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【読書感想】『ウラミズモ奴隷選挙』、日本とにっほんの遠くない距離

小川たまかさんのnote『奴隷の国』(https://note.com/ogawatamaka/n/nf8b8c85d71c0)で引用されていた『ウラミズモ奴隷選挙』の一節を見て、すぐにこの本を手に入れて読んだ。

 にっほん人とは何か? それは奴隷とは何かについてまともに考えたことが一度もない国民。というよりかそれ以前に、自分とは何で今どんな状態かさえ、思考して言語化した記憶のない奴隷集団。それで外国との折衝がうまくいくはずがない。だってにっほんにおいては、全部の交渉設定が、必ず、奴隷対主人なので。つまり人間同士の関係というものが訓練できていない。(笙野頼子『ウラミズモ奴隷選挙』)

これは私が今の日本に感じているモヤモヤの中心になっていることだった。「少子化が問題だ。もっと子供を増やさないと」と言いながら、その原因である女性差別的制度や風土、時代に合わない家族制度は断固として改めようとしない。

格差社会がどんどん広がって社会が貧しくなっていっているのに、税金は上がり、テレビでは「世界が称賛するニッポンすごい」コンテンツを垂れ流すばかり。

自分が今どんな状態か、思考しているのだろうか?

コロナ禍の中、安倍晋三氏が病気で総理大臣の職を辞し、菅義偉氏が次の総理大臣になった。菅氏は安倍内閣の長官時代に公文書の改竄・隠避・破棄問題(特に桜を見る会)で辞任要求されていた人物だった。が、菅内閣発足時の支持率は74%。公文書を適切に残して、役所が意思決定する過程や記録を残すことは、行政の適性な運営と、行政が最低限の信頼を得るために欠かせないもののはずなんだけどな🤔

友人との話で政治の話が出た時、彼は「でも安倍ちゃん可哀想だよね。あんなに頑張って働いて病気になって」と言っていたことにも驚愕した。

政府が何をしてきて、何が問題だったのか、記憶しているのだろうか?

性被害を訴えた草津町議会女性議員は、議会で二次加害を受けた上リコールされた。

傍聴席は殺気だっていた。70代くらいの男性たちが前列に座る私たちの背後から、「こっちにだって選ぶ権利あるんだよ」「誰があんな女と」「犬だってしねぇよ」と声を浴びせたり、「(性被害が)本当なら(時間的に)町長はニワトリだ」と盛り上がったりもしていた。ニワトリの意味は、すぐ射精するとのことらしい。コケッコッコーと言っては笑っていた。セクハラを背中からずっと浴び続けた思いになる。                 (北原みのり『まるで現代の魔女狩り? 性被害を訴えた草津町議会女性議員へのリコール』)

Mee Too運動のあとも変わらない、告発者に対するバッシングや嫌がらせ。加害者ではなく被害者を追い詰める。何も知らないくせに知ったような気になって、初めから嘘と決めつけて、よってたかってどんな酷い言葉であろうと投げかける人々。

相手が人間であることに気がついているのだろうか?

そんな今だからこそ、奴隷大国「にっほん」と、女だけの国「ウラミズモ」の話が読みたくなった。

【あらすじ】
にっほんで側室奴隷の子として生まれた有名女権論者の末裔かもしれぬ、勇猛果敢で働き者の市川房代は、成人するまで奴隷であることを知らずに育ち、ウラミズモに移民、総理にその人間性と忠誠心を認められて、男性保護牧場歴史資料館の最高責任者に抜擢された。館内で「保護」する性犯罪者たちの生死を委ねられる激務の日々。すべての請願、要求が房代に集中する。
警視総監、法務大臣を輩出する白梅高等学院の少女たちに銃で脅され、にっほんの少女遊郭から訴えをきき、死者からのメールに耐える毎日、齢数千年の石の女神までも市川を探し求める。
そして今年もまた、最も凶悪な牧場男性の「未来を決定する」日が近づいてきた。(河出書房新社)


にっほん国の極端に戯画化したひどさは、今の日本とは程遠いと思うかもしれない。特に日本を、世界一安全で国民は真面目で、道もサービスも何もかもきちんとしていて、日本スゴイ世界一…と言うのを無邪気に真に受けている人たちにとっては(そして、こういう人がおそらく世間の多数派なんだろうなと働き始めてから実感した)。

でもこれは本当に極端にデフォルメされた戯画化なのか?作中に出てくる、極端な誇張に聞こえる『ちかんごうかん、男尊にっほん 痴漢とヘイトだけ守るにっほん(帯より)』のエピソードたちの多くが、実際に今の日本で起こっている。

ちょっと昔の私は、小谷真里さんから、笙野をカサンドラにしてはならないと言われていた。しかし震災以降は北原みのりさんがその予言性を評価しえくださり、さらに今ではとうとう現代のカサンドラ(引用伊東麻紀さんツイート)と言われています。(P8)

と前書きで述べている通り、これは予言の書であり、今世の中のB面で起こっていることを掘り起こした書である。ちなみにカサンドラは古代ギリシャ神話に登場するトロイの女王であり予言者。呪いによって誰からも信じてもらえなくなり、トロイの木馬を市内に運び込むと滅亡に繋がると予言した際も聞き入れてもらえず、結局トロイは滅びた。

現実の「日本」と「にっほん」の一致と類似

にっほんと日本のエピソードの類似の多さ。そして、時には本作が出版された2018年より後に、作中で言及されているのとよく似た出来事が日本で起こっている。笙野氏の予言力と世間への観察力に感動した。以下に思いついた点を挙げてみる。

●女性向け商品の広告で女性を侮蔑し、買わなければ酷い目に合わせると脅しつける「にっほん」

日本でも、女性むけ製品の広告となると、本来はターゲット層である女性を不快にさせたり、買わなければ嫌われると煽ったりするものが多々ある。何度炎上しその場しのぎの謝罪をしても繰り返され、企業は学ぶ姿勢があるのかどうかすら怪しい。どうせすぐ忘れるって思ってる?

【一部例】

・アツギ(まとめ:https://togetter.com/li/1617478)

・牛乳石鹸(まとめ:https://www.j-cast.com/2017/08/16306004.html?p=all)

・資生堂(まとめ:https://togetter.com/li/1035375)・広告モデルのヌード撮影強要疑惑(https://www.j-cast.com/2018/04/13326144.html?p=all)

・カネボウ(まとめ:https://togetter.com/li/1561913)

・YouTube「外見蔑視」広告に抗議の署名運動 体形・体毛など漫画で...発起人「人を傷つけることにもなるとわかって」(https://www.j-cast.com/2020/06/13387897.html?p=all)

参考:『女子高生の4割が日本の広告に不快感。 炎上続出、不快広告に含まれる5つの要素とは』(https://www.businessinsider.jp/post-200259)


●警察が痴漢とヘイトスピーチを守る「にっほん」

・京都でたった4人のヘイトデモを大量の警察官が守る異様な過剰警備! 差別批判や政権批判デモには弾圧を加える一方で(https://www.excite.co.jp/news/article/Litera_4601/)

・「レイプはセックスではなく暴力」日本で被害に遭ったオーストラリア人女性の活動(https://wotopi.jp/archives/37678)

2002年4月、神奈川県横須賀市で米軍の兵士から車の中でレイプ被害に遭った。心身に大きなショックを受けた彼女をさらに追い詰めたのは、直後に通報した神奈川県警からの威圧的な取り調べ。担当した男性警官は「救急車を呼んでほしい」と震えながら訴える彼女に対して、「どこもケガをしていないじゃないか」と耳を貸さなかった。著書『涙のあとは乾く』(井上里訳/講談社)の中では「彼らは、わたしを価値のないゴミのように扱った」「被害者ではなく犯罪者のように扱った」(上記記事より)


●痴漢大国であり、電鉄会社は何の対策もせず、痴漢に置換する楽しみを提供し続ける「にっほん

・痴漢で「示談慣れ」した常習者と被害者に"情報格差" 手薄な法的サポート(https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/20200123-00159877/)

・東大生が電車内で強制わいせつ センター試験前日に高校生を狙う犯行、3回目の逮捕(https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/20200120-00159635/)

・小川榮太郎、『新潮45』に「LGBTの権利を保障するのであれば、痴漢が女性を触る権利も社会は保障するべきではないか」書く(https://www.huffingtonpost.jp/2018/09/20/shincho-45-ogawa-article_a_23533100/)

・「スレスレ痴漢法」が特集された雑誌『月刊ドリブ』を読んでみた。
(https://note.com/ogawatamaka/n/n6cb653416685)


●「火星遊郭」なる施設で女性たちが性労働を強制されている「にっほん」

日本にはそんな、性労働を強制されるような環境はないって?いいや、ある、ということは皆知っている。知らないのは、それが悪いことであると言うことだけ。

コロナが始まった頃、お笑い芸人の岡田隆史は、生活が困窮して性風俗に女性が流れてくるのが楽しみだと話していた(『岡村隆史さん「コロナと風俗嬢」発言、ニッポン放送謝罪』https://www.google.co.jp/amp/s/www.asahi.com/amp/articles/ASN4W6QRHN4WUCVL048.html)。

生活が困窮しなければ性労働に従事しないような人が、他に選択肢を無くして風俗やるのの何がそんなに面白いのか?

そして案の定、コロナで生活苦に陥った技能実習生が、風俗で働かざるをえなくなった(『「本当はやりたくない」 摘発風俗店で働く実習生の構図』https://www.google.co.jp/amp/s/www.asahi.com/amp/articles/ASNCN5WV8NCFUTIL074.html )


●にっほんと慰安婦問題

実際は奴隷状態で使われていても「あれは奴隷じゃない○○婦だ」などと、言い口、表現を変えて全て誤魔化す、つまり実態と表現を切り離した態度で通す。(中略)例えばあるにっほん人がひとりの少女を購して閉じ込め、外に出さず、財布を取り上げていたとする。すると件の犯人は己が、「幼い相手を支配して奴隷化している」ということにまったく気づかない。そしてもしその事がばれて、誰かから「女子を奴隷にした」と言われるやいなやびっくり仰天する。そして「何が奴隷だ答で叩いてないし鎖で繋いでないぞ、焼き印も押してないぞ、それならば完全に自由だろう」などとぶち切れるのである。さらには「昔は十五で嫁に行ったものだ、私はただ子供に説教して少しけようとここにいさせ、家事(労働)やセックスを(子供に)教えていただけだ、何が悪いのか」などと世間(国際社会)を祇めた上でかきくどくのである。つまりはにっほん国内の権力こそ己の味方だと信じて言うのである。p68

ここら辺の記述はまさに、日本の慰安婦問題のメタファーになっているのではないかと思う。実際、映画『主戦場』(原題:"Shusenjo: The Main Battleground of the Comfort Women Issue")で、杉田水脈氏が何が奴隷だ答で叩いてないし鎖で繋いでないぞ、焼き印も押してないぞ、それならば完全に自由だろう」と言う趣旨に近い抗弁をしていた。

参考:ベルリンの「平和の少女像」を巡る騒動 その「温度差」について考えてみる(https://globe.asahi.com/article/13866337)

ベルリンやアメリカで旧日本軍従軍慰安婦像は「少女像は戦争中の女性に対する性暴力を記憶しようとする運動の象徴」として扱われているのに、日本政府や右翼市民は、従軍慰安婦なんてでっち上げ、告発者は嘘つき、慰安婦の存在を認めることは日本への攻撃だと吹き上がる。だがこれが「ふつうの日本人」の感覚になりつつあるので怖い。『新しい教科書をつくる会』などによる歴史修正主義が国内の歴史戦に勝利しつつあり、日本国内の権力こそ己の味方だと信じて、第二次世界大戦中の行為を正当化している。ああ。


●弱者男性に女をあてがわないと男性差別だと騒がれる「にっほん

Twitterで女性に嫌がらせをして楽しんでいるアカウント達をちょっと見るだけで、この類の考えを持った男どもがわんさかいるとわかる。(

例えば、2017年にエマ・ワトソンが、男性が「男らしさ」を追求するあまり苦しんでいることについて、ジェンダー・ステレオタイプから逃れて自由になるべきだとスピーチしている。

これへのいわゆる「弱者男性」からの回答が、「でもエマ・ワトソンは弱者男性とセックスしない」「弱者男性は結局女を獲得できないからこのスピーチは欺瞞」だったことが印象深い。

(参考:「エマ・ワトソン演説と「弱者男性」問題について」
https://lite.blogos.com/article/237397/?axis=&p=1

まずその、女を獲得すれば一人前の男性になれるとか、幸せになれるとか、自分のケア要員を獲得できるとかそう言う考えが「有害な男らしさ」の一部なんですよね。

ただし、この「女をあてがわれない『弱者男性』の被害者意識」は日本だけの問題ではない。アメリカの「弱者男性」、所謂インセル(何故か白人男性に多い)も同じ背景から過激化している。

参考:凶悪犯罪続発!アメリカを蝕む「非モテの過激化」という大問題
テロにも発展。その名は「インセル」(https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56258?page=2)


●少女虐待表現が至る所にありそれが意識に刷り込まれるまでになっており、性暴力がアートとしてもてはやされている「にっほん」

・「強姦した女性のイラスト」をTシャツの柄に採用した例

『DIESELと日本人アーティストのコラボTシャツが物議 「性暴力」を想起か』(https://girlschannel.net/topics/2974409/1/)

・Twitter Japanが「性的暴行」というワードをエンターテイメントとして認識している例
https://twitter.com/akita_aru11/status/1337538644987396097?s=20

・妊娠させた相手に「流産パンチ」が面白い冗談として広く愛されている例
https://twitter.com/akita_aru11/status/1336469575106396167?s=20

妊婦に対する暴行は実際に起こっている事件でもあり、何も笑い事でがないのだが…??(参考:
https://news.yahoo.co.jp/articles/a214f3f56790042181565094fcee57c8c553605d


●女子トイレや女子行為室に男が入れないのは差別とされている「にっほん」

信じられないようなことだが、ついに「ペニスのついた(性別適合手術をする意志のない)女性が公衆浴場に入っても、止めた方が差別者呼ばわりされる時代がすぐそこにきている(というかもうきているのかも)。

トランスジェンダーとは、「自認する性別」と「生まれた体の性別」が異なっており、「生まれた体の性別」を「自認する性別」に合わせて生きようとしている人のはずだった。

ところが、「身体に違和はなく、性適合手術も受ける気はない(つまりペニスのついた体を変える気はない)が、自分は女性だと認識しているので女性スペースから排除するのはトランス差別である」と主張するトランス女性が少なからず出てきた。というか、それがいわゆる「トランスジェンダリズム」のメインストリームになっている。

身体的には男性であるトランス女性が女性用浴場に入るのを肯定する動きまである。(参考:https://togetter.com/li/1581386)


反対する女性は「差別主義者」のレッテルを貼られ嫌がらせを受けている。

参考:TERF、和ターフ、差別煽動者と呼ばれて(https://femalelibjp.org/nf/2020/11/23/terf%e3%80%81%e5%92%8c%e3%82%bf%e3%83%bc%e3%83%95%e3%80%81%e5%b7%ae%e5%88%a5%e7%85%bd%e5%8b%95%e8%80%85%e3%81%a8%e5%91%bc%e3%81%b0%e3%82%8c%e3%81%a6%e3%80%82/)


ただこの、「ペニスのついた(性別適合手術をする意志のない)女性が女性スペースに入っても、止めた方が差別者呼ばわりされる」というのは、日本よりも欧米の方が先に炎に包まれたトピックである。

イギリスでは、「身体的性別(sex)は生物学的に決定される」と主張したMaya Forstaterという税理士が解雇された。

マグダレン・バーンズというレズビアンは、「レズビアンがペニスを持つトランス女性とつきあわないことで差別者(bigot)呼ばわりされるべきではない」と主張し炎上した。

参考:「セックスとジェンダーに関するJ.K.ローリングの声明」(https://note.com/f_overseas_info/n/nb9dee80c5f82)

同じくイギリスでは、トランスジェンダー女性による女性用スペース内での盗撮、性的暴行がすでに発生している。

トランスジェンダーで女性になった“元男”が10歳少女に暴行 「LGBTを悪用するな」怒りの声殺到(https://news.nicovideo.jp/watch/nw4852237)

トランスジェンダーの受刑者女性刑務所で性暴行:カレン・ホワイトのケース(https://1ovely.com/transgender/)

Karen White: how 'manipulative' transgender inmate attacked again(https://www.theguardian.com/society/2018/oct/11/karen-white-how-manipulative-and-controlling-offender-attacked-again-transgender-prison)

これらの、身体的違和がなく性適合手術を行わないトランス女性にすでに女性スペースを開放している国で起こっている性犯罪を、全て無視することが果たしてできるのか。女性が懸念を示すだけで、嫌がらせや暴力の示唆、個人情報特定の脅しを受ける状況下でそんなことができるとでも?

いつでも黙らされ、しわ寄せを受け入れることになるのは女である。そして悲しいことにこの世のどこにもウラミズモはなく、この限りなく「にっほん」に近い日本で何とかやっていかなければならない。暗澹

ウラミズモ、ユートピアでありディストピアな女人国

●ユートピアポイント
ウラミズモは女性の、女性による、女性のための国家である。故に、現実社会て女性の力を奪っている慣習や社会の仕組みがすっかりとりはらわれている。個人の尊厳を、移民をとても大切にしており、お金ではなく人生の豊さや時間の余裕に価値を置いている。

例えば、美に重点が置かれてない。「美」を追求するあまり体を壊したり精神を壊したりする環境に置かれていない。女性にのみ課された「マナーとしての化粧」の文化も存在しない。

ファッションは快適さを第一に追求されており、履き続ければ外反母趾になるような靴、寒さで健康を害するような服、締め付けすぎて息ができなくなるような服など存在しない。

無痛分娩が当たり前であり、無痛分娩に反対する親や姑、夫も存在しない。

家事労働や介護労働は、労働として尊重されて賃金が発生する。

●ディストピアポイント

ウラミズモは、隣国ににっほんがあるにも関わらず、独立国家としてやっていっている。その代償として、警察国家であり、監視国家で、男性に人権がない。

この、女性が人権を獲得するために男性の人権が制限されたディストピア、という設定は、ナオミ・オルダーマンの『パワー』に通じるものがある。

『パワー』は、ある日突然、女性にだけ男性にはない超能力が芽生え、男女の力構造が反転していくSF小説で、こちらも大変面白かった。(力関係逆転後の男性の扱いは、『パワー』の方が現実の女性の扱いのミラーリングに近い印象)

どちらも、支配者層となった女性が、所謂「トキシック・マスキュリニティ(有害な男らしさ)」仕草を身につけてしまっている。

例えば、エリート高校生百合香の生徒のコメント。

「にっほん産男連れてきてロハでヤらせろ」、「男の子は体を売って自分で稼げ」、「男子をリョナらせろww」

これらは現実世界のホモソーシャルであったり、有害な男らしさ…いかに女性加害のチキンレースに参加できるかであったり、いかに性被害を軽視し嫌がらせをして楽しめるか、仲間内で露悪的なことをして盛り上がって仲間であると確認するカルチャーなどに通づるものがある。

参考:ホモソーシャルに生きる男性たちが、いとも簡単に「ヤバくなる」瞬間(https://wezz-y.com/archives/59602)

現実との不一致

当然の事ながら本書はメタファーであり誇張の書なので、全て現実を反映しているわけではない。悪魔化しすぎるあまり、本書のメッセージが届かない層だっているとは思う。

本書では、女衒の所業として「主体的売春の肯定」、「女性スペースに進入する男性の肯定」を批判している。

しかし現実、本気で良かれと思って主体的売春を肯定し、反買春のポスターを踏みにじって踊る活動家や、

「女性を自称するだけで誰でも女性スペースに入れるようになる制度」を推進する人たちが現実にいる。

悪魔化するだけでは、彼女ら彼らの動機には届かないような気がする。何だろう…。共感から外れた人たちへの無関心の為せる技なのか。良かれと思ってやるがあまり、それで犠牲になるであろう人たちに考えが及んでいないのだろうか。

古来より女性は、男性中心社会の共感や関心の及ばないところにあった。アリストテレスが女性は男性より歯が少ないと信じていたように、どこかしらファンタジーな世界、インビジブルな世界に閉じ込められて、共感や考慮から無意識にこぼされているのでは?

そして、女性が女性について考える時ですら、女性の肉体への共感や考慮が抜けているから、「女性を自称するだけで誰でも女性スペースに入れるようになる制度」を運用したらどうなるのかなんて些末な問題だと切り捨てて、抗議する人の口を塞ぎに行けるのかも。

TPPについて

本書の「にっほん」と「ウラミズモ」の設定があまりに衝撃的だったためそのことばかり書いてしまったが、本書のメインテーマは「反TPP」。

ただ、「TPPを批准し自由貿易を推進した先にある恐怖を想像してもらうための書」であるだけに、TPPの何が問題で、それがどうここで書かれている惨状につながっているのかはあまり掴み取れなかったような気がする。

堤未果『ニッポンが売られる』
映画『モンサントの不自然な食べ物』

で描かれていることにつながっているような気がするが…。自分できちんと勉強していきたい。

本書では「種子法」についても警鐘を鳴らしている。

種子法といえば、柴崎コウさんが反対意見を述べた際に、物凄い誹謗中傷に晒されていたことが印象的だ。

参考:柴咲コウさん、種苗法改正案に関するツイートへの誹謗中傷に言及「意見を言うことは、誰にも平等に与えられた権利」(https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5ece113fc5b6555f1dc77e9a)

政府の押し進めようとしていることに反対意見を述べるだけで、「意見を述べることそのものが気に食わない」と嫌がらせを受ける社会は明らかに不健全だ。

種子法に関しては、匿名アカウントが根拠もないのに「批判してる奴はわかってない。政府の真の意図は○○だからこれは素晴らしい」と述べるだけで喝采何千リツイートもされているのを見て違和感を感じたこともあった。

自分とは何で今どんな状態かさえ、思考して言語化した記憶のない奴隷集団でいてはいけない。奴隷対主人の交渉に慣れたへつらい奴隷であってはいけない。

自分で考えて、言語化して、おかしいと思えば抗議し、声をあげること自体を止めてはいけない。奴隷国にっほんであってはいけない。

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