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母を想う⑪ひとりだけれどひとりじゃない・・お雛様の思い出

幼稚園の先生になり、一人暮らしをすることに
なりました。
30余年前のことです。
引越しは3月1日でした。
同じ県内ではありましたが、自宅からは通えず、
幼稚園近くのアパートでした。


引っ越し当日、父、母、そしてトラックを持って
いた父の友だち、4人で出発しました。
わたしは初めての一人暮らし、そして、憧れの
幼稚園の先生になれたことへの大きな期待と
不安を胸に父の運転する車に乗っていました。
新しい道路のできた現在よりも遠く、車で2時間
近くかかりました。



荷物を運びこみ終えると父たちは帰り、
母は泊まって一緒に片づけをしてくれました。
手際のいい母でした。


ここにスーパーがあるね、
文房具屋さんもあるね、
明日からの生活に心配がないように一緒に
歩いて回りました。
○○銀座と呼ばれる商店街でした。
まったくもって銀座ではありませんが・・・


翌日は幼稚園の研修で勤務日でした。
母の作った朝ご飯を食べ、「行ってらっしゃい」
と見送ってもらいました。

「おかあさんは、お昼の電車で帰るからね、
 戸締りちゃんとしてね」


おかあさん、いなくなるんだ・・・

ちょっと寂しくなりました。



幼稚園での研修という名のお手伝いは、とても
楽しく充実していました。
先輩先生は、優しくきらきらして見えました。
子どもたちは、もちろんかわいい!
毎日、この中で過ごせるのだと思うとわくわく
でいっぱいでした。



夕方、アパートに帰ります。

「ただいま」

もちろん返事はありません。

キッチンを通って、和室のふすまを開けます。

静かです。


あっ!



テレビ台に・・・

お雛様が飾ってあります。

手紙も置いてありました。


たかこそうそう、
お帰りなさい。
お仕事、疲れたでしょう。
夕飯のおかず、冷蔵庫に入れておきました。

ひとりだと寂しいかと思って、お雛様を
連れてきました。
新しい生活、体に気をつけて頑張ってください。

     おかあさんより



手紙をさがせなかったので、うろ覚えなの
ですが、こういう内容でした。



いろいろな想いが交錯してぽろぽろ涙が
こぼれました。


このお雛様は、わたしが保育園の年長組だった
とき保育園の先生がみんなに作ってくれたもの
です。
織物とニットが盛んな街で、端切れをもらっての
手作りだったと作ってくれた先生から後に
聞きました。

  (ここから数年後、一緒にお仕事することが
    あったのです!)



このお雛様を見るたびにあの日感じた
母の優しさ、温もりを想い出すのです。



結婚するときも連れてきました。
ずっとずっと一緒です。



毎年、飾るたびにあの日のアパートの光景を
思いだします。
桜餅とおひなさまシャンメリーも置いて
あったなあ、
毎年、桃の節句には五目御飯とはまぐりの
お吸い物を作ってくれたなあ、
結婚してからも作ってくれたなあ、



昨年の6月、天に旅立った母、

あの五目御飯が食べたいなあ、

「作り方、教えて」

って、もっと早く言えばよかった、、

「あなたのほうがじょうずでしょ」

と、作り方、忘れちゃったこと、上手に
取り繕っていたものね、、、




母はわたしにこんな温かいお雛様の想い出
を残してくれました。



わたしは娘にこんな想いを残してあげられるかな、



あの時の母の年齢を超えた今、母の偉大さに
こうべを垂れます。。。












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