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本のキロク 四月になれば彼女は。


あなたは今目の前にいる人を本当に愛していると言えますか?


『世界から猫が消えたなら』『ストーリーセラー』など誰もが一度は味わったことがある、切なさや甘酸っぱさを優しい世界観で伝える川村元気が描いた愛と喪失の物語。
あなたは今、目の前にいる人を本当に愛していると言えますか?


あらすじ


藤代のもとに4月、大学生の頃はじめて付き合った元カノハルから突然手紙が届く。
その手紙は、奇跡の絶景とも呼ばれるボリビア西武の町ウユニ塩湖から送られたものだった。
そこには初々しい恋愛のはじまりから、付き合っていた当時の思い出まで、丹念に綴られている。
藤代は手紙を読むなかで、大学時代の瑞々しい恋の記憶が蘇ってくる。
しかし、藤代には1年後に結婚を控える婚約者がいて...

弥生と結婚するべきなのか?
愛するとはなにか?
同じ人を長年愛しつづけることは可能なのか?
失った恋に翻弄される12か月がはじまる―なぜ、恋も愛も、やがては過ぎ去ってしまうのか。川村元気が挑む、恋愛なき時代における異形の恋愛小説。

登場人物紹介


藤代
精神科医。弥生との結婚を控えているなか、初恋の相手・ハルから手紙が届く。

弥生
藤代の婚約者。獣医師。サバサバしており、大人びている。藤代と付き合う前に婚約破棄した過去がある。


藤代が医学部の三年生のときに写真部で出会った。かつての恋人。彼女の撮る写真は淡い。
世界中を旅しながら藤代に手紙を送る。


弥生の妹。弥生とは対照的な性格。
夫がいるが誰にも言えない秘密がある。

大島
藤代が所属する写真部のOB。飄々とした性格で後輩からの人望も厚い。
学生時代からつきあっていた彼女と結婚している。

ストーリー


藤代と春
藤代は大学でカメラ部に所属。OBの大島たちと何気ないキャンパスライフを送っていた。
ある日、そこに春が新入部員としてやってきた。
青森の山奥で育った、ハルの写真はどれも色が薄く藤代は不思議な魅力を感じます。またハルの写真を現像していた時、藤代は見たこともない笑顔で写っている自分を目にし、驚くの。教育担当としてついていくうちに2人は徐々に仲良くなっていく。

春と大島

大島は藤代と春の良き理解者。
大学卒業後、大島は以前から付き合っていた彼女と結婚。就職するもののうまくいかず、精神的に病んでしまう。
9月のある日、ハルから藤代のもとに電話があり、藤代が駆けつけると、空になったピルケースが置かれたベッドの上で昏睡している大島と、その横で佇む放心状態のハルの姿があった。
大島は一命をとりとめるが、見舞いにいった藤代とハルは彼の妻から、
「あの人は、何度かこういうことをしています。(中略)だから伊予田さん、どうか気にしないでください。あの人は、いつも死に追いかけられているんです。どのみち、こうなったんです」
と聞かされる。
藤代には大島とハルの間に何が起こったのか理解できなかったが大島の妻は何もかも把握しているような素振りであった。
そして帰り道、藤代とハルがバスを待っていると、大島が病室を抜け出して追いかけてきて、
「ハルちゃん! ハルちゃん!」と叫ぶ大島からハルは逃げ出し、顔を歪めながら藤代を置いて行ってしまう。
その事件の日を境に、藤代は写真部に顔を出さなくなり、ハルも来なくなってしまった。
ハルからが一度だけ「会いたい」と留守電メッセージがありましたが、藤代が連絡をすることはなく。
藤代はめんどくさいことから逃げるように、そのままハルと別れたのであった。

藤代と弥生

春と別れた後なかなか人を好きになれなかった藤代が出会ったのは弥生だった。
一見サバサバした弥生だが、実は婚約破棄をした過去がある。
結婚を控え、タワマンで恋愛映画を観ながら過ごす2人は、世間でも勝ち組に入る幸せの象徴そのもの。一見何の問題もない関係を築いているように見えるが実は二年ほど、 藤代と弥生はベッドを共にしていない。
3年前に出会った頃、確かに弥生を愛していたものの、今自分が彼女を愛しているのか分からなくなっている藤代の迷いはそのままに
結婚式の準備だけは着々と進行していく。

藤代と純

弥生の妹の純はおとなしい夫と結婚しているが、実は絶えず他の男と関係を持ってしまうことを繰り返していた。
藤代のことも誘惑をするが、なんとか未遂に終わる。
そんな折に弥生が家出をしてしまう。

春と弥生

藤は春と見れなかったインドのカニャークマリの朝日を見るためにインドへ向かう。
そこで弥生との関係性を見直すことになり...

印象に残った言葉


◻︎百年後、紙に便りが書かれることは無くなっているのでしょう。でもそれが綴られるのはきっと真夜中で、まわりくどい言葉ばかりが続いて何を伝えたいのかわからなくて、とにかく不恰好で、けれど切実であるのは変わりないような気がします。

◻︎あのときのわたしには、自分よりも大切な人がいた。あなたと一緒にいるだけで、きっと全てがうまくいくと信じることができた。

◻︎誰かを愛しているという感情は一瞬だということが、いまならわかります。
好きな人のことをすべて知りたい。その人がいまどこでなにをしているのか。どんな本を読み、何を食べ、どう言う服を着ているのか。すべてを知りたいと思う。 愛している、そして愛されている。そのことを確認したいと切実に願う。あの頃の清冽な想いに、私はいまだに圧倒されているような気がします。

◻︎全部諦めてしまえば、時間の方が俺に合わせてくれるようになる。

◻︎生きているという実感は死が近づくことによってはっきりとしてくる。この絶対的な矛盾が日常のなかでカタチになったのが恋の正体だと思う。人間は恋愛感情の中で束の間、今生きていると実感することができる。

◻︎人は誰のことも愛せないと気づいたときに、孤独になるんだと思う。それって自分を愛していないってことだから。

◻︎わたしは愛した時に、はじめて愛された。それはまるで日食のようでした。「わたしの愛」と「あなたの愛」が等しく重なっていたときは、ほんの一瞬。

感想

ずっと同じ人を愛せるか、というのは誰もが問いかけられる問いではないだろうか。
しかもそれは歳を取れば取るほど、忙しさに紛れてしまったり、いろんな経験を得るからこそ、曖昧な回答になってしまう。
表紙から想像もできない鋭い問いかけだけど、川村元気特有の淡くて切ない世界観が、プラハやインドの情景と合わさって、どこかファンタジーのような形ですいすい読めた。
川村元気の他の作品の世界観にも入り込みたくなってくる一作。おすすめです。

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