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【インクルーシブ・リーダーシップ】新世代を対象としたIL研究!?(Fang et al.,2019)

今回は、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)に関する研究の中でも、「新世代(New Generation)」と呼ばれる社員をサンプルとした中国の研究をご紹介します。初めに断っておきますが、「新世代」を大きく謡っているものの、そう言いきれるのかについては疑問が残る論文です。

Fang, Y. C., Chen, J. Y., Wang, M. J., & Chen, C. Y. (2019). The impact of inclusive leadership on employees’ innovative behaviors: the mediation of psychological capital. Frontiers in psychology, 10, 1803.

どんな論文?

この論文は、中国の「新世代」と呼ばれる社員をサンプルとし(全体の回答者は351名で、新世代は225名、約64%)、心理的資本を仲介変数として、従業員の革新的行動に対するILの影響について調査したものです。

結果、ILは新世代の従業員の革新的行動と有意で、かつ正の関係にあることが示されました。
登場する概念については、それぞれ以下の通り解説されています。

心理的資本:仕事や人生に対する楽観的な態度を反映するもので(Chen and Lim, 2012)、個人のポジティブな心理的資源と動機づけの傾向を強調する
ものとされます。一般的には、希望(Hope)、楽観(Optimistism)、自己効力感(Efficacy)、回復力(Resilience)の頭文字を取って「HERO」と呼ばれたりもします。

※詳しくは、以下JMAMさんのサイトがわかりやすいかと思います。

革新的行動:従業員が企業で関連する活動を行う際に、斬新で実用的な方法を生み出し、実行すること。

※この論文では、革新的成果と革新的思考の2つの次元に分けています。革新的思考とは、従業員の仕事や生産プロセスから生まれる新しいアイデアを指し、革新的成果とは、新しいアイデアを仕事や生産プロセスに導入することによる効果を指すようです。

インクルーシブ・リーダーシップ:過去のILに加え、中国の文化における包摂性(Inclusiveness)として、「寛容さと偉大さ(tolerance and greatness)」という要素を考慮しています。

設問も他の研究におけるIL尺度を参照しつつ、独自に作られた尺度、つまり、「従業員への奨励と承認」「従業員の尊重と公正な処遇」「失敗への寛容さ」という3次元11設問で構成される尺度が使われています。


新世代社員の特徴@中国

本文献において紹介される、中国の「新世代」社員の特徴にも触れておきたいと思います。中国では、新世代社員とは、1980年代以降に生まれた人々で構成される従業員を指すようで、いわゆるMillenials とかGeneration Z以降の世代のようです。

ちなみに、参考までですが、最近はGeneration Alphaまで出ているようですね。(Zの後だから・・・?)以下のサイトから引用しました。

  • Millennials: Born 1981-1996 

  • Gen Z: Born 1997-2012 

  • Gen Alpha: Born early 2010s-2025 

文献で説明されていた中国の新世代社員の特徴をそのまま引用しますが、日本の新世代の特徴とも、感覚的には近いように思います。

新世代社員は、前世代よりも仕事に対して積極的で、仕事で学ぶ意欲と能力が強い(Li and Xu, 2013)。強い創造力を持つ新世代の社員は、規則に縛られることを好まない。彼らは、公平、公正、民主的でシンプルな職場関係
を好みます。新世代の社員は、達成志向と自己志向が強く、平等を重視し、権威を無視する傾向がある。また、新世代社員は、仕事と生活のバランスを追求するなどの働く価値観の特徴も持っています(Li and Hou, 2012)。
これらの特徴から、新世代従業員の仕事満足度や組織コミットメントが低く、離職率や職業移動率が高くなっています(Twenge et al.、2010)。新世代の従業員は、組織の公正さや正義を重視し、リーダーとの対等な関係を重
視する。彼らは、認められ、尊敬されることをより強く望んでおり、従来の人材マネジメントの手法に挑戦的である。

P3 訳:Deepl


感じたこと

まず、素朴な疑問として、サンプル351名中、225名(約64%)が新世代社員と呼ばれる社員である中、この研究は「新世代社員の研究」と言い切られている点にもやもやします。中国の研究らしいといえば、確かにそうなのかもしれませんが。。

続いて、インクルーシブ・リーダーシップの尺度を測るために独自の尺度を作り上げている点もユニークだと思います。文献では、欧米的なILが民主主義や公正性の思想に立っているのに対し、中国的なILは道徳的や修養であるとのこと。

確かに、欧米で研究されたILが「意思決定への参画を促す」ような要素を持つのに対し、「寛容さ」は、大きな心で受け入れるといった東洋的なイメージであり、勝手ながら日本的な「インクルージョン」イメージに近いもののような気もします

研究によって、さまざまなカラーがあるのだと感じ、これはこれで興味深いものでした。(どう参照するかはさておき・・・)



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