【インクルーシブ・リーダーシップ】ILがジョブクラフティングに有効①(森永, 2023)
今日から2回に分けて、インクルーシブ・リーダーシップがジョブクラフティングに有効、という研究を紹介している学術本を紹介します。
多々お世話になっている森永先生渾身の書籍であり、学術本でありながら、とても読みやすいのでお勧めです。(森永先生曰く通称「黒本」)
どんな書籍?
従業員のやりがいを引き出すためのマネジメントの重要性・有効性を指摘すべく、さまざまな研究結果にもとづいて書かれた書籍です。
書籍の文言を借りれば、「組織成員が多様化し、その多様な価値観や知識を活用することが求められる現状に、マネジメントする側も、される側も、上手に適応できていない」という状況が、従業員のやりがいが十分に引き出せていない要因だと指摘しています。
この書籍は、大きく2部構成で構成されています。
第一部では、従業員の仕事に対するやりがいを引き出すために、どのように職務設計を行うとよいのか、というテーマで様々な研究知見を紹介しています。
第二部では、自発的行動であるジョブ・クラフティングをどのように促すことができるのか、という点を、組織の人事施策と管理者のリーダーシップ(インクルーシブ・リーダーシップ)による間接的影響から主張しています。
投稿では2回に分けて記載します。
1回目(本稿)では、本書の特徴や、ジョブ・クラフティングを捉える観点(パースペクティブ)などについて記載します。
2回目では、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)とジョブ・クラフティングの関連性を調査した研究結果(第6章と第7章)をご紹介します。
ジョブ・クラフティングを捉える2つのパースペクティブ
著者は、Wangらの整理をもとに、JCを語る際の2つのパースペクティブを紹介しています。
1つ目が、この概念を提唱したWrezeniewski & Dutton(2001)による、「個人が自らの仕事のタスク境界もしくは関係的境界においてなす物理的・認知的変化」を指すものです。
記事やWEBで見るJCの多くは、どちらかと言えばこちらのパースペクティブに則ったものが多いように思います。
①タスクを工夫して変えるのか、②関係性を変えるのか、それとも、③仕事に対する認知を変えるのか。これらの3点をJCの実践と呼ぶ、という立場の方が多い印象です。
著者は、こちらを「役割ベース」のアプローチと整理し、仕事の意味の変更や、仕事に対するアイデンティティの変更といった効果をもたらすもの、と整理しています。
そして、2つ目が、後発のTims & Bekkar(2010)です。こちらは、伝統的なHR関連の理論である、仕事の要求度ー資源理論(JD-Rモデル)にもとづいたもので、「職務上の要求や職務上の資源と個人の能力およびニーズとのバランスを取るために、従業員が行いうる変化」とJCが再定義されています。
※JD-Rモデルについてはここでの紹介は割愛します。ググると沢山出てくるのですが、修士時代の同期である石黒さんの記事がよくまとまっているのでお勧めです。
このアプローチでは、①仕事の資源を高める、②挑戦をもたらす仕事の要求度を高める、③障害となる仕事の要求度を低める、という3次元で捉えられています。最近では、尺度開発が進んだことで定量的な研究が進み、数だけでみると主流になりつつあるようです。(ただし、著者は、どちらのアプローチに着目するかは、問題関心や目的に沿って決めるべきとしています)
また、本書の研究では、①と②をまとめて「接近型JC」とし、③を「回避型JC」と扱っています。
さらに、資源ベースモデルの特徴として、モチベーションを高める従業員の行動に研究関心を限定している点にある、という点も紹介されます。
仕事の資源を高めたり、要求したりするJD-Rモデルを活用した資源ベースモデルだからこそ、JCがワークエンゲージメントに与える影響などの説明がされやすくなる、といった面もあるようです。
感じたこと
これまで、JCについては研修でも使用するなど、理解している方だと思っていましたが、2つのパースペクティブがあり、全く異なるものを扱っていることを、この黒本を読んで初めて知りました。(これまでの書籍や論文を浅くしか理解できていなかっただけかもしれません。。。)
とある企画で、この黒本を話題とした対話に参加したのですが、その時も、「2つの定義があるとわかりにくい・・・統一してくれたら実践家としては使いやすいのに!」と述べました。
ただ、研究も、さまざまなパースペクティブがあるから発展するわけで、批判的な検討を重ねたり、過去の理論との接合を考慮した結果、枝分かれしてきたのだろうと思うと、課題に応じてうまく扱うことが大事なのかな、と思います。
(インドカレーと日本のカレーが違うようなものかもしれません。違うか。)
おまけ
実は、著者である森永先生に以前インタビューをさせていただいており、その時の記事もNoteに挙がっています。森永先生の研究に対する想いや、本書の問題意識とも通ずる「やりがい」についても語られていますので、ご笑覧ください。
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