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夏目漱石といえば元千円札紙幣の人である。日本を代表する文豪で、代表作は『吾輩は猫である』である。

「吾輩は猫である、名前はまだない。」

この冒頭はあまりに知られ過ぎている。だから、読んでもいないのに、読んだ気になっている人もいるかもしれない。

冒頭の文章における世界観や言葉のチョイスが秀逸すぎて、読了していないにもかかわらず、その文学世界を勝手に想像し、勝手に満足してしまい、読んだ気になってしまう。

ちょっとニヒルな猫の目線で語られる物語。ご主人は名前をつけてくれないけれど、自分の事をちゃんと愛でてくれている。

実は、吾輩は『吾輩は猫である』を読んだことがない。

勝手に物語を想像して読んだ気になっている。なので、今まで書いたことは、ただの想像だ。

吾輩は『吾輩は猫である』における、猫とご主人の関係について、勝手に想像したことを書いただけだ。

吾輩は『吾輩は猫である』を読んだことがないが、読んだ気になっている。

読もうともしていない。愚かなことである。

なので、ここでは『夢十夜』を紹介したい。

「こんな夢を見た。
 腕組をして枕元に坐っていると、仰向に寝た女が、静かな声でもう死にますと云う。女は長い髪を枕に敷いて、輪郭の柔らかな瓜実顔をその中に横たえている。真白な頬の底に温かい血の色がほどよく差して、唇の色は無論赤い。とうてい死にそうには見えない。しかし女は静かな声で、もう死にますとはっきり云った。自分も確にこれは死ぬなと思った。」

夏目漱石『夢十夜』より

なんて美しい文章だろう。

どんどんと物語の世界に引き込まれていく。

主人公はこの女とどんな関係なのだろうか。

この女は本当に死ぬのか。

主人公は死のうとするこの女を救うことができるのか。

『坊っちゃん』や『吾輩は猫である』のポップなイメージとはかけ離れた、幻想的で謎めいた文章。漱石の偉大さはその書き物の幅広さ、そして、一貫してうまい文章である。

美しさ、分かりやすさ、簡潔さ、心地よいリズムを備えた文章。さらに実験性に富んだ幅広い種類の物語。

そりゃ当時の若手作家は文章を学びたいし、その大きな懐に飛び込みたいわなと思う。

《あなたのものは大変面白いと思います。落ち着きがあって巫山戯(ふざけ)ていなくって、自然そのままの可笑味(おかしみ)がおっとり出ている所に上品な趣があります。それから材料が非常に新らしいのが眼につきます。文章が要領を得てよく整っています。敬服しました。ああいうものをこれから二三十並べて御覧なさい。文壇で類のない作家になれます。しかし「鼻」だけでは恐らく多数の人の眼に触れないでしょう。触れてもみんなが黙過するでしょう。そんな事に頓着しないで、ずんずん御進みなさい。群衆は眼中に置かない方が身体の薬です》

夏目漱石が芥川龍之介に宛てた手紙より

これは漱石がまだ駆け出しの芥川龍之介に宛てた手紙である。芥川は喜び励みになったに違いし、実際に文壇で類のない作家となった。

漱石、マジですごい。マジリスペクト。マジ卍。もう凄すぎて、読まなくても凄いのが分かるから、読む必要ない。

そんなわけない。

マジ凄いけど、読んだらもっと凄い。とくに『夢十夜』は最高です。是非。

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