【マッチョイズム】男らしさを競う文化では、性別や競争心の違いによって消耗度が異なる?(Regina et al., 2022)
今回も、男らしさを競う文化(Masculinity Contest Culture;MCC)を扱います。MCCが感情的な消耗(Emotional Exhaustion)につながる、という論文です。
どんな論文?
この文献は、男らしさを競う文化(MCC)と感情的疲労の関係を、仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)に基づく仮説にもとづき研究したものです。競争心(Trait Competitiveness)と性別も掛け合わせて、米国企業で働く従業員494名を対象とした2時点調査を用いて調査されました。
研究の結果、MCCが感情的疲労と関連していることが示されました。また、 全体的なMCC、特性としての競争心、性別の三者間相互作用が支持され、競争心の低い男性において、最も強い正の関係が示されました。
特性としての競争心(Trait Competitiveness)とは、競争好きという特性を指します。競争的な人は、競争を好ましくないものとみなすのではなく、むしろ歓迎するため、MCCによる感情的疲労を軽減する、と予想されます。
全体として、MCCは、心理的なウェルビーイングを損なうストレッサーとして作用する可能性があり、その影響度は、性別と競争心によって異なることが示されました。具体的には以下の通りです。
男性は、競争心が高いほど、MCCと感情的疲労の関係が弱められた(つまり、MCCが高くてもあまり疲労に影響しない)
一方女性は、競争心が高いほど、MCCと感情的疲労の関係は強まった。
研究の理論的背景
なお、今回の研究では、仕事の要求度-資源モデル(JDRM; Bakker & Demerouti, 2007)と社会的役割理論(Eagly, 1987)から得た仮説により、既存のMCC文献を上記の期待に沿って前進させることである。
JD-Rモデルについては、以下のリンク先がわかりやすいかと思います。
修士時代の同期が書いたNoteも参考までに。
仕事の要求度とは、仕事のプレッシャーや情緒的負担や精神的負担などを指すものです。そして、仕事の資源とは従業員に与えられた職務上の裁量権に加えて、上司からの肯定的評価や周囲からのサポートなどといった要素を含み、「個人の資源」においては従業員が持つ楽観性やレジリエンス、自己肯定感などが考えられます。
また、研究における目的変数となっている「感情的疲労」は、感情的に過剰に発揮された、または「消耗した」という感覚によって特徴付けられる緊張です(Wright & Cropanzano, 1998)。
この仕事の要求度や、職場での競争は、感情的消耗との間に正の関係があるという過去の知見があるようです(Alarcon, 2011; Kalra et al., 2021 )。MCCは、職場における競争文化の1つであり、競争は努力を増大させる(DiMenichi &Tricomi, 2015)ことから、「仕事上の要求」とみなすことができます。
これらの研究知見から、MCC環境では、個人が男らしさを争って競争し、職場で成功することを目指し、重要な地位を失うという脅威に対処するというストレスを感じ、感情(=仕事の資源の1つ)が枯渇する可能性があります。
さらに、MCC環境では、他者を競争相手とみなすこと、あらゆる「女性的」感情を押し殺すこと、疲労困憊するまで働くこと、仕事を最優先することに関する規範があるため、競争での敗北に対処したり、弱みを見せないように感情を偽ったりするなど、エネルギーを枯渇させるような激しい感情的出来事を経験する可能性があるようです。
また、社会的役割理論にもとづくと、男性や男性らしく、女性は女性らしく、というプレッシャーが存在し、そのプレッシャーに反するとストレスを感じるようです。
つまり、男らしさを競う文化において、女性は「女性らしく」というプレッシャーに反発しなくてはならず、大きなストレスや感情的消耗を経験する、と予想されます。
結果の補足
研究では、MCCが感情的疲労につながるメカニズムとして、性別と競争心の影響が確認されました。結果、「男性」×「低い競争心」と、「女性」×「高い競争心」の場合に、MCCから感情的疲労が最も強い影響を示しました。特に前者が最も高い効果を示すようです。
「低い競争心」の「男性」は、競争したくないのに、環境や社会の期待のために競争せざるを得ないと感じている可能性があり、規定されたステレオタイプに合わせることや、男らしさの欠如を自覚させられ、感情的疲労につながるのでは、と考えられているようです。つまり、MCCの悪影響を受けやすいのがこのタイプのようです。
また、「高い競争心」の「女性」は、仕事で成功するために、男らしくあらねばならないと感じ、感情的疲労を感じるのではと説明されます。
このように、性別や競争心の有無によって、MCC環境における感情的消耗の度合いが変わることが明らかにされました。
感じたこと
MCCによるネガティブな影響として、感情的消耗の関係性や、そのメカニズムを明らかにした研究はこれまでにありませんでした。
たしかに、男らしさを競う文化が強いと疲れてしまいそうです。
疲弊度が高まると、バーンアウト(燃え尽き症候群)につながったり、生産性を減少させたりといった悪影響につながるので、注意が必要ですね。
今回の研究で注目したいのは、競争心という特性との関係です。
競争心の強い男性は、MCC環境下でもそこまで感情的に消耗しないことが示されましたが、むしろ、「男らしくて何が悪い?」「競争してなんぼでしょ」と感じるように思います。(自分も負けず嫌いなとこあるので、体感的に理解できます)
ただ、女性の場合は、「男らしさ」を競う文化だと、競争心の強い女性でも疲れてしまうようです(そうでなくてはならない、というプレッシャーがあり、自然と生まれる競争とは違うようです)。
このような、「性別」×「競争心」の影響が明らかになったのは興味深いと思いました。
一方で、「男らしさ」のみならず、「~~らしさ」というのは、押し付けられるとプレッシャーになる気がします。独自性理論によると、人はユニークな存在でありたい、という欲求を持つようなので、「~~らしさ」という当てはめは、一定程度、負担になりそうです。