気のいいケーキ屋さん
うーん、これ絶品、エクセレント、三つ星、しあわせ。こんな美味いものが、世にあるのか。パリはシャンゼリゼ⼤通りのカフェで出会ったタルトタタン。
ポットごと添えられた⽣クリームをどんどんタルトのうえに流して⼝に運ぶと、 熱々の林檎に冷たい⽣クリームがぶつかり、そこへパリパリのパイ⽪が分け⼊ってくる。⾆のうえで、熱さと冷たさ、酸っぱさと⽢さがひびきあい、タルトタタンのシンフォニーが⾼らかに鳴りわたった。
パティシエ⼤桐幸介。北イタリア・ミラノで修⾏し、今は函館で菓⼦作り30年あまり。イタリア菓⼦店「チッチョ・パスティッチョ」を切り盛りしている。帰国のとき、ふる⾥で店を持つと告げると、同僚が、“気のいいケーキ屋さん”を意味するイタリア語の店名をプレゼントしてくれた。
秋、紅葉のころになると、函館近郊・七飯の林檎・紅⽟をつかったタルトタタンに挑戦してもらっている。こちらのためにだけ、歓喜の思いをいだかせる⼀台を焼いてくれるのだ。これぞ、豊かさの極みなり。