お父さん恋しや。今年は壊れたくなし。
「俺も元気だし、いっちょ、2人目の子供でも作るか!」
お父さんが昨日、満面の笑みで豪快に笑いながら、そんな冗談を飛ばした。
うれしかった。
どれだけ嬉しかったかわからない。
単純な私は、その日の夕方、ドラッグストアで化粧品を買ってきた。
若い子が使う、すっぴんパウダーなるものと、使い切ってしまったマスカラ、唇や唇周り用のエイジングケア用品。
4月5月、毎年恒例だが、私はお父さんのスイッチが入る。
まず家の中を大掃除する。
模様替えなんかもする。
その頃から、ダンスやヨガをして、体のラインをきれいに整えて、洗顔もし、お風呂も入り、毎日パウダーを顔に塗って眉毛を描き、マスカラをして薄い口紅を塗るようにする。
パジャマ着たきり雀を止めて、朝、すぐ着替え、体のラインがきれいに見えるスキニーパンツや細身のワンピースを着る。
もちろん、シャツも夏物は体にフィットするきれいなデザインのものばかりである。
お父さんの前で、小綺麗にしていたい。
お父さんに綺麗だと思われたい。
少しでも、お父さんの女でいたい。
顔がおばさんだって、まだまだお父さんの女でいたい。
春先、毎年このスイッチが入る。
そしていつも、極限まで頑張った嬉しいストレスが(嬉しいことも、統合失調症の患者にとってはストレスである)、9月半ば、うつ病と言う形で瓦解する。
覚えている。
去年は9月の14日だった。
それから、長い長い入浴困難と、何もできない位のうつ病の波、男物のパジャマの着た切り雀、美容院にも行けず、白髪だらけになり、次の春までその状態で過ごすことになる。
今日の訪問看護でも、そのことをお話ししあった。
お父さんへの恋心が張り裂けんばかりで、お父さんのために、お父さんのためだけに、きれいにしていたい、このスイッチが入る4月5月からいつも、ようやく原稿の調子も良くなる。
ペースが上がる。
お父さんに漫画を読んで欲しい。
お父さんへの気持ちを叩きつけるように、原稿を描き始める。
一昨年、9月13日にダウンした。
去年は、9月14日。
カルテを見ても、大体このぐらいで私のキャパシティーは壊れてしまう。
どのぐらいのペースで頑張って、どのぐらいのペースで緩やかにしていくか。
春先からは、体力もつくので、ある程度体力を消費しないと眠ることができない。
統合失調症にとって、スタミナは命である。
疲れれば一発で、状態が崩れる。
今のスタミナを、これ以上でもなく、これ以下でもなく、どう維持していくか。
訪問看護をお願いして以降、カルテにずらりと並ぶ9月半ばの心身の崩落。
それをどう防ぐか。
そして、視力の問題。
私は現在、原稿を描いていて視力が持つのは4時間である。
LINEは1行打つのがやっとである。
だから、LINEもメールも音声入力である。
2行以上の文章は全て音声入力だ。
LINEもメールも、目が耐えられないからである。
音声入力をする頻度も、月2回が限界である。
私は現在、朝6時に起床し、1時間ほど体を動かし、その後洗顔してお仏壇のことをやり、午前中はほとんど訪問看護かお父さんとの時間、大体が正午から夕方まで仕事する。
ちょうど夕方4時、就寝前の薬を飲み、睡眠薬を2錠ほど服薬する。
その後夜の7時、残りの睡眠薬2錠も飲み、夕食をとって9時就寝する。
私にとっては1番無理のないペースである。
午後3時からのヘルパーさんの時間は、私にとってちょうど良い息抜きの時間である。
このペースで生活をしていれば、それほど負担がかからない。
ただし、夜のお父さんとの時間が減る。
お父さんが夜中、私のバケツで水を被ったかのような発汗を心配して、何度も何度もタオルで拭いてくれたり、中ば心配したような、愛しげなものを見るように、私の寝顔を見ていてくれるのは知っている。
私は、お父さんとの思い出作りをもっともっとしたい。
いろいろなところに出かけたい。
もちろん、お父さんが体調が良い時、お父さんの体力の範囲内で。
昨日、お父さんと喫茶店に行ったんだった。
お父さんが、サラダと味噌汁とコーヒーのセットのついた昔ながらの焼きそばセットを、味噌汁をほんの半分だけ残して、全部食べるのをわざと見過ごした。
食べられないものばかり、お父さんはおいしいと言って食べた。
それでいいと思った。
それでいいと思ったのだ。
そうするべきだと思ったのだ。
お父さんが嬉しいのが、何より嬉しかった。
このぐらいの罪は、私は被りたい。
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25歳上の夫・『お父さん』(ボビー)との日々
25歳 上の夫(令和5年、77歳。重篤な基礎疾患があります)と私との最後の「青春」の日々を綴ります。
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