発刊順:93 カーテン
発刊順:93(1975年) カーテン/中村能三訳
ポアロ最後の事件。。
とうとう、最後です。
作品自体は、1942年の「書斎の死体」の後に書かれ、自分の死後、その出版によって夫や娘が収入を得るように配慮したものだという説明まで添えられていたようだ。
「スリーピングマーダー」(マープルものの最後の事件)の解説によると、死後というのは戦時中、万一働けなくなった時に備えて、『カーテン』を娘に『スリーピングマーダー』の著作権を夫に贈与することとしたとある。
1942年はクリスティー52歳頃。第2次世界大戦の最中ではあるが、執筆は休むことなく、名作を次々と生み出していた中期の頃である。
ポアロものもマープルものも人気を博しており、その2人の有終の美を飾る作品を、前もって用意しているクリスティーは、家族のためでもあるだろうが、何よりも読者思いに他ならない。
そして、この「カーテン」は本当に素晴らしい作品なのだ。
ポアロものにはかかせない、ポアロの友人でありワトソン役、そして物語を語る役を担ってきたヘイスティングズが久しぶりに登場する。長編に出てきたのは、1937年の「もの言えぬ証人」以来だ。
ポアロに召喚されて、久々にイギリスに帰国。駆けつけた場所は、「スタイルズ荘」。クリスティーのデビュー作で、ヘイスティングズがポアロと初めて出会った舞台である。
時を経て人生という旅の終わりに再会する2人。
だが、ポアロは病のためすっかり痩せ衰え、車椅子生活を余儀なくされ、歩くこともままならずほぼ寝たきりになっていた。
しかし、肉体はこのようでも、頭はまだ立派に働いていると言うのだ。
ヘイスティングズを呼んだのには理由があり、再び2人で「犯人狩り」をするのだと言い、過去に起こった5つの事件の裏に真犯人Xがいて、そのXはこのスタイルズ荘にいるのだ。さらに、Xは犯行を重ねる危険があるという。
動けないポアロの代わりにヘイスティングズがXの正体を突き止め、犯罪を阻止できるのか・・・。
あのヘイスティングズが!?
シリーズを読んできたものとしては、それは無理なのでは・・・と心配になる。
スタイルズ荘にはヘイスティングズの娘ジュディスも滞在しており、親子間の葛藤に振り回され、ジュディスに言い寄るアラートンの存在も気にかかる。
ポアロは、ヘイスティングズにスタイルズ荘で起こったことをすべて報告するように言い、Xの名は決して明かそうとしない。言えば、ヘイスティングズの身に危険が及ぶというのだ。
果たしてXは、一体誰なのか。不穏な気配が漂うスタイルズ荘に、発砲事件が起こり、そして服毒自殺まで起きてしまう。
読み進めるうちに、誰もが怪しく思えてくる。まさか、ヘイスティングズが?もしかして娘のジュディスなのか?
今までの作品も、まさかと思う人物や語り手までもが犯人だったりするので、誰であっても不思議はないのだが、最後の最後までわからなかった・・・。
スタイルズ荘で、最後の事件が起こった日に、ポアロの命の灯も消え、真実は闇に消え・・・
るかと思えば、4ヶ月後にヘイスティングズの元に届いたポアロの手記によって、見事に事件の解決が明かされる。
そうでしたか。あの数々の描写は、そういうことでしたか。
なぜ、ポアロがXの名を明かせなかったのかも、手記を読めば納得できます。
生前ポアロは、ヘイスティングズに自分の命が消えた時、
と、そのためにヒントを残すという。
ポアロは、カーテン(幕)を降ろし、客席には見えないところで、最後の仕事をしたのだ。
殺人を決して許さない、強い正義感を持ったポアロは最後の瞬間まで名探偵でした。
ポアロと真犯人の「完全犯罪」対決!
クリスティーのポアロもの、最後の事件は最高傑作だと思います。