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13歳の本棚、 思春期の心を覗く
イギリスで暮らし始めて、随分と経ちました。
南イングランドの小さな歴史深い町の小さな家で、本に囲まれて暮らしています。近所を流れる小川沿いの小道は、英国詩人ジョン・キーツが歩いた道。そのまま街へ向かえば、大聖堂に入る手前で、英国を代表する女流作家が最後を迎えた家が、ひっそりと在りし日のままの姿を残しています。
英国で、イタリア人の夫と日本人の私との間に生まれた娘を育てて来ました。このエッセイは彼女が13歳の頃に彼女の本棚を覗きながら、考えた事を書いたものです。
小さな町の小さな家族の多言語子育て
娘の本棚にたどり着く前に、少々、我が家の語学的背景を。
イギリスのこの小さな町で生まれた娘を、私達夫婦は、日本語とイタリア語と英語で育てて来ました。母国語は日本語で。
幼い時の娘は、極端にシャイなママっ子。
夫も出張ばかりの、基本、母子家庭。
双方の家族から離れて、異国の地で子育てをした、自然の結果でした。
ちなみに、ロンドンにある補習校と呼ばれる、土曜日の日本人学校に行かせることは断念しました。週末にロンドンに通うのは、地理的に厳しかったし、思いっきり子供時代を遊ばせたかったから。
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機会があれば、また数々のドラマがあった学校話を語ってみたいと思います。
とにかく娘は、3歳から、スウェーデン人の経営していた森の幼稚園に通って、1年中、雨の日も雪の日も、防水ツナギを着て、森の中で、泥だらけになって遊びました。
日本で、幼稚園に少々通う機会もあり、地元の英国国教会の小学校に行くのは、最終的に2年遅らせることになりました。
のびのびとした子供時代には、「小学校の勉強の遅れを数年かけて少しずつ取り戻す」という代償が付いて来ました。
夫は6ヶ国語を話します。日本語は、その中に含まれていません。
娘は現在、両親の母国語と英語以外は、フランス語が日常会話程度。
そして、ドイツ語も学校で第二外国語として、他の国の言葉も、趣味として
個人で勉強中です。
私は日英バイリンガル。そして、イタリア語は日常会話程度。
あまり話せないほうが逆に、イタリアの義理の家族との関係が、上手くいくことに気が付いた時、イタリア語の勉強はやめてしまいました。
そんな、多言語一家の家族が暮らす我が家は、英語、日本語、イタリア語を中心に、その他の欧州言語の蔵書で溢れかえっています。
其処に持ってきて、私の趣味の一つが製本で、古書を修復するのが好きなのです。
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娘の本棚に近ずく
娘の部屋の造り付けの棚からも、添え付けの本棚からも、本が溢れ出す勢いです。
単行本の児童書や図鑑を、客用の寝室に移動したり、人に差し上げたりもしましたが、我が家の本達の増殖速度は、かなり、速い。
そう、我が家には、近藤麻理恵さんは絶対にお呼びできない。
イギリスでも話題でした。
最近は子育て優先でお片付けは諦められたとの記事を読みましたが、きっとそれでも綺麗にされていそう。私は自然で良いと思います。
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13歳になって間もなかった頃の娘の本棚を撮影しました。
当時、反抗期がピークに差し掛かっていた娘。
母親として悩んでもいました。
11歳まで、ごっこ遊びをしていた娘。
歴史や物語の世界が大好きで、盛大にコスプレをしていたような、
可愛いだけだった娘の、両親に対する強烈な拒絶反応。
それ自体は想定内。
でも、それに伴う私自身の痛みよりまして、
彼女の苦悩を見守り、見つめる痛みは、私の想像を上回るものでした。
子供時代と青年期の狭間での苦悩。
ホルモンのバランス、身体的な変化。
日本人でもない、イタリア人でもない、イギリス人でもない。
自分が他の子供達とは、特に違うと言う自覚は、常にあったと思います。
引っ込み思案がそれに拍車をかけ、寂しい思いをしたこともありました。
そして、究極のアイデンティティークライシスが、
思春期が訪れるとともに、彼女の中で肥大化したのです。
そんな、彼女の本棚を撮影したのは、成長の記録でもあり、また、彼女の脳の中を覗いて見るような、心の有り様を垣間見るような、そんな気持ちであったのかも知れません。
アートやデザインに興味があって、模様替えが大好きな娘の部屋に入る度に、いつも、ちょっとした発見がありました。
彼女が学校に行っている間、時間が許すときには、ぼーっとそこに
座って過ごすことも。
どうやって、サポートしてあげたらいいだろう?
そして、ある日、部屋に入って、びっくりしました。
一晩で、本棚の本が全て色別に分けられていたのです。
シリーズもの、巻数の順番等は、完全無視。
言語別に整列していた本達が、ただ単に色だけで仕分けされていた。
全くロジカルではありません。
でも、そこには、私の顔に微笑みを浮かべさせる、何かがありました。
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備考
実は、クックパッドのブログにも、娘の13歳の本棚のことを写真付きで掲載していましたが、お料理中心のブログなので深くは語りませんでした。
食にもかなりこだわって、子育てをしてきました。
彼女の口に入るものが、彼女の健康な心と体を作るという信念のもと、心の栄養になるような文化溢れる食事と、身体の基本を作るような、腸の健康を意識した食べ物。
何故、腸内フローラブームが始まる以前から、私が腸の健康を気にしてきたのかといえば、それは自身の思い出すも無残な子供時代の体験からです。
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