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18章 車椅子はもう免許皆伝です(2)


イチョウ、公的資料の受け取りに大苦戦

一方、遠く離れた娘・英子は、電話、郵送、インターネットで、スイデンの銀行等さまざまな事務手続きを開始した。そして、これから先やらなくては行けない手続きとそれに必要な書類の一覧表を作成し、イチョウに送り知らせた。各手続きは、たいてい電話1本、またはメール、郵送などで済み、便利になっていた。が、妻であるイチョウの証明書類が必要な場面が多い。イチョウは足の痛みもあり、出来るだけ外出を避けたかったが中にはどうしても郵送で取り寄せられない書類もあった。
(この後、イチョウは足を引きずって外出し、あちこちと駆け回る羽目になります)

初めに、イチョウの印鑑証明が何枚か必要であった。印鑑証明は、役所に依頼し郵送という方法で取得出来ない。正式には役所の窓口で対面し申し込む。英子は母の外出を最小限にすべく、近くのコンビニで取得する方法を調べた。
「印鑑証明は、マイナンバーを使い、コンビニにあるコピー機で出せるよ」
イチョウは、モクレン館近くのコンビニまでヨタヨタと杖を突きコピー機を操作した。何度やっても、
「このマイナンバーカードでは出来ません」
と表示された。そこで役所に電話で問い合わせた。マイナンバーカードの有効期限は切れていなかったが、コンビニ交付を利用するための電子証明書( ICチップ)の更新期限が過ぎていた。
「マイナンバーカード電子証明書の更新は、代理人や郵送では出来ません。ご本人が窓口においでくださいませ」
と電話口の説明はぴしゃり。



イチョウ役所に赴く


そこで、イチョウは、翌日、足を引きずり役所に出かける事となった。
「まずは、印鑑証明、印鑑証明」
とキョロキョロと見回し探した。かつて何度も使ったあの証明書の発行自動機は影も形も跡形もなく消えていた。
(しばらくご無沙汰した間に、世の中はすっかり変わってしまった)
しかたなしにイチョウはヨタヨタと市民課の窓口に向かった。そこで用件が2つある事を告げた。親切な係は
「初めに、印鑑証明発行からお手続きください」
と申請用紙が並んでいる記入台を指差した。用紙を記入し提出すると内容チェックしすぐに受理されイチョウはホッとした。
しかし窓口の人は、言いにくそうな表情で
「申し訳ありませんが、こちらの証明書の受取りとお会計は、少し先に見えます、前方カウンターになります」
と遠くを指し示した。しかたなくイチョウは、延々と続く長いカウンターを伝ってカニ歩きで移動した。会計の前の椅子に座っていると、すぐ名前を呼ばれ、イチョウは、受け取った印鑑証明を大切にリュックに仕舞い込んだ。

「次のマイナンバーカード電子証明書の更新手続きで終わりね」
再び、最初の親切な係のいる市民課総合案内にイチョウは戻り、2つ目の用件を話し案内された。
マイナンバーの申請窓口は広くごった返していた。たくさんの人々が椅子に座って待っている。案内係に記入した申請書を渡し窓口で待つように指示された。
(これは時間が掛かるな)
と覚悟した。しかし、多くの人は申請キャンペーンに訪れていたため、イチョウは少しの待ち時間で終わった。
「役所を回るなんて、もう2度とご免! 」
たったこれだけ用事であったが、イチョウは草臥果くたびれはててしまった。



→(小説)笈の花かご #48
18章 車椅子はもう免許皆伝です(3) へ続く






(小説)笈の花かご #47 18章 車椅子はもう免許皆伝です(2)
をお読みいただきましてありがとうございました。
2023年10月21日#1 連載開始
著:田嶋 静  Tajima Shizuka
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