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【インクルーシブ・リーダーシップ】最新のIL研究②ILの境界条件とは何か?(Guo et al., 2022)

今回は、しばらくぶりに、インクルーシブ・リーダーシップの最新研究をご紹介します。

Guo, Y., Zhu, Y., & Zhang, L. (2020). Inclusive leadership, leader identification and employee voice behavior: The moderating role of power distance. Current Psychology, 1-10.

どんな論文?

インクルーシブ・リーダーシップが、従業員によるリーダーとの同一化(Leader Identification)や、思っていることを発言するといった「ボイス行動」(Voice Behavior)に与える影響や、その影響を権力格差を受け入れる指向性(Power Distance)が弱める、ということを明らかにした論文です。

文章で書くとイメージが湧きにくいので、例によってモデル図を貼っておきます。

P1305

ボイス行動(Voice Behavior)とは、単なる批判や不満の表明ではなく業務改善の意思のもとに 職場をともにする他者に対して行われる建設的な働きかけ、と定義されています(Van Dyne & LePine, 1998)。 このような「Voice行動」の例としては、職場の効率性を向上させるために現行のオペレーションの改善提案を行 う、あるいは業務遂行上重要な懸念について上司に注意を呼び掛けるといった行動が挙げられています(Liang, Farh, & Farh, 2012)。

また、リーダー同一化(Leader Identification)とは、従業員がリーダーと自分との関係を通じて、自己を定義している状態を指します。つまり、従業員がリーダーに対する認識を自己概念に取り込むことで、リーダーと同一化した、という感覚が生まれる(Sluss et al. 2012)ようです。
なお、社会的アイデンティティ理論(自分がどのような社会集団に属するかを、自己認識に含めるという考え方)に則れば、所属の欲求を満たすためにリーダー同一化が促進されるようです。

まとめると、この研究では、

①リーダーがILを発揮することで、職場の改善に向けた働きかけが高まる(ILのVoice Behaviorに対する直接効果)
②リーダーがILを発揮することで、メンバーがリーダーと自己を同一化する度合いがたかまり、それによっても、職場改善への働きかけを高める(ILがVoice Behaviorに与える影響に対する、リーダー同一化の媒介効果)
と、
③①、②に対して、権力格差を受け入れる指向性が調整する(弱める効果)ことを、定量的に明らかにしました。


権力格差(Power Distance)がILの境界条件

ある条件だと効果が上がる、という条件のことを「境界条件(Boundary Condition)」と呼びます。

今回の研究結果から、権力格差を受け入れる指向性が、インクルーシブ・リーダーシップによるボイス行動やリーダーとの同一化を弱める境界条件であることがわかりました。

「権力格差を受け入れる指向性」は、ホフステッドの6次元という、異文化理解のフレームワークを提唱し、各国比較を行った著名な研究の指標の1つに用いられています。
詳細の定義は「それぞれの国の制度や組織において、権力の弱い成員が、権力が不平等に分布している状態を予測し、受け入れている程度」です。

ちなみに、この文献は中国で編まれたものですが、中国では権力格差を受け入れる指向性が強いようです。ちなみに日本は中程度です。

出典:Hofsted Insights Japan

もう少し詳しく説明すると、

権力格差を受け入れる指向性が強い従業員は、リーダーと部下の地位の違いを認め、リーダーの指示に従うと共に、リーダーの権威を擁護する傾向があるようです。

つまり、リーダーがILを発揮し、意見を聞いたり尊重したりしようと思っても、従業員は「いやいや、上司に物を言うなんて恐れ多い」的な行動を取り、ILの有効性を弱めてしまう、という分析です。該当箇所を引用します。

パワーディスタンスの高い従業員は、リーダーと部下の間の地位の違いを認識し、リーダーから一定の距離を保ち、リーダーの指示に従うのが普通である(Zheng 1995)。彼らは、リーダーとの意見の相違を避けつつ、リーダーは自分の尊敬と信頼に値すると考え(Liang 2014)、また、リーダーに挑戦したり疑ったりするのではなく、リーダーの権威を擁護するつもりである(Burgoon et al. 1982)。また、異なる意見がある場合、対立を避けるために権威に従い、リーダーの最終決定を受け入れる傾向がある(Kirkbride et al.1991)。パワーディスタンスの高い従業員のパーソナリゼーションは、リーダーとの大きな社会的距離を生み出し(Liang 2014)、彼らとリーダーとの双方向の関係構築を妨げ、包括的リーダーシップの有効性を弱めることが示される(Zhang et al.2016) 。逆に、パワーディスタンスの低い従業員は
、組織内の階層や力の差を無視するため、リーダーとより平等にコミュニケーションをとることができ(Hofstede 2001)、リーダーは彼らのニーズをより明確に理解できるため、リーダーとメンバーの友好的な関係を形成し、包括的リーダーシップの有効性を促進する(Zhang et al. 2016)。

P1306 訳:Deepl

さらにホフステッドの6次元を詳細に知りたい方は、こちらのサイトがわかりやすいのでどうぞ。

この文献では、示唆として次のように述べています。

「組織は組織文化を構築する際に、平等性(Equality)を考慮する必要があります。すなわち、組織の意思決定に参加し、自らの意見を表明する機会は、誰もが平等に与えられていることを従業員に認識させるとともに、権力や影響力は、組織における個人の地位以外の要素から生まれると従業員に認識させることである。」

先日の投稿で公正性(Equity)について述べましたが、ここでは、平等性(Equality)という言葉が使われているのは印象的です。


感じたこと

インクルーシブ・リーダーシップが様々な態度に影響を及ぼすことが次々と研究されていますが、ボイス行動や、リーダー同一化に対して、メンバーの権力格差を受け入れる指向性が、ILの有効性を弱めてしまう、というのは興味深い発見です。

このように、境界条件を明らかにすることで、ILの有効性を高めたり、低めてしまう要素を特定して取り除くといった取り組みが可能になります。

ILに関する研究蓄積がすごいスピードで増えているので、直接的な成果要因だけでなく、こうした境界条件を明らかにするような研究が増えてきたのかもしれません。研究は新規性命!なので、新しい境界条件を見つけるのにも一苦労しそうです、、、

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