【ダイバーシティ】「異」と共に成長する①(山本他、2022)
今回は、書籍内容のレビューです。異文化をどう理解し、どう向き合うかについて、学術的知見をふんだんに盛り込みながらも、読みやすいトーンで書かれた書籍です。
どんな書籍?
異文化コミュニケーション教育に携わる著者たちが、「異」というテーマに関して様々な角度から分析・整理し、成長につなげるための考え方や調整法を提供する書籍です。
「異文化」というと、国同士の文化の違いをイメージしますが、著者らは、「異」という考え方で捉えると、見え方が変わると説明します。
はっきり言って、ダイバーシティに関わる人全員にお勧めしたい良書です!
どの章も、学術的見地による説得力と、事例によるわかりやすさがほどよくバランスされています。かなり重厚で読みごたえがありますが、「異」を捉える上でかなり幅広く抑えてありますし、参考書としても活用できそうです。
目次を見ていただくと、かなり包括的かつ深い内容ということが想像いただけるのではないかと思います。(序章入れて全19章)
(書き写すだけでも一苦労でした)
心理構成主義と認知的複雑性
この書籍は、大事なエッセンスがたくさん詰まっているので、何回かに分けてレビューしたいと思うのですが、その中でも、インクルーシブ・リーダーシップに関連するところとして、第四章の一部をご紹介します。
1.心理構成主義
心理構成主義は、アメリカの心理学者であるジョージ・ケリー(認知臨床心理学の父と呼ばれる)や、スイスの心理学者ジャン・ピアジェが代表的な提唱者です。ケリーは、人と環境の相互作用が「経験」として構成されていると説明します。
構成主義的な経験とは、何かをしたことがあるとか、何かの出来事に遭遇したことがあるという意味ではなく、出来事についての連続的な「解釈」、つまり、「意味を生成する」ことが必要で、ただその場に居合わせただけでは経験したことにならないようです。
ものごとを浅くて一面的な理解でしか解釈できない、つまり経験できない状態は、異文化に対面するとよく起こります。
例えば、新しい会社(=異)に転職したときなどは、何がどういう理屈や秩序で動いているかわからない。しかし、ある程度時がたつと、システムや暗黙のルール、仕事の仕方など、その会社でのリアリティがどう構成されているかわかり、メンバーとしての感覚が育ちます。
学習の側面から見ると、「正統的周辺参加」と呼ばれ、コミュニティの文化の中で学びが起こっていくと言えます。こうして、人と環境における相互作用を通じて、経験としての意味形成が起こっていくプロセスを経て、自分の見方という主観的に現実を構成するレンズが養われる、と説明されます。
これまでとは異なる文化に飛び込むときには、新しい文化でのリアリティを学び、意味を見出していくことで経験となり、異文化の視点を得ていく(異文化の文脈によるカテゴリー化)、という言い方が出来るかと思います。
2.認知的複雑性
筆者は、「異」や異文化に触れると、まずは大まかなイメージやカテゴリーで捉えようとするものの、それでは物事を単純にしか理解できず、ステレオタイプやイメージの固定化が起こりやすい、と説明します。(例えば、インド人は皆カレーを食っている、など)
そこで、認知的複雑性が重要になるようです。
認知的複雑性とは、同時に複数の解釈枠組みを利用できることを指します。例えば、他者を表現するとき、「背が高いー低い」、「積極的ー消極的」「高学歴ー低学歴」「日本人ー外国人」等の軸で捉えます。人によっては、学歴の軸で見る発想のない人もいれば、学歴でしか見ない人もいます。
他者や物事を見る際に、さまざまな軸を利用し、一つの見方にとらわれずに様々な切り口からの解釈と再解釈を繰り返し、多面的で複雑な経験ができるとき、認知的複雑性が高い、と表現します。
逆に、認知的複雑性が低いと、なじみのある限られた軸でしかものを見ることが出来ず、他者にとってもそれが現実のすべて、といった自文化中心的な発想になりやすい、という状況に陥るようです。
このように、認知が現実を構成する、という立場こそ、心理構成主義です。だからこそ、認知的複雑性を高めることで、ステレオタイプに陥らず、他者を多様な観点で見られるようになる、とのこと。
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ちなみに、Randel et al.(2018)によると、認知的複雑性は、インクルーシブ・リーダーシップに影響を与える要因(規定要因)と言われます。認知的複雑性が高いと、インクルーシブ・リーダーシップも高い、ということです。
Randelらは、その理由を上述の認知的複雑性の説明から論じています。すなわち、認知的複雑性が高いと、さまざまな人の多様な側面を捉えて、その人を理解することが出来る。そうすると、他者をインクルードする際の観点がより多様になるので(=強み、専門性、特徴などから、他者を承認したり、尊重できる)インクルーシブ・リーダーシップがより発揮されやすい、とのことです。
(ここで、自分の研究領域とつながります!)
感じたこと
この書籍を読むまでは、認知的複雑性の理解が浅く、「複雑なことを認知できる力」と捉えていたのですが、この本に出会うことで、認知的多様性とは、多様性を理解し、受け止め、尊重するための重要な特質であり、インクルーシブ・リーダーシップの発揮に欠かせない要素だと理解できました。
心理構成主義や認知的複雑性が、ダイバーシティ・マネジメントの文脈でも重要だと感じます。以下、該当箇所を引用します。
言い換えると、認知的複雑性をもってマイノリティをとらえ、ダイバーシティ促進の取り組みをしている人や、その大事さをわかる人でも、自分のこれまで生きてきた現実との葛藤が生じると抵抗する、と言えます。
ダイバーシティ・マネジメントにおいては、常にこうした主観的な認知による世界観のぶつかり合いが起こる、という理解が大事だと感じました。
さらに言えば、インクルージョンが実現されるためには、認知的複雑性をもって多様性をしっかり理解し、その重要性や意味を形成できる人を増やしていかなくては、結局、世界観の衝突によりうまく行かない、という壁にぶち当たってしまうのだろうと思います。
問題の構造を一段深く理解できた(ような)気がします。
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