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【インクルーシブ・リーダーシップ】ILが多様なチームのインクルージョン効果にプラスの影響を与える(Ashikali et al., 2022)

今回は、ILに関するチームレベルの研究を取り上げます。

Ashikali, T., Groeneveld, S., & Kuipers, B. (2021). The role of inclusive leadership in supporting an inclusive climate in diverse public sector teams. Review of Public Personnel Administration, 41(3), 497-519.

(なお、画像はなでしこジャパンへの応援の気持ちで選んだだけで、内容とは関係ありませんので悪しからず。)



どんな論文?

本研究の目的は、インクルーシブ・リーダーシップが多様なチームにおけるインクルーシブな風土をどのように促進するかを検証することです。
著者らはオランダにおける45の公共部門チームに属する293人のチームメンバーをサンプルとして定量的に分析を行い、仮説を検証しました。

文献では、多様な従業員を抱える組織では、多様なメンバーへの十分な理解と参加を支援するために、インクルーシブなリーダーシップが必要であると考えられているようです。
一方で、リーダーシップが、多様なチームにおけるインクルーシブな風土をどのように可能にするかを明らかにした研究は少ない、ということでした。

こうした背景で設定されたリサーチ・クエスチョンは、インクルーシブ・リーダーシップは、チームの多様性とインクルーシブな風土との関係をどの程度緩和するか?というものです。

研究の結果、インクルーシブ・リーダーシップは、チームの民族文化的多様性とインクルーシブ風土の間の負の関係をポジティブに緩和することが示されました。以下がモデル図となります、


チームの多様性がインクルージョンにつながるメカニズム

文献では、チームの多様性が実際にインクルーシブな風土をもたらすメカニズムを理解するためには、情報/意思決定の視点と、社会的アイデンティティ/カテゴリー化の視点、という2つの多様性に関する視点が重要であると言われます(Mor Barak et al.、2016;Van Knippenberg & Van Ginkel、2010)。

まず、情報/意思決定の観点です。チームの多様性がもたらす効果は、さまざまなアイデアを交換し、議論することや、多様なメンバーの視点が問題解決につながると考えられるため、この観点において、多様性はプラスの影響を与える、と整理されます。

一方、社会的アイデンティティ/カテゴリーの視点から見ると、グループメンバーは類似性に基づく内集団化や、非類似である対象者を外集団化し、排除(エクスクルード)してしまうことが研究されています。

さらに、その多様性が目に見えやすい、民族文化的な多様性となると、なおさら顕著なカテゴリー化が進んでしまうようです。以下、引用箇所です。

先行研究は、カテゴライズの顕著性、およびそれが集団間関係に及ぼす影響の程度は、民族文化的多様性のような目に見える人口統計学的差異についてより明白である可能性を示唆している。特定の民族文化的集団の一員であることは、他の(目に見えにくい)多様性の次元とも重なり、より容易に顕著なカテゴライゼーションを引き出すことができる、地位の違い、信念、伝統、規範、または価値観に基づく他の社会的に構築されたアイデンティティとの断層を生み出す可能性がある。

P504 訳:Deepl

このような多様性に関する2つの視点から、チームの多様性はチー ムの統合とインクルージョンにネガティブな影響とポジティブな影響の両方をもたらす可能性があると言えます(Van Knippenberg et al.2004; Van Knippenberg &
Schippers, 2007)。

多様性のますます高まる社会・企業において、ネガティブな影響を弱め、ポジティブな影響を強める施策の必要性が求められているからこそ、インクルーシブ・リーダーシップのような概念に注目が集まっていることが想像されます。


チームレベルの研究

この研究で注目したいのは、チーム単位でデータを取る、チームレベルの研究である点です。職場における個々人のアンケート回答の平均ではなく、チームごとの平均値をとり、多様性の高いチームとそうでないチーム、両方のチームにおけるインクルーシブな風土の違いを見ています。

こうしたチームレベルの研究を行うためには、ある程度のチームの数をサンプルに含める必要があります。また、調査会社に依頼してのアンケートでは、不特定多数の協力者による回答のため、チームレベルでの回答収集は難しく、ハードルの高い調査です。

また、チームにおける人数もある程度必要です。今回の研究では、チームを分析に含めるための最低基準値を、1チームあたり少なくとも3人のチームメンバーからの回答を得る、と設定したようです。

今回の調査においては、アンケートに回答したメンバーが3人に満たなかった14チームは分析から除外され、結果として、本研究に使用されたサンプルの合計には、45チームに属する293人のチームメンバーとなりました。先行研究では、個人レベルの分析でもチームレベルの分析でも独立した因子の数を考えると、これは十分なサンプル・サイズと考えられるようです(Field, 2009; Hox,2010)。

しかし、妥当性検証の結果、インクルーシブな風土とリーダーシップの構成要素が多次元的であることが示されましたが、チームレベルのサンプルサイズが小さかったために、潜在的な概念や明確な次元の影響を検証することはできなかった、とのことです。

(チームレベルの研究を行う際のサンプルサイズをある程度確保するのは、簡単ではないですね・・・)


感じたこと

最近では、データを何度かに分けて取得する縦断研究や、個人レベルの概念とチームレベルの概念の影響関係を確認するマルチレベルの研究などが増えてきているようです。

今回の研究のように、チームの多様性の状況によっても、インクルージョンの度合いや効果が異なってくることを踏まえると、今後は、「チームにおけるどのような多様性」が、インクルージョンに与える影響の違いなどが研究されるのかな、と感じました。


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