左脳的視点と右脳的視点を持つこと|マーケティングはこれだけ!コラム⑫
こんな販売状況で、そんなことやっている時間があると思っているの?
言っていることは分かるけど、まずは売上だよ。
ボリュームゾーンを狙わないと。
私が駆け出しのセールス&マーケティング担当だった時、マーケティングプランを経営層に提示して突き返された言葉です。
私のプランは、市場としてはニッチ、他社は持っていない高利益製品ラインにフォーカスするものでした。
少々時間が掛かっても、5年後には会社の利益率を押し上げる効果と次世代製品に取り組む未来志向の企業ブランディングとしてプランニングしました。
しかし、このように言われてしまったら、議論はそれでおしまいです。
この類のことは幾度となく経験してきましたが、マーケッターであれば、このような悔しい経験をしたことがあるのではないでしょうか。
マーケッターは、顧客がまだ気づいていない価値を掘り起こし、市場を作っていくことを考えます。
そういうものは、今日明日の売上にならず、経営層に聞き入れてもらえないことも多くなります。
一方、私自身が経営層に入って分かったこととしては、如何に 目の前の数字 が大事かということです。
ファイナンス上がりならまだしも、元々は営業やマーケッターとして顧客に向き合っていた人たちまでもが、経営層に入るとどうして数字ばかりになってしまうのでしょう。
売上、利益、製造原価、株価など、数字で表される指標が毎日上がってきます。優れた基幹システムのお陰でリアルタイムで把握できます。
それが会社の評価だけではなく、自らの評価に直結するため、状況が悪くなれば今すぐにでも手を打つことが必然となります。
また、ロングタームインセンティブ(LTI)と呼ばれるものや、ストックオプションなどを貰っている場合は、特に四半期ごとの業績発表と株価を意識するようになります。
経営会議においてもファイナンスに強く、ロジカルに物事を考えて判断していく能力が求められるため、数字とロジックに強い人が集まり易く、計算式が大好きになっていきます。
私自身が大手国内上場企業の経営層とやり取りしてきた中で、ファイナンスに弱く、ロジックに弱い人は殆ど見当たりません。在籍していた大手外資系企業では、この傾向はさらに強く、特に、本社側の経営層たちは数字にめっぽう強い、ファイナンス猛者たちばかりでした。
上記のことは左脳思考、右脳思考という言い方に分類することができます。
手にも右利き、左利きがあるように、脳の使い方にも右脳タイプ、左脳タイプがあるという話は聞いたことがあると思います。
左脳は論理的、右脳は直感的と言われていますが、経営者は左脳タイプ、マーケッターは右脳タイプが多いようです。この点についてはアル・ライズ、ローラ・ライズ著『マーケティング脳vsマネジメント脳』に詳しく解説されていますが、左脳タイプは言語的、論理的、分析的であり、ビジネスにおいては、ファクトをベースにロジカルかつ常識的に判断していく傾向がある一方、右脳タイプは視覚的、直感的、総合的であり、情報が断片的で多少の不確定事項があっても、未来に向けた戦略を推進する傾向があると説明されています。
左脳派の経営層にとっては、未来の計画よりも現在の株価、売上金額、販売単価、利益率、工場歩留まり率の方が確実な数字であり、ファクトになるため、優先して扱いやすい情報ソースになります。
従って、冒頭の話の通り、業績が振るわない環境下では、左脳派の経営層は目先の売上と利益を求め、人員削減、製造コスト削減に走り、値下げすることで販売ボリュームを稼ぐことを考えます。そして、商品を改善して他社より良いものを作れば売れるはずだと考えるでしょう。
そんな時に、右脳派のマーケッターが、まだ見ぬ市場開拓のプランについて、計算大好き左脳派の経営層へ熱弁していても聞いて貰えるはずがありません。
私が駆け出しのセールスマーケティング担当だったころは、自分が一番良く現場を知っていて、確実に新たな市場を作ることが出来るとばかり信じていましたが、経営的な視点がないため、受け入れられないプランを作っていたのです。
『自分のプランをボツにするなんて、経営層は何も分かっていない!』
と、思うぐらいでした。
自分自身が経営視点に立つようになって初めて、自社の経営環境を踏またマーケティングプランを作ることができるようになり、左脳的に見ても理解されるような話の持って行き方を考えるようになりました。もちろん、それでも尚、苦労は絶えませんが、昔よりも上手く立ち回れるようになったかなとは思っています。
野球選手のスイッチヒッターのように、努力をすれば器用に両利きにもなれるかもしれませんが、右脳と左脳を使い分けるというのは非常に難しいことです。
ただ、ビジネスにおいて上記のように経営層が左脳的になりやすい傾向を理解し、どのような観点で自分のマーケティングプランがジャッジされるのかを知り、それを踏まえて情報をプランニングしていくことは可能です。
つまり、左脳的な視点と右脳的な視点、両方を備えたバイフォーカルレンズを持つことが重要になります。
お読みいただきありがとうございました。