“ネタ系音楽事典”(番外編) スティクス → 藤子・F・不二雄マンガへ連鎖 〜辞書コラム
音楽のオモシロひとこと情報辞典「荒唐無稽音楽事典(高木壮太著/焚書舎)」で遊ぶ、番外編である。
第一夜では、オアシスとエディット・ピアフを、
第二夜では、大滝詠一とチェット・ベイカーを取り上げた。
「荒唐無稽」と言うとおり、著者・高木壮太氏のセンスと毒舌解説がめっぽう楽しい。
今回は番外編ということで、
という、これまでと全く違う連鎖流れでお届けしたい。
❊✽❊✽❊✽❊✽❊✽❊✽❊✽❊✽
まずは恒例のお約束。
「新・荒唐無稽音楽事典(高木壮太著/焚書舎)の解説ぶりを紹介しよう。
バンドの説明、明らかに普通ではない。
★【南こうせつとかぐや姫】(バンド)
かぐや姫は求婚するプリンスたちに無理難題を出した。「ちいさな石鹸で似顔絵を描け」「24色のクレパスを手ぬぐいにせよ」「神田川に一緒に飛び込もう」などである。
★【X JAPAN】(バンド)
NHKホールには日本最大のパイプオルガンがある。レピッシュ(「パヤパヤ」で有名なバンド)のひとが借りに行ったら断られたそうだ。ところがYOSHIKIには簡単に貸した。世の中ヤンキーに優しくサブカルに厳しいという例である。
それでは本編スタート!
荒唐無稽音楽事典から紹介したいバンドはスティクスである。
70〜80年代にかけて活躍したアメリカのプログレ系ロックバンドだ。
●【スティクス 】 Styx バンド
プログレが苦手な私だけれど、当時、スティクスの『ミスター・ロボット』がベストヒットUSAで流れるたびに歓喜した。
「ドモアリガット、ミスターロボット、ドモ! ドモ!」
と挿入されるキテレツな日本語歌詞にノリまくり、盛り上がった黒歴史が甦る。
「そんなの知ーらない!」という方もぜひ、だまされたと思ってYouTubeのMVをご覧あれ。奇妙な動きや大仏みたいなロボットのお面に笑いと衝撃のひとときが……
▲YouTube:Styxチャンネルより引用
Styx - Mr. Roboto (Official Video)
ロックが迫害される近未来の曲
スティクスのアルバム『Kilroy Was Here』に収録されている『ミスター・ロボット』。
人間とロボットが共存し、ロックミュージックが排斥されるディストピアな近未来を描いた曲である。
YouTubeのMVは、まさにその世界観の映像化なのだ。
MMM(音楽道徳保護連盟)によって収監されたロックスター・キルロイが、ロボットに変装して脱獄を試みる──。
デンジャラスなストーリーながらも、MVの日本製ロボットは強面の大仏フェイスだし、ロボットのカクカクした動きや過剰演技も笑いを誘う。
こんな日本語歌詞が繰り返されるのだが、頭脳はIBM。そこだけはアメリカ製を死守したいらしい。
「ロボット社会=ディストピア世界」と結びつけるのは、SFとしては類型だ。
アシモフの『われはロボット』に始まり、行き過ぎたテクノロジーによる人類未来への警鐘は、多くのSF小説で描かれてきた。
スティクスは、それをロック・オペラ・コンセプトアルバムとして製作。
私は当時、ダサいわ〜と笑っていたけど、そこは荒唐無稽音楽事典の解説に共感だけど、それより多くの人にカッコイイと支持されたからこそ、83年・全米チャート第3位に輝いたんだろうな。インパクトのデカさもあったと思うんだけど。
とにかく……
80年代ってすごくヘン。それでいてめちゃオモシロい。
日本にはユートピア的近未来のロボットがいるゾ
『ミスター・ロボット』では日本製ロボットと共存するディストピア世界が描かれているけれど、日本ではロボットとの関係はすごく平和。
何せ1969年から現在に至るまで、有効にして友好的ロボットが存在しているのだから。
ロボットウェルカム、ディストピアどころかユートピア全盛なのだ。
それこそが日本のロボットMVP、ドラえもんである。
22世紀からやってきた未来のネコ型ロボットドラえもんは、お腹の四次元ポケットから未来の秘密道具を出してのび太を助ける。
ドラえもんの作者 藤子・F・不二雄先生の描くSFは、「すこし・ふしぎ」という定義。
SF小説の沼にドップリ浸って過ごされた先生は、作品にずっと語り継がれる「SF風現代アラビアンナイト」的な楽しさを追求された。
だからドラえもんは愛され続けているんだろうな。
大人とは共存できない哀しさ、『劇画オバQ』
ドラえもんは人間との友好的共存を描くユートピアだ。
同じ藤子マンガ『オバケのQ太郎』も、のんきで楽しい“すこし、ふしぎ”なSFである。
でもオバQはドラえもんと違い、ともだちの正ちゃんを助けるような能力は無い。むしろドジで大食い、犬が大の苦手なただのオバケ。
それでも憎めないかわいいヤツとして、長きにわたり人気を博した。
これらの作品は“居候ギャグ”という属性らしい。
ところが……
こんなお気楽な『オバケのQ太郎』だが、73年、ビッグコミックに『劇画オバQ』という後日談的スピンオフの作品が掲載されたのである。
心にチクリとくるような、ユートピアを打ち破るリアルさを伴って。
物語はオバQが15年ぶりに正ちゃんと再会するところから始まる。
劇画タッチで描かれた正ちゃんは、結婚した立派な大人。転職に悩むサラリーマンだ。
ハカセやゴジラも出てくるが、全員が世間の都合や常識に縛られ、あるいは足掻いてつまはじきにされた大人になっている。
ここからはネタばれになります
オバQは正ちゃんや仲間たちと昔を懐かしみながら楽しく過ごす。
皆が「夢に一直線なこどもの頃」に思いを馳せ、正ちゃんは会社を辞めると決心。皆も冒険する生き方をしようと盛り上がるのだが……。
次の日、妻から子どもができたと知らされた正ちゃん。夕べの決心はどこへやら、「会社で頑張るぞ」と張り切って出勤した。
その姿をじっと見ていたオバQは、黙って空に飛び立つのである。
「そうか……。正ちゃんに子どもがね……。
ということは……、
正ちゃんはもう
子どもじゃないってことだな……」
このラストシーンで、正ちゃんとオバQの生きる世界線が完全に別ものであることが提示される。
正ちゃんは現実的な私たちでもあり、オバQは理想世界の住人というべきか。
『劇画オバQ』には、SF夢物語に“現実”という冷や水を浴びせられた余韻が残る。ディストピアではないのだが、やるせない寂しさを覚えるのだ。
大人になれば無闇に夢など追いかけない。好奇心や冒険心は少しずつ封印してしまっている。
『劇画オバQ』を読むと、なにやら大事なものを捨てているかもと身につまされるのだ。
大人ってそんなことの繰り返し。
『劇画オバQ』にしみじみするのは、そういうことなんだろうな。
だから夢、追いかけてもいいんじゃない?
人生は死ぬまで「今」しかないから。
〜最後にこぼればなし〜
Qちゃんといえば「毛が3本」イメージが定着しているが、森の中でたまごから生まれたときはもっともっと毛があった。
欄外に「無料試し読み」のリンクを貼っているので、ぜひご確認のお楽しみを。
了
さて「荒唐無稽音楽事典」シリーズも今回で無事終了。
今後もおかしな事辞典を見つけたら、逸脱しながらどんどん紹介していきたいと思います。
記事中で紹介した曲の歌詞、書籍や関連記事は下の欄外に一気掲載しています。
▼『ミスター・ロボット』歌詞
▼新・荒唐無稽音楽事典 高木壮太
高木壮太氏の毒舌解説が楽しめる決定版。初版より内容バージョンアップ、文字も大きく読みやすくなっている。
▼「われはロボット」アイザック・アシモフ
“ロボット工学三原則”が示された1950年刊行のアシモフの初期のロボット短篇集。古典SFだが今読んでも遜色のない面白さ! 迷わずにコレは読もう!
ハルカ推奨、SFの基礎教養必須本★
▼『ドラえもん』『オバケのQ太郎』はシリーズ本が多いため、公式サイトからじっくり選んでの購入がお勧め
▼「オバケのQ太郎」、記念すべき「Qちゃん誕生」が掲載されている第1巻。
こちらのリンクから、無料試し読みで「Qちゃん誕生」が読める!
▼『劇画オバQ』は現在さまざまな単行本・文庫本の藤子・F・不二雄のSF短篇集に収録されている。ここではとりわけ安価な収録文庫本を紹介。藤子・F・不二雄氏の短篇は人生の必読書(ハルカ推し)
▼これまでの荒唐無稽音楽事典記事はコチラから