見出し画像

(8)ビルマ発、分散撹乱策が始まる(2024.7改)

米国国防総省長官が、ワシントンで会見を行う。

「今年の2月前政権下でアフガニスタンにおける統治を巡り、アフガニスタン暫定政府とタリバン間で双方で協力しながら国の統治に当たる事になり、我が軍も撤退の要請に応じ、当事者同士で合意し、調印を交わしました。
しかし、調停後もタリバンは軍事力の増強を図り、わが軍撤退後のアフガニスタンでの政権奪取のスタンスを明確にしているのは、周知の事実です。率先して協定違反をしているのは、タリバンなのです。
我が国は派兵に伴う予算の確保を、議会に託しておりますが、アフガニスタンからの撤退を確定した事で、撤退後のアフガニスタンへの駐留継続や防衛代行の道を既に失っております。
つまり、タリバンは当方の撤退を最優先事項として捉え、我が軍撤退後は国を乗っ取ろうと当初から考えていたと断定せざるを得ません。
繰り返しますが、調停違反を先に犯しているのはタリバンなのです。しかし、自ずからの調停違反は棚に上げて、タリバンはアフガニスタン暫定政権とアフガニスタン軍への攻撃を加えると表明し、再び部隊を集結し、カブールへの進軍を企てております。調印後に軍備を増強し続け、このように軍事作戦を始めたタリバンに対し、我が軍の撤退後のアフガニスタンを防衛する存在がどうしても必要となります。
この段に至り、我が軍は投入を差し控えていた、東アジア圏向けのUAV32機と指示役のF15 16機をアフガニスタン防衛に投入することに決定しました。
人が搭乗する戦車や装甲車を、無人機が攻撃することに道義的・倫理的な判断で差し控えて参りましたが、相手が攻撃の意欲を顕にした以上、方針転換はやむを得ないと判断しました。
今回、アフガニスタンへのUAV投入を決定するに当たり、ビルマ軍の技術的な支援を仰いで、当地での作戦が可能となりました。ビルマ政府並びに軍の関係者の皆様に、厚く御礼申し上げます。 以上です」

長官の発言後、記者達との質疑応答の映像が世界中に流れ、世界の視線がアフガニスタン情勢に注がれるようになる。流れ的に、ビルマ政府も会見を応じざるを得なくなる。

ダフィー国防長官兼副大統領が発言する。
「アフガニスタンに対して、ASEAN軍の技術部隊と空挺支援部隊の派遣を決定しました。技術部隊は基地内に留まり、空挺支援部隊は米国空挺部隊の後方で活動いたします。また、アフガニスタンの状況を我が国が理解するため、視察団を派遣いたします。
私も加わり、現地の状況を把握するつもりです」

「これまでとは一転して、部隊の派遣を決定した理由をお聞かせください」
アジアビジョン社の小此木記者が質問する。

「タリバンという組織を我々は理解していませんでした。それはそうでしょう、ビルマと何ら関係の無い連中です。組織の規模や組織が出来た経緯ですら、私達は興味も関心も持っていませんでした。
さて、私達ビルマ共和国は多民族、多宗教ですが、仏教徒が大半を占める国家です。残念ながらミャンマー時代は仏教徒以外のキリスト教徒、イスラム教徒は主に仏教徒のビルマ族が中心となったミャンマー軍から、迫害され続けてきました。他の宗教と民族を弾圧し、排他的な政策で苦しめ続けたのです。
仏教徒以外の民族は生き残る為に、武器を取るより術が無かったのです。
イスラム教徒のロヒンギャ族は蜂起する事無く、住居を焼かれ、虐殺虐待され国を追われ、バングラディシュへと逃げ込みました。そんな酷い国だったのです。

ほんの2か月前の話です。腐った軍事政権は、自分たちの好き勝手に国を操り続けたのです。

今回、タリバンを討伐するか否かにつき、多角的に考察したのですが、旧ミャンマー軍と同じレベルの連中だと改めて認識致しました。どうやら、旧ミャンマー軍の幹部達と同じ様に、低いIQの様ですね。

他部族、他派閥を容認しない排他主義を是とし、世界遺産のバーミヤン遺跡の巨大石仏を、得意げに爆破すると、前回の政権時は時代錯誤の女性蔑視を公然と主張する等々・・既に腸が煮えくり返っているので、発言の中で不穏当な表現を使っていたら、申し訳ありません。

それでも、実際この程度の連中であるのは間違いない様です。政権の中央に据えていいはずがありません。連中が支持を集めているとしたなら、共産国の様に強圧的に民衆を従わせているだけです。事実、首都での評判は最悪です。

私自身はカレン族でカソリックですが、こうして政権に関わるようになりました。
NLD政権になって、ビルマは民主的な国家に転じたのです。共存共栄を掲げ、皆で協力して新たな国を作ろうと産声を上げたのです。

そこへ、アフガニスタンの相談を突然持ち掛けられて、消化不良どころか意味不明、構っていられないと思うのも、分かっていただけますよね?国造りの真っ最中なのに、そんな国外の大事に、臨む余力はどこにも無いのです。

しかし、引出の多さと、余力ある軍事力を持つ国は流石でした。日本人なら、意気に感じたって表現するでしょうか? 
「前線には俺たちが出る。君たちは背後を固めて、前線で戦う俺たちを支えてくれないだろうか?」と噛み砕いて言うと、こんな風に口説かれたんですよ。発展途上国の我々の身の丈にあった内容に整えて、再提案して下さったんです。我々にも納得する基準となりましたので、派遣は直ぐに決定しました。
後は派遣の理由をわが国民に理解してもらうにはどうしようか?となるのですが、相手がタリバンですからネタには困りません。

「排他主義を唱える連中を追い出し、民主国家を打ち立てようとしている国を私達も助けようじゃないか、私達も海外の組織に助けられて、今が有るのを忘れてはならない」ってね。まぁ、社会の共存共栄の海外出張版って、そんな感じです」

モリは米国の統治能力に批判し、ビルマに頼む姿勢に疑問を呈したが、国防相でもあるダフィーは、米軍との軍事力の組織・規模、あらゆるものが違いすぎる現状で、しかも“途上国”のビルマらしい格の低さを強調して、国防省長官の発言内容も、学生か、ブルーワーカーか的な言い回しを使って、米国の下僕に過ぎない存在、“ポチ”を敢えて演ずる。

米国がビルマへ訪れた際の態度は、アフガニスタン国防相への怒りだったんだなと、大統領補佐官は思い、「モリとダフィー国防相の意見は大きく異なるかもしれない。双方の間に亀裂が生じているか確認すべきだ」と“仲違い説”を米国政府内に仕掛けておく。

万事が手が込んだ偽装だ。ペンタゴンの中にはそんな偽装を元にクソ真面目に議論を交わし、無駄なレポートを作成し始める。人的な豊富さだけは圧倒的だ。しかし、日本、韓国、南ベトナム、フィリピン、イラク、そしてアフガニスタンと、概ねどの駐留のケースでは失敗している。

フィリピンは中国との関係で、再度パイプが出来たが80年代とは異なり、米中の軍事バランスは並び立つにまで至った。日韓の米国による政治支配は続いているが、中国の台頭で綻びが増えつつある。

日韓の与党が“米国との緊密な連携”を呪文の様に唱えているが、そもそもの国防が成り立たたなくなりつつある中で、呪文以下の戯言にクラス堕ちしそうな勢いだ。

そんな米国がビルマカードを新たに手にして、新ドクトリンを考えたがっているのは誰もが思い立つ。「ビルマを子飼いの部隊として活用する為に・・」 「ビルマ経済に関与する為に・・」等々だが、全て無駄、淡い夢で終わる。

超大国の米国を相手に小賢しいまでの小細工の数々を講じ、演じさせている“アドバイザー”の存在を、小此木クリムトン瑠依は知ったばかりだ。

ダフィーは役者だなぁと小此木記者が感心していると、ケンブリッジ留学時に大学の演劇部に所属し、真剣に舞台俳優を目指していたと後で知る。

また、もう一人の“役者”に、世界は驚かされるのだが、いくらなんでも風呂敷広げすぎではないか?散々途上国って自分たちを言ってたくせに、大丈夫なの?と小此木瑠依は思っていた。

***

ビルマのウィンミン大統領は、ニューヨークにある国連からワシントンへ移動し、ホワイトハウスを訪問。ペンタ大統領と会見する。米国の要請に従ってアフガンへ後方部隊の派兵を決定した、話題の後進国ビルマの代表だ。

米国流の最大級のもてなしで出迎える。また、ウィンミン大統領は「私の判断なのでまだ議会の承認を取り付けておりませんが、台湾との通商交渉と共同国防協定を締結しようと考えています」と大統領に伝えて、ホワイトハウスが騒然となる。

アフガニスタンへの追加派兵を検討する様に要求しようと思っていたのに、台湾防衛というサプライズ提案に全てが吹っ飛ぶ。

台湾問題は対中政策まで及ぶだけに、政権内で携わる人員も項目も、アフガニスタンの比では無い。米国国防総省・国務省は早速、政策会議を開いて、ビルマが台湾に駐留後の中国政府の出方を検討し始める。

「途上国ビルマの台湾への関与」というビルマ大統領の手土産は、秘中の秘として扱われる。ワシントン訪問中のウィンミン大統領も当然、触れない。米軍が嘉手納基地の最強ユニットを投じただけでタリバンが沈黙し、進軍を中止している状況を各国も注視している。

ウィンミン大統領への記者の質問も自然とプルシアンブルー製UAVに集中する。
「UAVのアフガニスタン配備が抑止力として機能しているという見方がされていますが、大統領はどのように思われますでしょうか?」

「スポーツ競技でもそうですが、戦ったことのない相手と対戦する際は念入りに準備をします。
貴国で盛んな野球では、入念に準備をしたのに、相手投手の球速を想定したのに球が予想以上に手前でホップした。球の回転数が異常で変化するカーブにバッドが追い付かない等と、初見の投手に対応できないバッター陣が三振の山を築くことがありますよね?でも、一度戦って、バッターも既に覚えているので2回り目、3回り目もしくは次戦、3戦となれば、いずれは同じ投手を攻略できる機会がやってきますよね。
プルシアンブルー社のUAVも同じです。どの軍隊も戦った事はありません。データは旧ミャンマー軍の基地を攻撃した際と国境警備中の飛行映像、それと米軍のチーム嘉手納の飛行訓練くらいです。そりゃあ、誰だって警戒しますって。私は味方で良かったとホッとしてますよ」
記者達が爆笑する。

「野球と対比され例えられたのは、非常に感銘を受けました。実に説得力が有ります。しかし、チーム嘉手納のUAVにしろ、ビルマ軍のUAVにせよ、自律型AIを実装されています。仮に米国の空軍がUAVとの初戦で大敗して、そのデータを解析して対策を講じたとします。AIは敗れた米軍が次回対策する内容を想定して、異なる戦術やフォーメーションを用意して、次戦に備えるのではありませんか?つまり、先の先を読むのです」

「それはAIに限らない話です。投手がとんでもなく曲がるカーブ以外に、温存していた落差のあるフォークボールを次戦で初めて披露して、次戦も勝利し、3戦はホップする直球とカーブとフォークを投げ分けて3勝し、気が付いたら新人なのに最多勝を獲得していた。
でも、翌シーズンはキャンプ中から対策をされて、初年度の様に勝ち星を上げられずに終わるのが殆どですよね? 
生身の人間同士であれば、対策は出来る。相手がAIを掲げてきたら、自分達もAIを採用する。もしくはAIそのものを破壊するなど、人は負けない為に様々なプランを考えるものです。仮に我々のUAVが最良であったとしても、対策がされてしまえば通常兵器に過ぎなくなるのです。

ヒーローは毎日生まれ、レジェンドだって負ける日もあります。だから球技は面白い。
一方で、兵器は、球技以上の競争の中で進化し続けてきました。剣と盾での争いから考えたら、あり得ない進化です。それも永遠に終わることは無いでしょう。各競技のレジェンドだって、寄る年波には勝てません。私はスポーツ同様に兵器にも絶対は無い、そう思っています」

UAVと対峙した軍が無いので、延々と議論が続いてしまう。それが分かっていても、記者はUAVについて情報を求める。ビルマでは野球は超マイナースポーツで、クリケットの方が盛んだ。その国の大統領が野球を持ち出した時点で、話を煙に巻くつもりでいるのを考えるべきだった。

そのシナリオをAIが書いていたと知ったら、記者達は腰を抜かすので、大統領は触れなかった。

ちゃんと場の雰囲気だけは掴んでいたのだ。

また、ウィンミン大統領はワシントンのビルマ大使館からAIによる暗号を付加した内容を本国へ送信する。送信された文書を受け取ったビルマ外務省は、台湾外交部へ送信する。

「貴国の訪問団の受け入れ準備が整いました。A案からC案までの日程案ですが当方はいずれの日程でも対応可能でございます。お会いできる日を楽しみにしております」

訪問内容は一切省かれた文面は、中国政府の知る所となる。台湾政府の中には国民党寄りの者も居れば、与党の内部には2重スパイとなっている議員も居るという。台湾政府の動向は常に監視されている・・という前提で双方でやりとりをしていた。
「台湾が訪問団をビルマに送るという情報を得た。調査のための専門チームを作れ」

***

オーストラリアを飛び立ったロイヤルブルネイ機は、台湾を目指していた。

ビルマはズーチー最高顧問の電撃台湾訪問という新手に出ようとしており、日本社会党は富山県知事と前厚労大臣を初訪台させようとしていた。オーストラリアで金森知事と合流し、オーストラリア政府首脳と会談したズーチー最高顧問は、日本の新興政党・共栄党党首で台北育ちの杜 亮磨に引率される格好で、台湾総統と会見して、ビルマへの台湾資本・・といっても大半は中華料理店だが・・進出を要請する。 実際、台湾はビルマ訪問団を既に集り終えており、日程を確定するだけとなっている。
中国資本のビルマからの撤退が加速しているので、中国の後釜を奪うには最適なタイミングだ。

また、南太平洋諸国での中国の外交攻勢にも動じずに、未だ台湾寄りのスタンスを維持しているパラオ、マーシャル諸島、ナウル、ツバルの4カ国に対して、ビルマ産農産物と石油・ガスの供給をする意向をズーチー女史が提案する。台湾との関係を維持してくれるのであれば、ビルマも支援を惜しまないという姿勢を掲げる。

特に、海面上昇で島が水没の危機に瀕しているツバルに対しては、 中国撤退後のココ諸島を代替居住地として提供したいと表明する。今まで語らなかった返還後のココ諸島の活用法に、人道的なプランを打ち出して中国を揺さぶり、煽るのが狙いだ。

「ツバルとの通商協定を中国が結ぼうと提案すらしないのは、同国が存亡の危機にあるのに手を指し伸べるつもりが毛頭ないからだ。さすが、人道的な配慮や民衆の人権を軽視している国だ。
自国に不利益となる国とは、絶対に国交を結ぼうとしない」
等と、ズーチー女史が中国をけん制しながら、テレビカメラを見据えて発言する・・というシナリオを立てた。

「ツバルの皆さんにココ諸島を是非視察して頂きたいので、中国の方々には速やかに出てゆくように訴えてまいります」とのズーチー女史が台湾でコメントすると、「無人兵器がココ諸島に再度駐留して、人民解放軍に圧力を加える?」といった憶測記事が米国メディアで報じられる・・かもしれない。

「ココ諸島をツバルに提供し、南太平洋4か国への経済支援をセットに加えて、台湾とビルマの提携関係・国防協定を包括的なパッケージの様に進める」これで、ホワイトハウスも異議なく合意した。
また、ズーチー女史は台湾議会で登壇し、議員を前に演説を行なう予定だ。同氏のスピーチライターとなったモリが作文した骨子は、次の様なものとなる。

「我々が構想・立案したASEAN軍は、台湾の皆さんの安全を補完出来うる体制を準備している段階にあると ご報告いたします。当面我が国はアフガニスタン情勢に注力せねばなりませんので、東シナ海への派遣は限定的なものとならざるを得ません。それでも陸と空ではある程度の用意を整えるつもりです。アフガニスタンにおける作戦がある程度めどが立ち次第、海洋対策を強化して台湾海峡までをASEAN軍の担当海域に加える考えでおります。近い将来、ASEAN軍を貴国で役立てていただきたいと考えております。派遣の受け入れをどうかご検討いただき、必要であればご下命下さいますよう、お願い申し上げます」
と、突然、軍の派遣に言及し、台湾の与野党議員達を喜ばせる・・という筋書きだ。

中国政府は激怒し、スポークスマンは怒りながら発言するだろうが、ビルマは国際世論を味方にして、中国が幾ら騒ごうが無視する。 そして粛々とアフガニスタンでタリバンを追いこんでゆく。「論より、証拠」中国製兵器で武装したタリバンが、実際に制圧されてゆく様を見て、中国は上げた拳の行く先に、悩むであろう。

スーチー女史が強気を維持し、中国の圧力に屈しない様に、彼女の後方で控える台湾・台北育ちの杜 亮磨と、スーチー女史の補佐官に就任した日本人元官僚山岸朱莉の存在が、日本の第三勢力の関与を示唆するかもしれない。金森 知事と越山 前大臣がスージー女史に帯同する映像が世界中に拡散し、相応の支援体制が構築されている事実を世界に知らしめるのだ・・

「米国や日本に頼らずとも、台湾防衛が実現可能なのだと世界が認識する」モリが描いたシナリオは、ウィンミン大統領の訪米時に、ホワイトハウスで既に披露されていた。米国政府内で協議し、シュミレーションを何度も実施したという。
「やってみようじゃないか」米国大統領はそう発言したらしい。

「金森知事がズーチーを伴って台湾に向かっている。どういうことですか!」中国大使が首相官邸に乗り込み、強い遺憾の意を伝え、日本政府のスタンスを改めて問いていた。
政府与党にすれば「他党の行動で、政府とは相いれない」と関与を否定するのが通例だが、訪台もアフガニスタン派兵も米国政府の了解を得ていると米側から報告を受けており、前田前外相の後任大臣の歯切れの悪さを垣間見せる映像となっていた。

また、この日はアジアビジョン社の香椎ユーリ記者のデビュー戦となっていた。アフガニスタン入りした小此木記者の後釜として、新記者の露出が始まる。
「アジアビジョンはハーフ路線なのか?」
といった誤解が生じたのも、同社ニュース番組のバングラディシュ・コックスバザールの難民キャンプでの映像に、小此木記者に加えて、平泉 杏と蜂須賀 翼の学生ハーフコンビが臨時レポーターとして登場していた。
AIアバターが主力を務める同放送局で、生身の人間が出演するのは限られており、そこにハーフ美女4人が偶然出揃ったので、ネット上が賑わっていたらしい。

また、「中学生が見た難民キャンプレポート」の主役・主演を務めた村井 彩乃も「典型的な昭和版美少女」 「可愛すぎる!」と番組視聴者が反応し、「アジアビジョン社のハーフ美女カルテット」と共に、ネットニュースを賑わせていた。 

駐日中国大使との会談を終えた外相に、記者達が群がる。
新参者のユーリ記者が遅れを取ってアタフタしている。外相を囲む記者の群れの後方で、ピョンピョンと飛び跳ねている姿が放映される。
「何か微笑ましい」「凄く親近感を感じる、鈍くささがたまらない」とコメントされる。やはり美人は“得”なのかもしれない。 

一方、台北に到着した機体からズーチー氏を先頭に金森、越山がタラップを降りると、亮磨が押し出すようにブルネイ第五王女と養女の大学生と高校生を機外に出す。続いて杜あゆみと圭吾の姉弟の次に、ニュージーランド五輪代表の3人の弟と共に亮磨が殿となってタラップを降りてくる。

機体の下では出迎えた台湾総督とズーチー女史が暫く抱擁し合っていて、互いに英語で話し合っている。金森と越山は外相を始めとする出迎えの面々と握手を交わす、その後方で養女達とモリの子供たちが手持無沙汰で居ると、勝手知ったる亮磨が3人を放置して空港内へ養女達と異母弟達を連れて行ってしまう。そんな映像を台湾メディアが放映すると、中国外交部の報道官が想定したとおりに「愚挙」「恥知らず」「ビルマ政府と日本社会党は、中国と台湾を分断する卑劣な組織」とお約束の様に罵っていた。

里帰りの亮磨はロックバンドのメンバーでもあるので、黄色い声援が飛び交い、異母姉弟の2人は亮磨に引きずられるようにして進んでゆく。その後ろから養女達が続く。

何故か亮磨用に会見場が用意されており、「半年ぶりに帰って来たぜ!」と亮磨が叫ぶと興奮の坩堝と化していた。
台湾メディアにはワイドショー的な番組があるので、そちらは亮磨の扱いが8割を占めてしまう。
北海道で今月立候補する亮磨は、北海道親善大使のノリで「夏休みは北海道においで!台北より涼しいよ」とPRしている映像が流れる。

中国語が全く分からない、異母弟妹それに養女達はカメラの多さにオドオドしているだけだった。「亮磨の妹」としてスタジオで語られているあゆみが、何故か台湾内で取りざたされる事になる。

政治的な訪台ではなく、亮磨の里帰りを合わせることで相殺するシナリオが成功したようだ。
台湾の若者が熱狂している様が政治を向いていないのは明白で、その手の映像が台湾メディアに溢れるているので中国もコメントで2の足を踏むようになる。
民衆の支持獲得が中国にも、国民党などの台湾野党にも重要で批判ばかりしていると藪蛇な状況になってしまう。

台湾で育った亮磨は民衆の反応を知っており、ギターを弾いて歌い、トークで笑わせて、集まった人々にサービス精神を発揮する。挙句の果てに、「日本で政治を学んでそれなりになって、台湾に帰ってくるからね!」と発言して、民衆を喜ばせている。

亮磨の外観は父親似で、亮磨の発言に対して、中国政府も親中の台湾野党も困惑する。

「僕個人にしてみれば、故郷台湾への関与は「内政」だ。外交をしている感覚は全く無い。確かに僕の国籍は日本だけど、常時台湾語で思考しているし、寝言だってマンダリンらしい。残念ながら僕は聞いたことないんだけどね。そんなんだから、僕のライフワークは、故郷台湾の未来を四六時中考える事だ。今回はその第一弾としてASEAN軍による支援の提案にやって来た。

合意頂ければ、直に兵力が到着するので期待していて下さい」 

そう言われると、中国寄りの野党も、杜 亮磨を強い口調で非難するわけにもいかなくなる。

台湾生まれ、台湾育ちの日本人でモリの息子・・極めてややこしい存在だった。

(つづく)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?