【ダイバーシティ】中央集権の強い組織は、ダイバーシティ風土が低い?(Jiang et al. 2022)

今回は、行政組織における「ダイバーシティ風土」について取り上げます。

Jiang, Z., DeHart‐Davis, L., & Borry, E. L. (2022). Managerial Practice and Diversity Climate: The Roles of Workplace Voice, Centralization, and Teamwork. Public Administration Review, 82(3), 459-472.

どんな論文?

著者によると、ダイバーシティ風土(Diversity Climate)とは、組織が公式・非公式の経営慣行や組織方針において、どの程度「公正さ」や「包容力」を醸成しているかについての、従業員の認識を指すようです(Dwertmann, Nishii, and Van Knippenberg 2016)。

誤解しやすいですが、「職場の中に多様性がある」「職場で多様性が活かされる風土」ではなく、あくまで、組織が公正さや包容力を醸成しているかについての従業員の認識、ということですね。多様性を重視する組織の姿勢、とも言い換えられるかもしれません。

似たような概念に、「インクルーシブ風土(Inclusive Climate)」があります。これは、①公正な雇用施策の基礎、②違いの調和、③意思決定への包摂に対する従業員の認識を指します。もう少し、具体的な取り組みを通して、組織がインクルージョンを実現しようとする姿勢、と言えると思います。

インクルーシブ風土については、こちらの投稿でも触れております。

この論文は、ノースカロライナ州の公共施設に対するアンケートを通じて収集した「部門レベル」のデータを分析したものです。

結果としては、白人の従業員が多い職場では、職場の発言(ボイス行動)とチームワークがダイバーシティ風土を高め、中央集権的な意思決定がダイバーシティ風土を低下させることが明らかになりました。


使われている概念と仮説

ボイス行動は、度々Noteで紹介してきた概念で、業務改善の意思をもって、職場を共にする他者に対して行われる建設的な働きかけを指します。

チームワークは、よく使われる言葉の意味とあまり違いはなさそうです。論文では、「2人以上の人間が共通 の目的に向かって相互作用する力を与えるもの」(Salas et al. 1992)、「共通の価値ある目標/目的/使命に向かって、ダイナミックに、相互依存的に、適応的に相互作用する2人以上の区別できる集合」(Salas et a1. 1992, 4)という定義が紹介されています。

そして興味深いのが、「中央集権」という概念です。たしかに、行政組織だと、中央集権性が強そうな印象があります。論文では、「組織における上位の権威の所在であり、意思決定権力を集中させること」を指し、Aiken&Hage(1996)によって作られた3つの設問で測定されています。

  • 項目1:何かを行う前には、すべて上司に確認する必要がある

  • 項目2:一般的に、私の部署で自分の意思を決定しようする社員は、すぐに落胆してしまうだろう

  • 項目3:小さなことでも、最終的な回答は上の人に委ねなければならない

これらの設問から、いわゆる「忖度」に近い概念であることが読み取れます。


今回の論文では、以下のような仮説が導かれています。

仮説1:従業員に発言権を与えている公共部門の職場には、よりポジティブなダイバーシティ風土がある

→インクルーシブ・リーダーシップにも関連しますが、メンバーの意見や提案が促進され、奨励される組織だと、公正さや包容性がある、とメンバーが認識するであろう、という仮説が設定されました。

仮説2:中央集権的な公共部門の職場には、よりネガティブなダイバーシティ風土がある

→ 仮説1とは逆に、中央集権は一か所に権限を集中させるため、メンバーは疎外感を抱きやすく、公正さ・包容性が感じられないと認識される、という負の影響に関する仮説です。

なお著者は、中央集権は、階層を越えてより多くの人々が関与する分散型構造と比較して、少数の人々の手に権限を集中させることで意思決定の迅速化を狙う一方で、下位の階層で行うことができる意思決定に上層部が口を出すことを必要とするため、意思決定プロセスが遅くなることもある(Aiken and Hage 1966)、と指摘しています。

特に公的組織においては、官僚主義的で中央集権性が強いという認知が強いようです。大企業も似たような点がありそう、という肌感覚があります。


仮説3:チームワークのレベルが高い公共部門の職場は、よ りポジティブなダイバーシティ風土を持つだろう。

→ チームワークは、チーム内の内/外といったカテゴリーの最小化に寄与したり、不公平感を軽減することが期待され、公正・包容性の向上に繋がることが予想される。

結果としては、すべての仮説が支持されました。


感じたこと

「中央集権」という概念が研究されていることが新鮮でした。今回の文献の知見は、目新しさはなかったものの、古き良き大企業にも通ずる、この中央集権性が、ダイバーシティ風土にネガティブな影響がある、ということを、研究により実証したことは重要だと感じます。

研究上、なかなかX→Yという影響関係において、負の影響を見たものは多くないので、その意味で、ダイバーシティ風土を阻害し得る要素として中央集権が悪さをしている可能性が示された研究は貴重ですし、肌感覚とも一致します。

大企業病、とはよく言われますが、その病巣には、中央集権性がある気がします。上で紹介した通り、意思決定を早くするための中央集権であるはずが、下の階層における意思決定をむしろ遅らせてしまう、という皮肉な状況も、改めて学びとなりました。


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