小説『エッグタルト』第十章
翌日、弁当を忘れてしまったので、惣菜パンを買いに行くために食堂に下の階へと向かっていた。階段を降りる途中にある窓を覗くと、外は雨が降っていた。
購買で焼きそばパンとサンドイッチを買い、階段を登っていると、上の階から水野が降りてきた。
「よっ、太田。数学、赤点だったんだって? 頭よさそうに見えるのに、相変わらずだよなあ」
水野は同じ学年だが、階段を隔てた向かい側の教室にいるので、普段はあまり見かけることがなかった。彼女も、中学のときからの同級生だった。バスケットボール部に所属していて、短髪にしており、男勝りな性格だが、美人だと思う。どうも山田に気があるらしい。
「山田から聞いたのか。お前こそ、テストどうだったんだよ」
「なんと、数学が満点だったのです」
「お前、凄いよな。勉強もできるのに、なんでうちの高校に来たんだ」
「そりゃだって、この高校バスケが強いから。私も、パン買いに行くんだ。それじゃあね」
そう言うと、水野は階段を降りていってしまった。中学のときから、美人なのに明るいやつだなあと思っていた。中学のときは水野と山田と俺の三人で遊んだりすることも多かったが、最近はめっきりなくなってしまった。運動部は部活が忙しいだろうし、水野は成績優秀なので、生徒会に入れと周りに言われているらしい。当の本人はあまりやる気がないらしいが。
みんな、何かしらの特徴があって凄いなあと思う。俺は、シンバルや小太鼓なんかをぼんやりと叩きながら青春を終えてしまうのだろうか。そんなことを考えていても仕方がない。せめて、周りの連中に負けないように勉強くらい頑張ろう。そんなことを思いながら、教室に戻った。