家族の歴史を紡ぐ(いい話風に)
もう何年も前の話を、おひとつ。
オットの父の長姉が90代半ばで亡くなり、葬儀に参列しようと久しぶりに引っ張り出した喪服のワンピースを着たらきつい。喪服が縮んでいる、いや中身が大きくなったのか・・・と息を止めて身を細めつつ会場へ。こじんまりしたセレモニーホールで、受付は会場内の参列者の席の後方に配置されている。今日のお葬式は当家のみの様子。オットは自分の両親におともして前方の席に、私はほかの親族と空いていた後ろの席でお通夜の読経を聞いていました。
すると、受付でご婦人と葬儀社の方が、なにやらもめている。
「もうすぐお経終わって導師がおかえりになりますので先にお焼香を」
「いえお香典をお出ししなくては・・・あらどこかしら」
「ええ、ですから先にお焼香を・・」
「でも受付を・・」
「それはあとでかまいませんので!」
おお、「参列の手順を守りたい参列者」対「通夜の手順を守りたい葬儀社」による戦いの火ぶたが切って落とされている。どっちが勝つんだ?!と勝敗にかたずをのんで耳だけ傾けていると、とにかくお焼香をという葬儀社の人の説得に負けたご婦人が祭壇へ向かってきた。途中まで進んで、立ち止まって、小首をかしげて、来た道を戻っていく。
そして受付の前でご婦人が、
「亡くなったの、篠崎(仮名)のおじいちゃんだって聞いてたんですけど・・・」
間髪入れずに葬儀社の方、
「篠崎さん(仮名)は明日ですっ!!」
ドリフのコントか!!!!!
葬儀という笑ってはいけない場面、そのうえ着ているワンピースは少しでもおなかに力を入れようものなら背中のファスナーが飛びそうなほどきつい。ここで万が一ファスナーを吹っ飛ばしたらなんていうか亡くなったおばさんに申し訳が立たないというか参列者から「なんだあの人は」と思われるし、位置的にこの話を聞いているのは私だけ。じっと笑いをこらえながら終わるのを待つ事態に。
そして、お清めの席でオットの母より「お経の途中でお焼香しないで帰った人いたけどあの人どなただったんだろうねぇ」と聞かれ、かくかくしかじかと事の次第を伝えると、もう二人で笑いが止まらくなってしまう。「亡くなったおばさん、知らない人が来ておどろいたと思いますよ」「私おじいさんじゃないわよ!、って棺桶から出てくるね」としばし笑い合う。
このお葬式から何年たっても、何かのきっかけで思い出してはみんなで笑ってしまう。古典落語のようなもので、同じネタでも話す人によってちょっと違う情報が加わったりして、とにもかくにも面白い。もちろん葬儀をネタに笑うなんて言語道断だけれど、家族で体験したことを織物のように紡いでいくことが、歴史を重ねていくことなんだと思った次第です。
・・・って、いい話風にしてるけどおばさんの葬儀のことを何年もネタに笑ってごめんなさい!!そのたびにみんなに生前のおばさんのこと聞かせてもらって、実は生前自分の結婚式に来ていただいた1回だけしかお目にかかったことのない方なのですが、すっかりよく知っている人になりつつあります。またみんなでおもいだしますからねー!
そしてファスナーは持ちこたえましたが、自分のサイズに合った喪服をすぐに買いに行きましたよ・・・毎回コントになったら困る。
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