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小説『エッグタルト』

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高校で吹奏楽部に所属している太田と、数学オリンピックに出場することが決まった女子高生、川野さんの話です。
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2020年7月の記事一覧

小説『エッグタルト』第十章

 翌日、弁当を忘れてしまったので、惣菜パンを買いに行くために食堂に下の階へと向かっていた。階段を降りる途中にある窓を覗くと、外は雨が降っていた。
 購買で焼きそばパンとサンドイッチを買い、階段を登っていると、上の階から水野が降りてきた。
「よっ、太田。数学、赤点だったんだって? 頭よさそうに見えるのに、相変わらずだよなあ」
 水野は同じ学年だが、階段を隔てた向かい側の教室にいるので、普段はあまり見

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小説『エッグタルト』第九章

 中間試験を終えた翌週のある日に、試験の結果を受け取った俺は、生物の赤点を回避していたことに驚いていた。勉強、やってみるものだなと思った。数学は、赤点だった。
 数学のテストの解答用紙を眺めながら廊下を歩いていると、山田がこちらに向かって歩いてくるのが見えたので、声をかけた。
「おう山田、テストどうだった?」
「まあまあかな。それより川野、全教科九十点超えだったんだって。やっぱりあいつ、ばけもんだ

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小説『エッグタルト』第八章

 翌月のある日の昼休みに、中間試験を控えていた俺と山田は、試験にどう対策するかについて話し合っていた。
「なあ、試験どうする?」 
 山田がぶっきらぼうに尋ねてきた。
「どうするってまあ、やるっきゃないな」 
「理系科目やばいよな。特に数学がやばい」
 そう言いつつ山田が赤点を取っているところを見たことはなかった。いつも赤点をぎりぎりで回避している。要領がいいやつなんだろうなと思う。
「お前そう言

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小説『エッグタルト』第七章

 補習を受けて、合格点を貰うまでに二時間もかかってしまった俺は、ようやく家に帰ることにした。俺は、集中力がないのだろうか。
 帰る途中、「中岡子どもそろばん塾」という看板がついている建物から川野さんが出てくるところが見えた。
 川野さんはこちらに気づかず向こうの方へと歩いていってしまったので、俺は、
「川野さーん!」
 と後ろから声をかけた。
「わあ、びっくりした」
 川野さんは驚きながらそう言っ

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