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【短編小説】 ~ Hvor er mit ur?~ VEJRHØJ × Takane RisouコラボレーションPR

小説あらすじ


短編小説『Hvor er mit ur?』

 東京の大学に通う浅野拓磨(あさのたくま)は2年生の8月、自分の手で腕時計を作るという信念のもと、憧れのブランドに自らを売り込み、研修生として半年間デンマークでの生活を送る事になった。デンマークという未知の世界で未だ20歳にも満たない幼い心に対して懸命に向き合い、自分なりの答えを出そうとする。
 腕時計を通して1人の青年の成長を描いた短編小説。


小説本編


 十時四十五分の飛行機で日本を発った。約十二時間の空の旅。直行便が飛んでいた為、成田空港からは比較的スムーズな移動だった___
 飛行機を降り、お気に入りのヘッドホンを外すと瞬間的に知らない言語が鼓膜を包み込む。その瞬間、自分が別の国に辿り着いたのだと実感する。大学の授業で日常会話として必要な英語を学び、大学教授の「デンマーク人は英語が上手だから大丈夫だよ」という言葉を信じて日本を飛び出した。八月某日の空は青く、澄み渡っていた。

”自分の手で時計を作りたい”

一人で国外に行くのは危ないのではないかという親の心配まで押し切れる程に、僕の情熱は国境を越えた。

 デンマークの通貨であるデンマーク・クローネをATMで入手した後、三区画分のチケットを購入し、コペンハーゲン空港から中央駅まで移動する。電車内では先ほどまでまばらに聞こえていた言葉がより鮮明に耳に入ってくる。不鮮明だった言葉の輪郭が少しずつはっきりしていく感覚だった。
 電車を降りると天井から差し込む光が眩しくて思わず瞼を瞑った。コンコースには日本でも見慣れているチェーン店が散見され、僕は胸を撫で下ろした。
 駅の近くのインフォメーションで無料の地図を受け取り、目的地までの道を歩く。見慣れない建物に珍しい車、映画の世界でしか見られない景色に思わず感動していたが、空だけはいつもと同じ様に青く澄み渡っていて、僕は目の合った雲にはにかんで見せた。
 街の方へと辿り着き、目的の場所を目にすると一気に肩の力が入った。店舗のロゴの入った看板を見て、僕は息を呑んだ。恐る恐る扉を開くと、視線が一気に集中する。
「Thank you for coming all the way,Takuma!」
遠くのデスクから声が聞こえ、僕は慌てて教授から渡された自動翻訳機をカバンから取り出す。それでも、機械越しでなくとも自分の名前を呼ばれた事と歓迎してくれている事くらいは自然と理解が出来た。
「今日から半年間お世話になります、浅野拓磨(あさのたくま)です」
覚えたての慣れない英語で僕が挨拶をすると、奥の方から声が聞こえた。そしてすぐに自動翻訳機が反応をする。
「ようこそ、タクマ。日本からの長旅お疲れ様。そして、今日から僕たちは一緒に働く仲間だ。よろしくね」
声の聞こえた方向に視線を移すと、そこには僕の憧れの人が笑顔でこちらを見つめていた。

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