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「雪国」を英訳してみる

最近、英語を使うのに慣れようと思って、Hello Talkを始めた。

今まではduolingoで勉強していて、自分で使う文を1から作る、ということをそろそろやりたいな、と思っていた。

ただ、ひとりで作っただけでは、文法や単語のニュアンスが合っているのかが分からない。

餅は餅屋、ということで日常的にその言語を使う人たちに聞いた方が確実だし分かりやすいんじゃないかと思った。

やってみると、その国の日常風景や感じ方、日本の文学作品の英訳なども見れてなかなかおもしろい。

tripとtravel、foundとestablishの違いがやっと分かった。

教えてくれたネイティブたち、ありがとう。


実を言うと5年前までは「yes」「no」「yah」だけで外国人の接客をしていた。

不思議なことにそんな拙すぎる接客でも購入してくれる人がまあまあいる。出来なさすぎて逆に買ってくれたのかもしれない。

勉強したので多少マシにはなったが、まだまだ雛レベルの英語力ではある。

翻訳、web和英辞典、ネイティブの助けを借りながら、何とか文章を作ってみている。



それで、前述した日本文学の英訳が結構おもしろかったので、最近暑すぎて読み始めた川端康成の雪国の冒頭の英訳に挑戦してみた。

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。夜の底が白くなった。信号所に汽車が止まった。

雪国 / 川端康成


そして、作った文章はこんな感じだ。

After passing through the long border of tunnel, I caught my eyes in a snowy country. The bottom of the night darkness appeared to float in white. And, the steam train stopped at the signal station.

原文と並べてみる。

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。
After passing through the long border of tunnels, I caught my eyes in a snowy country.

夜の底が白くなった。
The bottom of the night darkness appeared to float in white.

信号所に汽車が止まった。
And, the steam train stopped at the signal station.


それぞれどんな経緯でこの文章になったのか、書き起こしてみる。

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。

最初からもう難しい。

「国境の/長いトンネル」なのか。
それとも「国境の長い/トンネル」なのか。

純粋に訳すなら、long tunnels of border「国境の/長いトンネル」なのだろうが、long border of tunnels 「トンネルの/長い国境」と訳した。

トンネルが長いのではなく、国境が長い方がなんか文学っぽい。

そんな気がする。


「雪国であった」も難しい。

英語に訳す上では「雪国を目に留めた」と解釈した。

そのまま翻訳にかけると、

I found myself in a snow county.

となる。

しかし、この汽車は今までトンネルの中を走っていて、抜けたと同時に雪国が目に入ってくる。信号所ではじめて汽車は停まるはずなのだ。

その情景の中で、果たしてfoundが良い表現なのだろうか、と気になる。

なので、同じ「目に留まる」でもより瞬間的に景色を捕らえる「caught my eye」としてみた。

夜の底が白くなった。

これは冒頭部分で一番好きな文章。

かなり難しかった。
そのまま翻訳にかけるとこうだ。

The bottom of the night turned white.

なんか違う感が否めない。

夜の底が白くなった、はあくまで比喩であって、夜の底というのがあって本当に白く変わったわけではない。

なので、訳す上では「夜闇の底が白く浮かび上がって見えた」という風にした。


The bottom of the night darkness appeared to float in white.


darknessまで入れるのは少しくどいかもしれない。

しかし、真っ暗な夜と白とのコントラストを考えるなら入れたい気もする。

信号所に汽車が止まった。

そんなに難しい文章ではない。

ここで難しいのは「汽車」だ。

trainなのかsteam trainなのか。


完全に趣味でsteam trainとしたけど、実際この頃の時代背景的にはどうなのだろう。

困った時のwiki曰くこうある。

三国山脈が立ちはだかる県境の水上駅 - 越後湯沢駅間は、全長9,702 mの清水トンネルをはじめとしてその前後に2つのループトンネルを有する山岳路線であり、同区間が開通し上越線が全通するのは1931年(昭和6年)のことである。この区間は長大トンネルを有するので、運転の保安上[注釈 3]から水上駅 - 石打駅間が開業当初より直流電化され、電気機関車の牽引により運転された。太平洋戦争後の1947年(昭和22年)には、高崎駅 - 長岡駅間の電化が完成している。

上越線 / wikipedia

電気機関車?

どうやらsteam trainではなさそうだ。

trainにした方がいいかもしれない。


というわけで

の前に、そういえば1文目には汽車の話がないのにいきなり3文目で汽車が出てくるな、と気づいた。

それで出来たのがこれだ。

After the train which I getting on passing through the long border of tunnel, I caught my eyes in a snowy country. The bottom of the night darkness appeared to float in white. And, the train stopped at the signal station.

「私の乗った汽車が国境の長いトンネルを抜けると、」という文章にした。

すべて掬おうとするとかなり長々としてしまう。

曖昧で包括的な日本語表現を明確に言い切る傾向のある英語に訳すのは難しい。

しかし、曖昧だからこそ色々な捉え方、感じ方ができる、それが日本語の楽しいところで美しいところでもある。

日本語の「ことば」のそんなところを愛しているのだと思う。

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