中小企業庁が指摘する「広報すらできない」残念な会社の特徴2つと広報職のありようについて
中小企業庁が発行する事業承継ガイドには、M&Aされる前に会社の資産やりくりや取り組みの透明化を通じて売却価値を上げよう、という趣旨のガイダンス項目があります。ここで指摘していることのほぼすべてが、会社の情報発信活動を阻害する要素と一致する(つまりはパブリックリレーションズがそもそもできない残念すぎる会社の体制)ので、紹介してみたいです。
ふたつの注目点
まっとうな企業に勤めている人、まっとうな判断力がある人ならば、以下にあげることのほとんどらしらけるものばかりのはずです。が、どういうわけか中小企業・ベンチャーではこういうことが「あとまわし」になりがちです。そのまま放置していると大きな機会損失になるのに。
1.会社の強みを作る(はっきりさせる)取り組み
有形資産は定義がわかりやすいですが、長年築いてきた金融機関や取引先との関係性や、職人の技術など、無形資産を発見し活用するしくみづくりも含みます。
2.ガバナンス・内部統制を整える取り組み
とくにオーナー企業の場合、資金の動きが公私混同になりがちなので、これを解消させるルールづくりと実践を行うことと、組織権限を明確にして役割分担をはっきりさせること。これらを法律に則りルール化し、従業員の地位を保証すること全般を指します。
中企庁が指摘する詳細は、それぞれで以下の通りです。
会社の強みづくり
Step1:会社の強みを定義しよう
…会社がそもそもどんな経緯で発足したのか。現在はどんな主力商品を取り扱っているのか、なぜそうなったのかという経緯をたどりながら、自分たちしかやっていないこと、自分たちにしかできないことは何か、をとにかくリスト。その中から「これは」と思うものをチョイスします。外部の視点が必要なケースが多いので、いろいろな人の目による指摘で探すことがのぞましい。
Step2:社内に創意工夫を推奨するムードをつくろう
…ワンマン社長による中小企業は、このムードを作りにくい。社長がマインドを転換し、社員の行動をひとつずつほめていくことから改善していくしかないわけですが、、、、徒弟制度型の設計事務所などは、社員をバカ扱いするので相当難しいかもしれません。
Step3:社内で取り組まれた創意工夫を評価しましょう
…ステップ2からインセンティブを作れ、ということですね。
Step4:見つけた強みを強化するため、強みに関連する事業展開をしよう
…経営コンサルタント的に出てくるのがSWOT分析やなんちゃら分析です。これをもとに事業企画を再度作りなおそう、という流れが多いですが、足元ちゃんと仕事をした社員、創意工夫をした社員をほめてもりあげることも大切なことなので、足元からできることをやればいいってことですわ。
Step5:商品やブランドイメージ、株主や金融機関との良好な関係、知財や営業上のノウハウなど無形資産の強みを強化する
…有形で明確な目標ができると、無形のものの方向性が定まってくると思うので。
ガバナンス・内部統制
Step1:会社の組織を明確にし、それぞれの職務に対する職責を明文化する
…社員をバカ扱いするとこういうことばづかいになりがちですが、ひとまずそれぞれの仕事はどういうものがあって、どんなことを期待したいか、それぞれの貢献の意味と意義をはっきりさせる必要があります。ティール型組織ではこれらを自発的に行いながら紛争解決プログラムを同時進行で作っていくものです。
Step2:経営者に組織運営の権限が集中している場合は、管理職に権限を委譲していく
…社長のコピーを作っていかないと、事業が大きくなっていくときについていけない状態になるわけで。同じサイズでこじんまりやりたい、という会社の場合も同じで、金庫の暗証番号わからん、みたいな社長が倒れたらすべてストップ、というのを避ける意味でも権限移譲は真剣に考えて実行すべきテーマですわ。
Step3:就業規則・服務規程をつくろう
…中小企業は意外とやってないことです。私用携帯電話のLINEを使うことを強要したり、交通費を支払わなかったり、経費と仕事のあいまいなところを一度線引きをするという意味でやる必要あり。さらに、従業員10人以上は就業規則作らないと法律違反だよ、ということすら知らない経営者多し。
Step4:業務の流れや指揮命令系統の流れが明確で、無駄がないよう統制する
…自分で考えなくなってしまった残念な従業員ばかりの会社の場合、さきほどリストした創意工夫の改善テーマで「自発的に仕事をする従業員に改造する」という設定をしながら、仕事のプロジェクトマネジメントの流れを整えなおし(なんたら規定でその活動を担保することも忘れずに)、権限移譲で徐々にまかせてみて、各位が「ちゃんと」仕事ができるようにするってことです。
Step5:さまざまな側面から社内の情報が集まるようなしくみを整備する
…やっとここで、広報の仕事の基本要素である「情報があつまる仕組み」が出てきます。
会社の強みとガバナンス整備をしながら、以下のことも整備する
・事業に不要な資産の処分
・むだに大きな負債をさっさと処分
・オーナーと会社の資産の線引きを明確にする(資産の貸借、社宅としての自宅、ゴルフ会員権、自家用車、交際費など)
・長期間滞留してしまっている在庫の処分
・近隣住民とのトラブル、特許侵害、労使紛争など、あらそいごとはすべて解決を図る
これらは社長の公私混同のリストと、会計上だらしない社長が抱える「よくある傾向」のリストでもあります。
別の見方をすると、これらは外部からツッコミを入れ放題なポイントばかりであり、有名になればなるほど狙われる要素ばかりであり、こういう爆弾を抱えたまま情報発信をするというのがいかに危険か、ということがわかるかと。
広報担当者の視点:こういうことが未整備の会社では、仕事ができない
まず、強みがわからない場合に、アピールすべきことが朝三暮改的にコロコロかわります。これは情報の一貫性を欠くために、世間の信用を得られないばかりか不祥事の温床になります。
たとえば、高級ブランドなのに90%オフセールをやったら、定価で買った人の反発が出ますし、低価格にしか興味を示さない「別の種類の人たち」で店が埋め尽くされてしまい、フィットしない接客でトラブル多発、というようなことは典型例です。
コンプライアンス未整備は多くの会社に見られる残念な現象です。基本的なこととして、就業規則・服務規程がない、あっても積極的に開示しないなどは、従業員10人以上の会社は法令で定められた最低限の条件。中企庁もとくにこれをリストしているのは、「うっかり知らなかった」会社と「意図的に作らない」会社があまりにも多いことの証左です。
搾取の強要
ハラスメント対策や働き方の多様性に沿って、非正規や業務委託契約で搾取と取られるような契約を強要してしまっているケースもありがちです。
最近はボランティア参加をいいことにプロボノ悪用で高度な仕事に対価を支払わないベンチャー企業やNPOなども多数見受けられます。給料を人質にやりがい搾取が、私が直前まで所属した設計事務所でした。社会的に意義ある仕事をしていても、従業員の我慢の上に成り立つ社会正義はありえません。有名になればなるほど、
官公庁など行政やコンプライアンスで取引先を厳しく選別する大企業などと仕事をする機会などが増えます。
これらの未整備は大事な案件を逃しトラブルになる大いなる問題を抱えていることになります。
こういう環境下で情報発信するというのは、相手に嘘をつかなければ成り立たないことになります。プロパガンダを手助けするのは、広報パーソンとして大失格であり、自分たちのことしか考えない利己的な企業で働くことに、精神的にも、キャリア的にもひとつもいいことなどありません。
とはいえ、うっかり知らなかった、も多数
ベンチャー企業によくあるのが、急拡大でそれに伴って労働関連法規の知識がついてこれず、整備が後回しになっているケース。これは新しく中途採用で入ってきた人や業務委託契約時に問い合わせがあるたびに整備したりしています。指摘されて整備できるルールならいいですが、コンセンサスをとらなければならないものは時間がかかり、その間に人間関係や契約関係でもめる確率が高まります。
・就業規則の未整備、あるいはフィットしない内容
・働き方改革で示されている同一労働同一賃金
・残業代や休日出勤に対する給与計算
・ハラスメント対応、内部通報体制
この4つは知っているようで知らないことが多いものです。
きっかけは広報がこじあけるもの
広報担当者は調査機能を駆使して自社の体制が法令に基づいたものなのかを積極的にチェックし、課題発見を率先して行う必要があります。法務系、総務系、経理系の担当がいても、彼らは自分たちの業務範疇でしかものごとをサーチしませんし、情報検索については素人レベルです。使う側の視点に立ちやすい広報担当者が分野をまたいで調査をして、思わぬ助成金や支援制度、サービス、ルールを発見するケースは多々あります。こういったマターが他の部署のものだ、と考えている広報担当者は、自分で物事を考えることのできない残念な人です。情報発信活動を一部切り取ってそれだけやっていればいいマインドの人は、根本から考え方を改めないと、何が重要なことか、情報の上流をいつまでもつかむことができないことになりますね。
人がまっとうに働く環境整備。広報の仕事です。
広報をプレスリリース製造機、程度にしか認識できない残念な社長と社会人には、中小企業庁の指摘項目は広報の仕事じゃないよな、とかヘーキにのたまってしまうのですが、広報を実際にやる人間の立場に立ってみると、爆弾だらけの会社で情報発信なんて、「冗談じゃない」のひとことです。その視点に立てるならば、情報以前の会社環境をもっとも客観的視点で見れるのは広報ポジションをおいてほかにいないのも事実。じゃあ、動くしかないんじゃないのか?となるはずです。
就業規則を作ろうとしない会社の場合には労基署に駆け込んで指導をあおぐ(もちろんその会社名は公に登録されてしまいますけどね)。税金を支払わない会社の場合には、税務調査を誘導する手はずを整えてしまう。ハラスメントがなくならない職場では、弁護士を会社に招いてみんなに聞こえる環境で会議をする。なんてことも忖度なしでやれるはず(ブーメラン効果戦術という広報戦術論の1つの応用例です)。
できないなら広報やるな、広報雇うな
広報担当者は、調査機能を駆使して外部の情報収集をしているはずなので、何が重要か、社会から求められていることはどんなことなのか、ということを、自分たちの事業以外にも視線を常に維持している、はず。そもそも調査機能がない広報とかもゴマンといるわけですが、そういう現状はひとまず無視して、会社の情報担当とは本来、ポジティブ・ネガティブ両面での状況精査をし、必要に応じて導入を促すことを理論的ステップを通じて強行するものなのですよ。それができない広報担当者は必要ないし、その声に耳をかたむけず、ただ怒るだけの社長は情報機関を持つ資格はありません。そんな会社が情報機関を持ってもうそをリリースするしかなくなるわけです。うその手先になる広報担当者を、PR協会は全力で拒否しますよっていうのは、世界のPR機関がこぞって行動規範で表明していますし。
情報発信をするためには、気が遠くなるほどの準備が必要です。発信した内容の責任を10年以上維持できるのか?この問いに答えられない要素はまさに、中企庁が指摘する事業みがきあげの項目にフィットすることばかり。広報担当を笑顔で仕事させたい社長であるならば、あなたのしなければいけないことは話題作りではなく、ガバナンスの強化と強みの明確化、それを動かすしくみづくりなんですわ。
広報担当者。きらきら、ふわふわした話題満載にしたいなら、その10倍100倍量ある現実から目を背けるな、ってことです。それは私の担当じゃない、という上から目線・傲慢視点、こういうときだけヒラ社員視点・態度はありえない。しっかりと伝えたいという思いが本物ならば、社内のごみごみしたことに自ら足を突っ込み、解決していく覚悟が必要。次にトラブルを論破しひっぱっていくための基礎知識と行動力が必要。あなたに求められるのはプレスリリース製造機も広告デザイン力もさることながら、経営企画的マネジメント力なんですわ。情報発信後の責任を持つことはもちろんのこと、その情報が内部から出てきてまとめる一部プロセスにまで責任持ってみろと。出てきた情報を対処的にアップする仕事は、何も知らない知識ゼロのアルバイトさんでもできる情報庶務です。
グッドラック、です。
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