小説『エッグタルト』第十四章
翌日、弁当を食べ終わり、教室の外に出ると、同じタイミングで偶然川野さんも教室から出てきた。
「あ、太田くん。ちょうどよかった、ちょっとここで待っていて」
「お、おう」
そう俺が言うと川野さんは教室に戻り、自分の席で鞄をがさがさとしていた。そして、何かを手に取り、こちらに戻ってきた。
「これ、作ってみたの。よかったら、食べてみて」
唐突だな、と思った。
「ありがとう、これ、何?」
「エッグタルトよ。本に載っていたから作ってみたの」
そう言われたのでお菓子にされていたビニールの包装をとき、一口食べてみた。
「どう? おいしい?」
「おいしいけど、なんかちょっとしょっぱい気がするな」
「え? でも、レシピどおりに作ってみたのだけど」
「でも、おいしかったよ。ありがとう」
そうは言ったが、川野さんは不満げな表情をして少し俯いていた気がする。
「ならよかった。それじゃあ私行くわね。突然渡しちゃって、ごめんね」
そう言うと川野さんはまたすたすたと向こうの方に行ってしまった。いつも、すぐにどこかに行ってしまうなあと思う。と言うより、いつもどこに行ってしまうのだろうと思う。
俺は、川野さんに貰ったエッグタルトの残りをぼんやりと見つめていた。普通の女の子は、いきなりお菓子とかを渡したりはしないよな、と思った。凄く頭のいい人ってこういうものなのだろうか。
「おい太田、な〜にを貰っちゃってるんだ?」
そう言いながら山田が後ろから肩を組んできた。
「なんかいきなり川野さんにお菓子を貰っちゃったよ。食べてみる?」
「いらねえよ。お前が、貰ったんだろ?」
「いらねえって失礼だな。結構おいしかったよ」
「そうか、よかったな」
そう言うと山田は、俺の背中を軽く叩いて自分の教室に戻っていった。
俺も、教室に戻ることにした。思い返してみると、女の子に何かを貰うことは小学生のとき以来だったんじゃないかなと思い、内心少し嬉しかった。エッグタルトをもうひとかじりしようかなと思ったが、やめた。