新機軸の国語教科書掲載の物語文『ぼくのブック・ウーマン』(ヘザー・ヘンソン作)
今年度から使用開始になった光村図書の小6国語教科書に掲載された新教材「ぼくのブック・ウーマン」(ヘザー・ヘンソン作、藤原宏之訳、デイビッド・スモール絵)。
よい作品だ。
1930年代に実在した、馬に乗って遠隔地をまわり本を届ける図書館員(Pack Horse Librarians:荷馬図書館員)を題材にした物語。その図書館員は主に女性だったそうで、ケンタッキー州・アパラチア山脈のあたりでは、Book Womanと呼ばれていたとか。今でいう移動図書館の元祖みたいなものだ。
山岳地帯、周りに人気がない場所に(おそらく)自給自足の暮らしをする9人家族が、この作品の舞台。長男のカルは、字を読めず、最初は、読書好きの妹ラークを軽蔑している。しかし、険しい山道を馬に乗って、ときには大雪のなかでさえ本を届けに来る女の人(=ブック・ウーマン)に出会って、カルは、最初は、そのたくましい馬に、次に、その勇敢な女性に、さらには、その女性が届けてくれる本というものに、興味を拡大させていく。
なかなかこれまでの国語教科書になかった趣向の作品だなあと思い、思わず元の絵本も購入(なお、さすがこの間批判してきた道徳教材とは違って、漢字の調整などはあるものの、本文の書き換えは行われていない)。原題は、That Book Woman。
何がこれまでの国語教科書掲載作品と違うか。
まず、識字や読書の大切さを物語を通して伝えているところ。読書の大切さはこれまでの国語教科書でも手を替え品を替え謳われてきたが、このように、別の時代や地域の状況、本を読むのが当たり前でない状況を描くことで、それをほんのり(=押しつけがましくなく)伝える、というのは今まであまりなかったのではないか。ある種、教科書でよくあるような読書奨励の相対化にもなる。
次に、フィクションとはいえ、今の日本とは異なる時代状況・地域の様子を知れる作品だという点。「こういう世界がある/あったのか~」というのは、読書の大切な楽しみの一つだと思うが、案外、今までの国語教科書掲載作品では、物語作品を通して、実在の時代状況・地域の様子を知れるものって、あまりなかったのではないかと思う。いや、あるにはあったのだが、それは、いわゆる戦争文学がほとんどだったように思う。この作品、「ブック・ウーマン」の仕事そのものもだけれど、1930年代アメリカの、識字や学校が当たり前でない状況、人里離れて高山で暮らす一家、こうした世界を物語を通して知れるというのは貴重だ。『大草原の小さな家』的楽しみ方ができる(と言いつつ、『大草原の小さな家』の原作は読んでおらず、テレビドラマしか観ていないのだが)。
それから、これは一昨日の空間研例会で藤原由香里さんが指摘していたことだけれど、働く女性、よりよい社会をつくるために誇りをもって仕事をしている女性が前面に出ている点。これまでの光村図書の小6物語文教材は、「海のいのち」を筆頭に、「男たちの世界」感が強かった(宮澤賢治の「やまなし」ですら、「お父さん」「兄さん」「弟」の「かに」たちだ!)。この作品、「ぼく」が憧れるのが勇敢な「ブック・ウーマン」というのも、「ぼく」に文字を教えるのが妹というのも(「何て書いてあるか、教えて」からのくだり、とてもいい)、なんだか素敵。当たり前のことだけれど、世界は男性だけでできているわけではないし、学校に通う子どもたちだって、大きく見れば男女半々なのだから。
この作品、6年生はどう読むのかなあ。字を読めないこと、読書好きの妹への反感などをどう受け止めるのだろうか。また、「あまりに高い所なので、命の気配といえば、空を飛ぶタカや、木々の間にかくれている小さな動物くらい」みたいな隔絶した自然環境での暮らしをどう受け止めるのだろうか。
実際に授業しているところを見る機会はあるかな。楽しみだ。
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