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特別なひと。 【エッセイ】

 誕生日というものは実にくだらない、と僕は思う。自分が生まれた日にちなんてどうでもいいし、今年の自分の誕生日も当日になって気がついたくらいだ。

 恋というのは偉大である。好きな人の誕生日というだけで、一週間以上前からそわそわして落ち着かない自分がいた。会えるわけでもないのに、メッセージを送ることだけを楽しみにしている。

 誕生日そのものに胸を躍らせているとは考えにくい。そうなるとおそらく、お祝いメッセージをきっかけに会話が続くことを期待しているのだろう。

「おめでとう」「ありがとうね」午後6時ごろのことだった。

 そんなごく普通のやりとりの後、僕の期待は裏切られた。相手からスタンプが送られてくると、僕も同じようにスタンプで返す。暗黙の了解で、スタンプを送ったら会話は終わりだ。僕は絶望の暗闇の中で眠りについた。

 朝、目を覚ますと5時25分だった。メッセージの通知が、僕の眠気を完全に追い払う。「最近は大丈夫なの?」

 記憶を辿ると、次第に二ヶ月前の出来事が現れてくる。内定先とのやりとりでストレスが溜まっていた僕は、耐えきれなくなって彼女に助けを求めたのだ。愚痴をぶつける僕を、優しく受け止めてくれた。

「大丈夫だよ、たぶん」
「無理しないでね」
「うん。ありがとう」
「なんかあったら言うんだよ」

 僕の中には不思議な感情が渦巻いていた。恋というほど単純なものじゃなくて、愛というほど広くもない。安心感と幸福感に満ちたこの感情。もしかしたら、恋かもしれないし、愛かもしれない。僕がそれらを知らないだけかも。

 11月、冬の訪れが迫っていた。冷たい風は寂しさを運ぶ。僕はそんな季節が嫌いだった。だけど今年は、なんだか大丈夫そう。僕の冷え切った心を彼女が包み込む。

 彼女は、もはや好きな人ではなくなってしまった。かといって、愛する人と言うのは重すぎる。あえて言うとするならば、彼女は僕の、特別な人。

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