【インクルージョン】リモート環境下で生まれる社会的距離が、インクルージョンにどんな影響を与える?
今回は、インクルージョンに関する旬なテーマである「リモート環境」の影響を取り上げた論文を見ていきます。
どんな論文?
この論文は、「バーチャルワーク(Virtual work)」(いわゆるリモートワーク)環境におけるインクルージョンがどのように実現されるのかを、集団におけるアイデンティティと、職場のコミュニケーションに関する研究の両面から検討し、理論モデル化したものです。
集団におけるアイデンティティと、職場のコミュニケーション、この2つに関して、社会的距離(Social Distance)の2つのタイプである「標的型」「拡散型」が、インクルージョンにどう影響するか、という以下のようなモデルを提案しています。
このモデルによると、リモート環境は、メンバー全員の社会的距離を拡げてしまう一方で、異質なメンバーに対する偏見や差別のネガティブな側面を弱める可能性がある、とのこと。
社会的距離(Social Distance)とは ※学術的文脈
コロナ禍で、「ソーシャル・ディスタンス」という言葉が流行りましたが、日本で使われた「一定の距離を空ける」という意味ではなく、学術的な文脈では、
人と人との間の共感的理解と親密さの度合いによって特徴づけられる、個々人の態度による感情的概念(Magee & Smith, 2013)
と定義されています。
言い換えると、社会的距離とは、他者と社会的にどの程度近いと感じるかという知覚的で主観的な経験であり、バーチャルワークの文献で知覚的距離(Eisenberg & DiTomaso, 2008)や心理的距離(Trope & Liberman, 2010)と表現されているものと似ている、と説明されます。
リモート環境下では、コミュニケーションが希薄化し、社会的距離を感じることが想定されます。それにより、集団との同一化が薄まり、結果としてインクルージョンが進みにくくなると考えられます。文献では、以下のように表現されています。
他方で、バーチャルワーク下での社会的距離は、バイアスやそれによる差別を低下させるといったポジティブな可能性を指摘しており、以下のような引用がなされます。
社会的距離と、異質なメンバーにとってのインクルージョンの関係
バーチャル環境だと、親密さや類似性、それによる集団の同一化は落ちるが、バイアスや差別が減る、というポジネガ両面があり、インクルージョンにも影響する、というのが著者の主張です。
本文献では、社会的距離を以下の2種類に分け、上述したポジ・ネガの効果を異なるプロセスで説明しています。
1.(異質なワークグループメンバーに対する)標的化社会的距離
2.(すべてのワークグループメンバー間のより中立的な性格の)拡散的社会的距離
標的化社会的距離は、異質なメンバーに対し、距離を置こうとする感情的態度です。一線を引いて、排除してしまう行動と言えます。
これが、バーチャル環境下では、すべてのメンバーが同様に社会的距離が増える、拡散的社会的距離と言える状態が強まります。そうすると、全員一律に距離が置かれるので、異質なメンバーの排除が弱まる、という想定がなされます。
言い換えると、バーチャル環境だと、全員に社会的距離がある状態のため、対面で会っているときほど、異質なメンバーが差別されなくなる、ということです。
※正確には、インクルージョンの社会的情緒面(帰属性)、個人的情緒面(独自性)、タスク志向性などの側面も詳細に検討されていますが、ここでは割愛します。
感じたこと
日本においても、コロナ禍を契機に、リモートワークに関する研究を目にするようになりましたが、リモート環境下におけるインクルージョンへの影響を示した文献は、調べる限り初めて目にしました。
社会的距離の考え方から、マイノリティを同一視するような視点は減るものの、一方で、一律に(拡散的に)社会的距離が生まれることから、バイアスや差別は起こりにくくなる、という打ち消し合う効果があるというのは、なかなか興味深い指摘だと感じました。
他方、グローバルなチームだと、この社会的距離はまた違って受け止められるのだろうとも思いました。物理的距離のあるメンバーとの交流が、リモート環境により身近に感じられ、むしろ距離が縮まるようにも感じます。(個人的な現場感覚ですが・・・)
リモート環境と言う旬なテーマでインクルージョンを捉える点が面白いと思いましたし、様々な文脈によって、インクルージョンの効果が変わってくることを改めて感じました。今後は、対面/リモートも考慮に入れて、インクルージョンを考えるのが当たり前になるかもしれません。。。