「多様性」の欠缺がもたらす組織や社会の低迷
『多様性の科学』から学ぶ多様性の大切さ
組織や社会が低迷したり、さらには凋落するのはどういうときか。
それは、画一的で閉ざされた状態だからではないのか。
今月も読書を続けていますが、特に印象に残ったのが、マシュー・サイド著『多様性の科学 画一的で凋落する組織、複数の視点で問題を解決する組織』でした。
この著作では、いかに「多様性」が大切であるかが、様々な失敗例、成功例を踏まえ論述されています。
たとえ一人ひとりの能力が高かったとしても、ひとりの見方には偏りや不完全性があり、その限界を解消できないと、イノベーションは生まれにくい。
そして、たとえ一人ひとりの能力が高かったとしても、同じような見方の人ばかり集まっては、その見方の偏りや不完全性が解消できず、集団としての限界を超えることはできず、これまたイノベーションは生まれにくい。
そして、それを解消するものが「多様性」である。
本書では、このことが、次のように述べられています。
「社会的なネットワークの中で大勢の多様な頭脳が生み出す創造力」を、集団脳(集団的知性)と定義づけています。
本書では、ルート128の衰退とシリコンバレーの発展を対比し、シリコンバレーの知の水平伝播のエピソードを紹介し、閉ざされた集団は好ましくなく、いかに多様性や横の繋がりが大切かが書かれています。
セラミックバレーはシリコンバレー、ルート128、どちらをなぞるのか
昨今、岐阜県多治見市を含む美濃焼の産地を「セラミックバレー」と呼ぶ動きがあります。
セラミックバレーが、シリコンバレーのような土地になるのか、それともルート128のように廃れるか。
「多様性」がその分岐点となると言わざるを得ません。
心理的安全性との関連性
本書では、心理的安全性の考え方との繋がりについても説明されています。
本の中で、リーダーシップのあり方として、支配型ヒエラルキーと尊敬型ヒエラルキーの2つが挙げられています。
支配型ヒエラルキーは、従属者は恐怖で支配された結果、リーダーを真似るものです。
そして、
といいます。
他方、尊敬型ヒエラルキーでは、リーダーに対し自主的に敬意を抱いてその行動を真似て、「リーダーの寛容な態度が従属者に次々とコピーされ、集団全体が協力的な体制を築いていく。」というものです(同p.156)。
これは、心理的安全性の考え方と重なり合います。
エイミー・C・エドモンドソンは、心理的安全性を、「意義ある考えや疑問や懸念に関して率直に話しても大丈夫だと思える経験」(エイミー・C・エドモンドソン『恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』p.30)と定義しています。
私は、先日、こう紹介しました。
『多様性の科学』では、新たなアイデアを出したりする必要がある場合は、支配型ではうまくいかない、といいます。
先日紹介した『「失敗の本質」と戦略思想』でも、多様性を欠いた組織の問題性や支配型ヒエラルキー、心理的安全性の欠如に通ずるものが描かれています。
その他、本書では、数と多様性の逆説、平均値の落とし穴も面白いでしょう。
色々な視点やバックグラウンドを持った人が意見やアイディアを出す、そして、自由に出し合える環境こそがイノベーションを生み出せることは明らかなようです。
そしてそれをバラバラではなく統一的にまとめていくものはなにかも気になるところです。
これについては別途、読書を進めたいと思います。
例えばこのあたり。