小説『エッグタルト』第十三章
六月に入ると、吹奏楽部では、体育会系の部活の応援曲の練習を行っていた。この間の外での筋トレは、炎天下での演奏などを想定した体力づくりの一環でもあったらしい。なら夏場にやるべきなのでは? とも思ったが、いきなり夏に外で筋トレをしても倒れてしまうだろうし、いろいろと配慮されているのだな、とぼんやりと小太鼓を叩きながら思った。
「おい太田! ちょっと音がずれているぞ! 集中しろ!」
「はい。すみません」
周りの部員たちから少し睨まれたような気がした。吹奏楽部は中学のころから続けていたが、金管楽器や木管楽器をやる人がほとんどの中でパーカッションという特別なパートであり、また数少ない男子部員ということもあって、部内では浮いてしまうことが多かった。友達がまったくいないというわけでもないのだが、この時期の追い込みではみんなぴりぴりとしていた。
「太田、大丈夫か?」
隣で大太鼓を叩いていた岡田くんが怒られたことを心配して話しかけてきた。
「おう、いつも怒られているから平気だよ。心配してくれてありがとう」
「ならよかった」
岡田くんは大柄だったが気の優しいやつだった。大柄だったので大太鼓を任されていたようなところがあったが。がっしりとした体格ではあったが落ち着いた声で話すので周りの女子部員たちからも人気があるようだった。
部活が終わり、帰る途中に野球部が練習しているところを見た。うちの野球部は甲子園に出られるような強豪校ではないのだが、もし夏の予選でもいいところまでいって応援することになったら興奮するだろうなあと思う。もっとも、炎天下での応援になるので大変だとは思うが。プレーする選手たちのほうが大変だろうと思うし、頑張って欲しいなと思う。
冷静に考えると、甲子園に行けるような高校の吹奏楽部に入ることを目指して高校受験をすればよかったなあと少し思ったが、中学のころはそんな考えをまったく持っていなかった。単に山田についてくるような形で、この高校に入学してしまった。俺は何を目指して吹奏楽を始めたのだろうと考えてしまい、歩きながら、少し落ち込んでしまった。