【インクルーシブ・リーダーシップ】セクハラ低減に向けたIL育成プログラムの一例を紹介(Perry et al., 2021)
久々に、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)に戻ってきました。今日紹介するのは、セクハラにILやインクルーシブな風土が有効、という文献です。
どんな論文?
この論文は、インクルーシブ・リーダーシップ(IL)、インクルーシブな風土(Climate for inclusion:CI)、セクシャル・ハラスメントなどの文献を細かくレビューし、整理することで、IL、CI、セクハラに関するモデルを理論的に示したものです。
実証的な研究というより、ILがセクハラに効くであろうロジックを理論の統合を通じて紡ぎあげたもの、と言えると思います。
以下が、著者らの考えたモデルです。
こうした理論的な関連性を示すだけでなく、ILを高める方法として、インクルーシブ・リーダーシップ開発プログラム(ILDP)の重要性を紹介しています。
ILDPは、リーダーなどの参加者が、3つの行動(帰属意識の促進、独自性の尊重、排除への対処と防止)を実証するために実際にできることを強調しています。(詳細は後述)
著者らの問題意識
セクシュアル・ハラスメントの文献をレビューした著者らによると、セクハラは権力と地位の問題であり、個人の性に基づく社会的地位や男性的アイデンティティが脅かされたときに特に起こりやすいようです。
そして、権力や地位に基づく動機と脅威によるセクハラを減らすためには、研修が一般的な戦略とのこと。
その理由のひとつとして、研修が比較的簡単に実施でき、費用対効果が高く、文書化しやすいこと、そして米国では法的に推奨され、州によっては義務化されていると紹介されています。
一方、適切な研修を行うためにも、リーダーや、リーダーの作り上げる風土の影響を明らかにすることが必要で、それこそが著者らの問題意識でした。よって、上述のようなIL→インクルーシブな風土→セクハラ低減、といった理論モデルを提唱したようです。
インクルーシブ・リーダーシップの育成プログラム
著者らが実施している、インクルーシブなリーダーを育成するためのプログラムについても触れられています。プログラムの一例として、モデルでも示された①帰属意識の促進、②独自性の尊重、③排除への対処と防止、という観点から詳述されています。以下、1つずつ見ていきます。
①帰属意識の促進
プログラムに参加するリーダーが、メンバーの帰属意識を高める方法を理解するために、参加者に他の参加者の経歴を共有せず、性別、人種、民族性などの社会的アイデンティティや、職務レベル、機能、役割などの組織的アイデンティティを見て、個人が孤立しないようグループを作ることが重要とのこと。
これにより、参加者は、組織や社会的地位に関連する先入観に影響されることなく、プログラムに参加した直後の経験に基づいた学習コミュニティを形成することができるようです。
こうして、組織や地位などの差に留意されたグルーピングや、その意図を知った参加者は、自分の職場単位での地位の違いを最小限に抑える戦略をより意図的に採用するようになり、その結果、インクルーシブな職場単位の風土が形成され、アイデンティティの脅威が軽減されることに貢献する可能性がある、と説明されます。(ほんとかいな?)
②独自性を大切にする
プログラムでは、参加者一人ひとりがプログラムにもたらす価値を理解し、本来の自分を発揮して参加することを奨励するそうです。
現場で独自性を尊重するためには、メンバーのことを知り、多様な視点を踏まえてメンバー間のコラボレーションを促進する必要があります。そのための一つの方法として、アセスメントを活用するとのこと。
アセスメントは、自分自身や仲間についてより深く知る機会や、各人が仲間との関係においていかにユニークであるかを理解する機会、それぞれの違いの補完する機会を提供する、と解説されます。
こうして把握した自分自身やメンバーのプロファイルから、どのようにグループの多様性を活用すれば目的達成できるかを特定でき、その結果、独自性を尊重した上での適材適所が実現できるとのこと。(そこまで行く?)
③排除への対処と防止
排除(エクスクルージョン、インクルージョンの逆)に対処するためには、権力や地位の違いを利用した差別的行為や、マイクロ・アグレッション(小さな差別)に常に注意を払うことが必要、とのこと。
そのため、プログラムでは、参加者に自分たちの学習コミュニティを管理する責任を与え、そのコミュニティがインクルーシブにするため、参加者に「憲章」(グラウンド・ルールのようなもの)を作成してもらうのが有効とのこと。
憲章を作成する過程で、参加者が自分たちの望む学習コミュニティを作るための発言権を持つことができ、個人やグループ全体の行動指針に対する共通の期待を確立し、コミュニティに対する責任・当事者意識を持たせられるようです。(そこまでになるだろうか)
****
また、こうした社外プログラムだけでなく、社内で内製されたプログラムも有効とのこと。ただ、社内プログラムの場合は、同じ組織内の参加者におけるパワーや地位の差、現実の権限関係に配慮しなくてはならず、どうしても現実の関係性を引きずる懸念もある、とのこと。
育成プログラム以外の方法
インクルーシブ・リーダーシップ育成プログラム以外の方法として、新たな人事制度やプロセスの活用も紹介されています。
例えば、インクルーシブ・リーダーとしての行動を促進するために、業績評価、選抜、育成、懲戒などの既存/新規のシステムやプロセスを利用し、インクルーシブな行動に対するインセンティブを与えることを検討すべきとのこと。
また、インクルーシブ・リーダーシップに関する360度評価などを、業績評価に組み込むことも提案されています。
多人数評価によるフィードバックシステムでインクルーシブ・リーダーの行動に関するフィードバックを求めることで、組織はインクルーシブ・リーダーシップを評価するというメッセージになり、インクルーシブに指導する能力への期待を示すこともできるようです。
感じたこと
インクルーシブ・リーダーシップ育成プログラムについては、少し「?」という疑問を持ちました。説明された方法を通じて、帰属意識の醸成や独自性の尊重、排除への対処に対する行動変容は生まれるのか・・・?という点については、懐疑的な面も正直あります。
仕事で人材開発を行っているから、評価が厳しいだけかもしれません。
ただし、理論的に示されたモデルを、プログラムに落とし込むという取り組みや、これを論文として世に出すという手もあるのか、という学びにはなりました。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?