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母を想う⑭おとうさん、すごいよ!

亡くなった母の大好きだった人のことを以前に書きました。
さだ まさしさんです。



出勤前にいつものように父のところに寄りました。
月命日の朝でした。
いつものように朝の情報番組をつけながら、
朝食を食べる父。

その日、紹介されていたのは、日本画家の
東山 魁夷さんでした。
さだまさしと同様に母の大好きだった人です。


「東山魁夷美術館、何回も行ったなあ」


父がつぶやきます。


県境を越えて行くその美術館は思い立って
すぐに行ける場所ではありません。
それでも毎年のように行くほど母は
東山さんの絵が大好きでした。


母の認知症がわかったとき、大好きなもので
刺激をしてあげたいと思いました。


思いつくのは、さだまさし、東山魁夷
・・・呼び捨て、ごめんなさい、


「おかあさん、東山魁夷美術館に行こう!

 善光寺にお参りしてさあ、
 
 お戒壇巡りもしてこよう!」


長距離ドライブも大好きな母でしたので、
出かけることはすぐに承諾です。


美術館に着きました。
ドライブしてきたことは楽しそうですけれど、
ここが大好きな場所だ、ということは
あまり感じていないように思えました。


絵を見たらまた違うかな、と思いましたが、
前とは違い1作品1作品に足をとめることは
ありませんでした。


父の姿が見えないと心配し、
「おじいちゃん、どこに行っちゃったんだろうねえ」
と追いかけて歩いていくのです。
その姿は、今まで見てきた母とは違い、娘と
しては驚きでしかありませんでした。


母は、認知症という病気になってから、
おじいちゃん大好き人間になっていったのです。


それまでは、面倒くさがっていたこともたくさん
あったのですけれどね、


「おかあさん、
ほら、おかあさんが大好き!って言ってた絵だよ!」


「おじいちゃんが迷ってると悪いから探さないと」


「おじいちゃんは、ひとりでも大丈夫だよ、
 ゆっくり観ていこうよ」


「おじいちゃんが待ってると悪いから」


東山魁夷が負けている・・・


善光寺の仲見世通りでお蕎麦を食べました。


「おじいちゃん、迷子になったかと思って
 心配したよねえ~」


母はとっても楽しそうでした。


「美術館どうだった?」


「あ~、よかったね~」


東も山も出てこなかったのだと思います。
なんとなく合わせて話していたのだと思います。


おじいちゃんを追いかけて歩いた思い出が
どこかに残ってくれたかな、


気持ちよく朗らかに過ごせたことが大事なのだと
今はわかります。


あの頃は、もう、どうして!!??
って、もやもやしていたのですけれどね。


朝食を食べている父にあの日の母の姿を話し、

「おとうさん、すごいよ!
東山魁夷とさだまさしに勝ったんだよ」


父の目が潤んでいるのを感じましたが、
気づかないふりをした優しい娘です。。



長い結婚生活のなかではいろいろなことが
あったでしょうが、最後は気持ちで結ばれて
いた二人の姿を思うと胸が熱くなるのです。


おとうさん、すごいよ!

いや、おかあさんがすごいのか?

おとうさんとおかあさんがすごいんだね!

ということは、娘のわたしもすごいのか⁇

#なんのはなしですか











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