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【ダイバーシティ】「多様性とリーダーシップ」(谷口, 2016)① 多様性における議論のすれ違いの理由とは!?

今回は、インクルージョンとセットで語られるダイバーシティについて、これまでの研究状況を整理した、以下の論文を紹介します。

谷口真美. (2016). 多様性とリーダーシップ――曖昧で複雑な現象の捉え方――. 組織科学, 50(1), 4-24.

多様性の増す中で、どのような背景で新たなリーダーシップが求められているのかがわかりやすく整理されています。なかなか読み応えのある論文のため、何回かに分けてご紹介していきます。

初回は、多様性に関する研究の歴史を紐解くとともに、多様性を捉える観点をご紹介します。多様性を語る時によくある、議論のすれ違いが起こる理由がとてもクリアに整理されている、素晴らしい内容です!

(主に、Harrison & Klein(2007)を整理した箇所となります。)

 

どんな論文なのか?

 要約をそのまま転記します。

多様性と成果の関係性、そこにおけるリーダーシップの影響過程は、あいまいで複雑である。そのため研究が少なく、いまだ実務の要請に応えきれていない。しかし、次の点で着実に研究が進んでいる。1)より精緻に現象を捉えるための方法論が洗練されている。2)多様性固有の局面を正確にとらえ、それに対するリーダーシップの影響過程が探求されている。本稿では、個人、集団(チーム)、組織レベルで、多様性と成果をつなぐリーダーシップの役割に関する既存研究を整理し、今後の研究課題を示す。

一言でいうと、

多様性と成果をつなぐ「リーダーシップ」について、個人・集団・組織レベルでの役割に関する研究を整理した論文、です。 

多様性の研究を丁寧に概括し、測定手法の変遷にも触れながら、多様性が成果に結びつくためのメカニズムとして、リーダーシップに着目し、その役割を紹介しています。


多様性、つまり、色々な属性や価値観を持った個人が集まると、意見もまと
まらず、合意形成が難しくなることは想像されます。

一方、多様な視点があると、新たなアイディアが生まれ、イノベーションにつながる可能性もありそうです。実際、創造性を高めるという研究も複数あるようです。一方、多様性が、イノベーションのような成果につながる過程やメカニズムは、あまり研究されていないようです。 

本論文の1回目として、今回は「多様性」を扱ったP4-P8を中心にまとめます。

 

多様性という概念

 

本論文によると、多様性の問題は、1960年代の公民権運動を端緒とし、雇用機会均等の対象としてのマイノリティの地位向上に焦点があてられていたようです。

1960年代や1970年代は、格差解消に向けた社会学、離職意思などの社会心理学分野の研究が多く、1980年代になって、多様性を企業価値に結び付けていく考え方に変化したようです。

 

そして、多様性の定義も、性別や年齢、人種・民族といった表層的なものから、職務経験、スキル、認知などの深層的なものに変化していきます。

これにより、多様性が単なる法的責務の対象から、競争優位といった経営課題に発展したようです。

 

一方、多様性の問題や研究が広がるにつれ、定義もあいまいになったが、Harrison & Klein(2007)は、多様性の捉え方を格差(disparity)、距離(Separation)、種類(Variety)に分けて整理しています。

Harrisonらは、以下の通り、3つの観点を紹介します。

 

  • 格差:組織や社会の不平等に焦点を当て、パワーの不均衡やマイノリティの問題に注目する。労働経済学者、社会学者の研究が多い。

  • 距離:職場や集団内の価値観の隔たりに焦点。離職やコミットメントの高低や、帰属意識に対する男女の態度の差などを扱う。組織心理学者の研究が多い。

  • 種類:知識・スキル・能力が分散していることに焦点を当てる。例えば、取締役会や製品開発チームにおいて、知識や能力がそれぞれ異なってバラバラであることが、創造的問題解決につながる、といった研究に代表される。

 

格差、距離、種類のどの観点かによって、論点が変わるとHarrisonらは説きます。

例えば、女性管理職の数値目標などは「格差」の観点ですが、一方、モチベーションが低い女性を優遇して管理職に上げるのはいかがなものか、という論調は、「距離」の観点に立っていると言えます。こうした観点の違いが、議論のすれ違いを生む、とのことです。

 

また、能力についても、依拠する立場によってとらえ方が異なるようです。

「距離」の観点に立つ社会心理学者は、男女の態度の違いによる能力の高低差は、埋めることが出来る連続変数、と捉えるのに対し、

「種類」の観点に立つ戦略論やグループダイナミクスの研究者は、メンバー間の異質性(知識・能力等の分散)に着目し、能力は高低差といった優劣づけに意味はなく、違うこと自体に価値があると捉えます。それぞれ異なるカテゴリーによって、高低関係なく、活かされる視点や考え方がある、という立場です。

 

多様性を活かすとはどのようなことか

興味深いことに、「多様性を活かす」と言っても、どの観点に立つかによって異なる姿が目指されているようです。

 

格差の観点では、少数優遇策による格差の解消がゴールであり、多様性が活かされている状態とは、格差がない社会であり、人口統計学上の分布と企業の各階層の従業員分布が等しい状態が理想。そのため、リーダーの役割は、公平な人事制度の策定を通して、分配の正当性・手続き正当性のある風土を作ること、とされています。

また、種類の観点では、知識や能力といったカテゴリーの違いを活かすことで、創造的問題解決を目指します。そのため、リーダーの役割は、カテゴリー間のコンフリクトを無くすような、タスクコンフリクトやメンバー間の情報交換のプロセスを促進することである。情報意思決定理論に基づくものとされます。

他方、距離の観点では、集団の成果にマイナスとなるコンフリクト(関係性やプロセスにおけるすれ違い)を最小化することがリーダーの役割であり、ゴールです。つまり、価値観の隔たりをなるべく無くすような、心理的安全性などを高めることもこの観点に属するでしょう。ソーシャルカテゴリー理論、類似性アトラクション理論に基づくものとされます。

 

こうした観点の違いにより、「多様性を活かす」という意味合いも違うため、リーダーの役割や期待も異なるようです。本稿の著者である谷口さんもこう述べます。

このように、観点、依拠する理論、目指す姿が異なれば、必然的にリーダーの役割に対する期待が違ってくる。それぞれの立場が、なぜ、どのように異なっているのかを把握せずにいると、議論がかみ合わず、研究と実践の進展が難しくなる。

谷口(2007)P8

 

感じたこと

Harrisonらの論考を丁寧に、細かく分析した論文である谷口(2016)を読み、インクルーシブ・リーダーシップやインクルージョンを語る際に、押さえておかなければならない重要なことを知ることができたことに、感動さえ覚えました。

これこそが、研究の醍醐味と言ってもいいかもしれません!

ダイバーシティと一言で語っても、観点の違いに気付かないまま議論を進めるから、すれ違いが起こる。すれ違いが起こるから、実践や研究が進まない。「そうか、そうだったのか!」と膝を打つ内容でした。

これは、ダイバーシティに関わる全員が知っておくべき点だと強く感じます。

多様性を活かす、という言説においても、観点の違いによって目指すものが異なり、それにより、求められるリーダーの役割も異なることも、重要な観点。

これから調査・研究を深めようとするインクルーシブ・リーダーシップが、どの観点に立脚し、何を目指すものかをクリアに整理する必要性も感じました。 

次回に続きます。


参考文献:

Harrison, D. A., & Klein, K. J. (2007). What's the difference? Diversity constructs as separation, variety, or disparity in organizations. Academy of management review, 32(4), 1199-1228.

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