【インクルーシブな風土】オーセンティック・リーダーシップが職場をインクルーシブに!(Boekhorst, J. A., 2015)
どんな論文?
インクルーシブな職場づくりに対して、オーセンティック・リーダーシップ(AL)が有効であることを示した論文です。
これまで、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)がインクルージョンを高めるという研究ばかり紹介してきましたが、他のリーダーシップもインクルージョンを高め得る、というのは、興味深いところです。
簡単に言えば、ALを発揮したリーダーからフォロワーが「インクルーシブな行動」を学び、その結果、インクルーシブな風土が高まる、という理論モデルを提唱しました。
理論モデルというのは、実証研究とは違い、過去の理論をロジカルにつなぎ合わせると、このようなことが言えそうだ、というモデルです。
ちなみに、ALを発揮したリーダーから、フォロワーがなぜ「インクルーシブな行動」を学ぶかというと、
ALの発揮(倫理的視点をもった行動)
⇒マイノリティに対する配慮
⇒フォロワーがリーダーをロールモデルとし、
マイノリティに対する配慮(インクルーシブな行動)を学ぶ
⇒他者を受け入れるインクルーシブな風土が高まる
といった流れが、過去の理論を紐解くと説明できるようです。
以下がモデル図です。
オーセンティック・リーダーシップとは?
オーセンティック・リーダーシップとは、深い自己認識,内面化された倫理的視点,バランスの取れた情報処理,関係の透明性の4つの要素を持ったリーダーシップで、ともに働くフォロワーが肯定的な自己成長や心理的な度量を持つと共に、職場の倫理的な雰囲気を促進するリーダー行動、とされます(Luthans &Avolio, 2003;Walumba et al., 2010)。
オーセンティック・リーダーの authenticity(本物,真正さ)という言葉は、自己を知り,受け入れて,自己に対して忠実であることが重要、と言われます。大きな特徴として倫理観が挙げられます。
オーセンティック・リーダーシップという名称からは、本物のリーダーシップ、というすごそうな雰囲気が漂います。ですが、上に述べたような4つの要素を兼ね備えたリーダーシップであり、フォロワーとの関係に影響を与えるもの、という感じで捉えるのが、適切なように思います。
ロールモデルであるリーダーの示す価値観や信念に触れることで、フォロワーもその価値観に影響を受け、内在化していくプロセスは、社会的情報処理理論(Salancik & Pfeffer, 1978)というもので説明されています。
社会的情報処理理論によると、人は職場における関係性にもとづいて、職場を意味づけや態度形成するとされます。職場から影響を受けて学び、マネして行動する、という感じでしょうか。
つまり、オーセンティック・リーダーシップの要素である、「倫理性」が、同じく要素の1つである「関係の透明性」によってフォロワーによって観察され、学習され習得される、ということを、社会的情報処理理論というものを用いて説明した、ということです。
風土と文化の違い
本論とそれますが、興味深い論考がありましたので紹介します。組織風土、組織文化と何気なく使用する言葉ですが、どう違うのでしょうか。研究的な側面からその回答を提示してくれています。
簡単に言えば、風土(Climate)は、心理学的な研究にもとづき、主に定量的な手法を用いて研究され、複数の組織で採用されるもので、個人の知覚を含む概念。
一方、文化(Culture)は、人類学的なルーツを持ち、主に定性的な手法を用いて研究され、組織生活に埋め込まれた価値観や組織の前提に焦点を当てるようです。
組織に埋め込まれた価値観である文化が、組織(構造)に影響を与え、それが従業員らに「うちの職場は・・・」と解釈されるものが風土、という違いだと理解しました。以下が引用部分です。
感じたこと
これまで、インクルーシブ・リーダーシップ×インクルージョン、という関連ばかり見てきましたが、オーセンティック・リーダーシップもインクルージョンに影響を与えうる、というのは、新たな視点でした。
実証研究には至っていないので、このモデルが実際に機能するかはわからないものの、論理的には説明可能、という点も、研究上考慮に入れないと「片手落ち」(説明不足、調査不足)になると感じました。
ここで一つの疑問が湧いてきます。
「ほかにリーダーシップは、インクルージョンに影響を与えないのか?」
まだ、他のリーダーシップがインクルージョンに影響を与える、という文献は見当たっていないのですが、「見当たらない」と言い切るためにも、もう少し調査が必要そうです。(やれやれ・・・・)