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【観劇レポ】これはホープフルエンド ミュージカル「next to normal」

観劇レポ、本日はミュージカル「next to normal」兵庫公演初日の感想です。

本当は去年、東京公演を遠征して観ようかと思っていたのですが、残念ながら希望日にチケットが当たらず…素直に地元関西公演で。

6人のキャストで紡がれる、とある家族の物語。結論、とっても良かったです。


久々の感覚

僕はほぼ毎月ミュージカルを観ていますが、なんか、こういう感覚は久しぶりやなぁと感じることができたのが今作。

今作は有名作品なのですが、僕は今回が初見。キャラクターの名前だけインプットした状態でしたが、それが良かった。物語が進むのとあわせて、自分の理解や没入感が深まっていくのがわかるといいましょうか。

1幕前半は正直、「え?どういうこと?」となりながら観ていたのですが、1幕中盤でその謎のキーが判明し、その後物語を読み進めながらも、頭の中で1幕前半の謎が解けていく。それがとても心地よくて気持ちよくて、物語とキャラクターの解像度がじわじわと自分の中で鮮明になる。この事前情報なしの初見特有の観劇体験。読了感ならぬ観劇了感は最高でした。

今作は、双極性障害、そしてその患者の家族というなかなか難しい題材なので、一度の観劇でそれぞれのキャラクターの背景・心情のすべてを考えることはできないのですが、完全に理解しきれない状態で観劇を終えることでの満足感もあって。

演出面では、ほぼ歌セリフなのでセリフ芝居のシーンは少なく、ミュージカルらしい感情と物語の波もありながら、どこかストレートプレイのような感覚もあり、ストレートプレイとミュージカルの両方を一気に味わったような観劇。舞台セットやキャラクターの人数がシンプルなのも、その感覚を呼び起こす1つの理由かもしれません。

僕の良くも悪くもある癖で、作品のメッセージやキャラクターの背景を考察しすぎるきらいがありますが、純粋に物語を物語の筋書き通りに楽しめたのは、久々かもしれません。

キャスト

キャストは全6名。前回はWキャストもあったようですが、今回は全員シングルキャストです。

主役であるダイアナの望海風斗さん。「ムーラン・ルージュ!」でのサティーンは残念ながら観れなかったので、「イザボー」以来。衣装やライトの影響もあるかもしれませんが、MR!やイザボーに続き、赤いイメージ。
双極性障害を患う女性の役で、「躁」ゆえのパワフルさが強い印象。鬱よりも躁が強い感じかな?だからこそ、終盤の静的な感情の揺らぎがとても印象に残る。母娘のカタルシスはあかん、泣く(泣いた)。
狂気、といいながらも、もはや彼女にとっては狂気が日常で普通。これ、どんな役作りなさったんやろう…。ミュージカルでありながらストレートプレイのような印象も感じたのは、望海さんのパフォーマンスもあるかもしれない。望海さんは言うまでもなくミュージカル畑の人やし、ご退団後もミュージカルが主だったと思いますが、キャラクターの内面を空気として纏うのが上手なのかな。とにかく良かったと言いたい。

ダイアナの息子・ゲイブの甲斐翔真くん。もしかしてまた体鍛えました?飛ぶ鳥を落としてキャッチしてもう1回飛ばしちゃう勢いのカイショーマ。今回も声、演技、動き、すべて最高ですね。あぶらノリノリですね。
アメリカのちょいワルガキのティーンエイジャーかと思いきや、衝撃の正体。え〜!!まぼろし〜!!冗談はさておき、正体がわかった瞬間から纏い放つ空気が変わった。死神のような雰囲気すらある。やっぱり次エリザするときはトート閣下挑戦?そして、ダイアナの中で作られた虚像ではあるけど、「生きている青年」という雰囲気もあり、両親に愛されたいひとりの息子の存在を感じさせる。

ダイアナの夫・ダンの渡辺大輔さん。「ベートーヴェン」ぶりかな?嫌味な弁護士から一転、エモーショナルで脆さもあって、めちゃくちゃ良かった。
狂気的な妻を献身的に支えるやさしい夫…なんだけど、彼もまた幼い息子を喪ったひとりの親なのであって、その悲しみに蓋をして、とにかく妻を支える夫を続けることでなんとか生きてきたのかな、という印象を持った。本当にゲイブと向き合わなければならないのは、実はダンだったんじゃないか、とラストシーンの表情から感じました。

ダイアナの娘・ナタリーの小向なるさん。昨年「この世界の片隅に」ではじめてお見かけして、そのお声の透明感と力強さが印象的だった俳優さん。今回も良かった。ナタリーというお役ともピッタリなんじゃないでしょうか。
狂った家族に辟易とする一方で自分も狂う(狂ってる)のではないかという不安、完璧に固執することで苦痛から逃れようとするもがき、愛されたいという子ども心。それらが思春期という時期と相まって複雑で愛おしい、そんなナタリーでした。
こんな親になりたくないと思えば思うほど、その親と自分が似ている部分を強く感じてしまう。これね〜…。感想と関係ないから割愛しますけど、めっちゃ分かるんですよね〜。ということで個人的にナタリーへの感情移入が多かったんですが、俳優・小向なるの演技力あってこそということで。

ナタリーのボーイフレンド・ヘンリーの吉高志音さん。はじめましてなのですが、声が好き。いけませんね、最近「この声好き〜」と軽率になりがち。
ダイアナとナタリーがシンクロするなか、ヘンリーもまた若かりし頃のダンとリンクしているのかな。ダイアナたち家族の物語ですが、その課題やメッセージを、作中ほぼ唯一の外部視点から浮かび上がらせるヘンリーの存在は大きい。そう思うと、ヘンリーがいう「君のパーフェクトになるよ」は、前半と後半で響きが違って聴こえるし、「Hey」の呼びかけもグッとくる。
The男らしい男性じゃなくて、むしろどちらかといえば柔和な印象ですが、こんな彼氏いたら幸せですよね。…そうか、ヘンリーを目指せばいいのか!(違う)

ドクター・マッデン役の中河内雅貴さん。醸し出す黒幕感とミステリアスさ。ギャグシーンでのはっちゃけ度合いが、よりミステリアスさを加速させる気がします。ゲイブよりむしろ、マッデンの方が人ならざる何かなのではないか、とすら感じてしまった。
余談ですが、本気で途中まで、マッデンが黒幕説を考えながら観ていました(何かのミステリーの見すぎですかね)。彼をどう見るかでこの作品の見え方も変わるんだろうなぁと思いつつ、僕の頭は1つしかないので今回はそこまで至らず。

ハッピーエンドじゃない

観た感想として、この作品はハッピーエンドじゃなくて、ホープフルエンド、と言ったほうがいいなぁと感じました。

幸せかどうかは、これからそれぞれのキャラクターが歩む道次第だと思うし、一方でバットエンドではなく、希望が生まれたフィナーレだと思うので、「ホープフルエンド」。言葉として正しいかはわかりません。

作品全体として、ずっと重苦しいわけではなく、アメリカンなジョークも挟み込まれていて、重たくなりすぎていないのが良かった。これ、笑いの要素がなかったらほんとしんどいと思う。演じるほうも観るほうも。その意味でも、最後に希望が見えたのは良い終わり方。

…マッデンが黒幕のバットエンドじゃなくてよかった。

総括

2025年、観劇初めは「ウィキッド」でしたが、初見作品としてはこの作品が観劇初めです。いやー期待以上に良かった。
演出としても、ダイアナとナタリーの母娘がリンクする見せ方、ダイアナ・ダンとナタリー・ヘンリーの対比、リプライズ曲の使い方、総合的にミュージカルとしても良かったです。

双極性障害とか、機能不全家族とか、ヤングケアラー、アダルトチルドレン、発達障害、繊細さん…家族や育つ環境にまつわる様々なものに名前がついて久しい現代。家族ってなんだろう、という普遍的な問いも感じました。

加えて、「普通なんてないんだよ。みんなそれぞれなんだよ」という価値観も広まって久しいですが、誰もに聞き馴染みの良い安易なお題目で片付けるのではなく、「普通の隣(next to normal)」という概念を提示するところも、僕個人としてとても好きなところです。

あ〜なんで前回公演時は見送ったんやろう。惜しいなぁ。
とはいえ、初見ゆえの観劇体験もできたので、今まで見逃していたこともよしとしましょう。

観劇は一期一会ですね。これだから観劇はやめられない。ミュージカル三昧な毎日、それが僕のノーマル。

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