同じようなプロセスを踏みます。そのため、社員のキャリア自律を促すのも自然なことなのかもしれません。