小説『エッグタルト』第十一章

 あくる日の放課後、俺は数学の補習を教室で受けていた。ふと入り口のドアの方を見ると、去年同じクラスだった大溝くんが入ってきた。
「おお! 大溝くん。ひさしぶりだね」
 大溝くんは眼鏡をかけていて小太りではあったが、いかにも勉強ができそうな見た目のやつだった。
「おお、太田か。お前も、数学赤点だったの?」
「去年も数学の補習で会ったよな。眼鏡をかけているのなら、勉強が得意であれよ」
「お前それ去年も言ってたな、失礼だぞ」
「ごめんごめん」
 黒板の方を見ると、数学の川村先生が問題を黒板に書き写していた。川村先生は、基本的に無言で問題を書き写し、書き終わったときに生徒に問いかけて答えるまでじっと待つタイプの先生だった。
「はい、ではこの問題をやってみてください」
 まったくわからなかったが、川村先生は黙ってこちらを向き教壇の席に座ってしまったので、取りあえず解いてみることにした。
 隣を見ると大溝くんも汗をかきながら問題を解答用紙に書き写し、解いていた。見たところすらすらと解けているようだ。どうも今回の補習では簡単な問題を選んでもらえたらしい。
 俺も問題を書き写し、しばらく見つめたのちに解こうとしたものの、まったく解けなかったので、大溝くんの方を見ると、もう解き終わって立ち上がり、先生の所へと向かおうとしていた。
「お前、補習の予習をしてきたのか」
「当たり前だろ。補習なんかで時間を取られてたまるかよ」
「じゃあ赤点を取るなよ」
 俺がそう言うと、大溝くんは、
「へっ」
 と笑い、教壇の方へと歩いていった。大溝くんは解答用紙に丸付けをする川村先生を後ろから覗いていたが、しばらくするとその解答用紙を貰い受け、戻ってきた。
「間違ってたのかよ」
「そうみたい」
「相変わらずだなあ」
「お前も、早く解けよ」
「なんと、まったくわからないのです」
「教科書あるだろ。開いてみて解いてろ」
「相変わらず冷たいなあ」
 そう言いつつ教科書を鞄から取り出し、開いて読み始めた。隣を見ると大溝くんも鞄をがさがさしながら、教科書を探しているようだった。今日の補習も長くなりそうだな、と思った。

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