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小説『エッグタルト』

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高校で吹奏楽部に所属している太田と、数学オリンピックに出場することが決まった女子高生、川野さんの話です。
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2020年8月の記事一覧

小説『エッグタルト』第十五章

 翌日の放課後の帰り道で、途中にある病院のそばを、兄が白衣姿で歩いているところを見かけたので、後ろから声をかけた。
「あ、兄さん」
 そう呼びかけると、兄はこちらを振り向いた。
「おう、弟よ。どうした? 学校帰りか?」
「そうなんだ。兄さんは研修か何かがあったの?」
「ああ、大学五年になったから病院での実習が始まったんだ。勉強だけでも大変だったのに、ひいひい言いながらやってるよ」
 兄はあからさま

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小説『エッグタルト』第十四章

 翌日、弁当を食べ終わり、教室の外に出ると、同じタイミングで偶然川野さんも教室から出てきた。
「あ、太田くん。ちょうどよかった、ちょっとここで待っていて」
「お、おう」
 そう俺が言うと川野さんは教室に戻り、自分の席で鞄をがさがさとしていた。そして、何かを手に取り、こちらに戻ってきた。
「これ、作ってみたの。よかったら、食べてみて」
 唐突だな、と思った。
「ありがとう、これ、何?」
「エッグタル

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小説『エッグタルト』第十三章

 六月に入ると、吹奏楽部では、体育会系の部活の応援曲の練習を行っていた。この間の外での筋トレは、炎天下での演奏などを想定した体力づくりの一環でもあったらしい。なら夏場にやるべきなのでは? とも思ったが、いきなり夏に外で筋トレをしても倒れてしまうだろうし、いろいろと配慮されているのだな、とぼんやりと小太鼓を叩きながら思った。
「おい太田! ちょっと音がずれているぞ! 集中しろ!」
「はい。すみません

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小説『エッグタルト』第十二章

 週末の土曜日になると、吹奏楽部の部員たちは、外で筋トレをしていた。吹奏楽部でも筋トレが必要なのだろうか。謎である。俺はなぜか、小太鼓を叩いてみんなが筋トレをするのを応援する係だった。これも必要なのだろうか。まったくもって謎である。
 筋トレが終わり、小太鼓を持って片付けに向かう途中、体育館で女子バスケットボール部が試合を行っているところを、入り口のドアが開いていたので見かけた。ちょうど水野が途中

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小説『エッグタルト』第十一章

 あくる日の放課後、俺は数学の補習を教室で受けていた。ふと入り口のドアの方を見ると、去年同じクラスだった大溝くんが入ってきた。
「おお! 大溝くん。ひさしぶりだね」
 大溝くんは眼鏡をかけていて小太りではあったが、いかにも勉強ができそうな見た目のやつだった。
「おお、太田か。お前も、数学赤点だったの?」
「去年も数学の補習で会ったよな。眼鏡をかけているのなら、勉強が得意であれよ」
「お前それ去年も

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