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認知症診断後の空白の期間の支援

みなさん、こんにちは、てつです。
認知症ケア事例ジャーナルという本をご存じでしょうか?認知症ケア学会を運営しているワールドプランニングが編集している雑誌です。年4回発行されます。
今回は、特集 診断初期における「空白の期間」の支援を読んでみました。


この特集の位置づけ

この特集は、認知症の当事者の藤田和子さんのインタビューから始まって、診断後の支援について主に、地域活動について記載されています。


空白の期間

この特集の緒言には、このように書かれています

認知症が軽度な段階では、食事・排せつといった基本的な生活活動は保持されており、社会参加や家事・趣味活動など、自分のやりたいことが少しの支援があればできる状態である

認知症ケア事例ジャーナル2023. Vol.16

認知症と診断されるのが早くなると、特に自宅内での生活の支援が必要ない方が多いため、何のつながりもお持ちでない方も多いです。

2007年に脳神経内科を受診して若年性アルツハイマー病と診断された藤田和子さん。
2017年には著書も出版されています。

以下は今回の特集から。

医師には病名を告知されただけで、病気の説明はなく、治療方針も示されず、経過観察とされて、割り切れないものを感じたことを覚えている。その後も症状は治まることもなく、記憶の問題、不整脈、頭痛は続き、不安も募っていった。
中略
その間に仕事を辞めた。仕事ができなくなってやめたわけではなく、これからさきはいままでどおりに仕事をすることはむずかしくなるであろう、自分は働く病院に迷惑をかける存在だと思い、「辞めたい」と自分から申し出た。

認知症ケア事例ジャーナル2023. Vol.16 P120

藤田さんは、この空白の期間には自分が病気だと診断された不安な状況を周囲の人たちに打ち明けていました。医療機関で言われたことなどについても話していました。そうすることによって、つながりの輪が広がっていったそうです。そこで打ち明けていた生活のしづらさには以下のようなものもありました。

1つは、自分が認知症になる前から持っている認知症への偏見と、周囲の人の中の偏見があると述べています。「認知症になったらおしまい、絶望的」「なにもわからなくなり、できなくなって、自分らしさがなくなる」という古い認知症観の問題であるといいます。

もう1つは、認知症=介護の問題というとらえ方です。
認知症は介護者にとっての問題であり、本人不在での介護の仕方の議論になりがちであるといいます。

それが、認知症の生きづらさを抱えながら、何とか自分で頑張ろうとしている本人のむしろ足かせになっているというのです。

空白の期間に必要なこと

この初期の認知症と診断された人は、介護が必要ではない状態です。その期間をどうするか。藤田さんは、
1.認知症に対する偏見の解消
2.初期の適切な診断と、本人が前向きに生きる後押し・つなぎを
3.1人ひとりが自分の生活・人生を歩んでいる;主体性・固有性・継続性の重視を
4.本人の声をもとに、本人とともに作る;本人起点、共創

が必要であるといいます。

ミクロとマクロの視点が両方必要

この藤田さんの記事を読んでいて感じたのが、地域・社会の変化を促すような社会活動を行って、個人の生活に対する支援が行えるようにしようという大きな取り組みを行っておられると思いました。

藤田さんは、自らの認知症と向き合いながらも、社会活動をなんと16年間続けてきました。その中で、様々な啓発活動を行ったり、今回は認知症基本法の施行にまでこぎつけることができました。


藤田さんとのやりとり

本当に頭が下がる思いです。
私が認知症の人への支援について本格的に考え始めたのは、12年ほど前になりますが、考え方がガラッと変わったのは、2015年ごろ、仙台の丹野智文さんと出会ってからです。そのつながりもあり、すでに活動を始めておられた藤田さんともお話しするようになりました。コロナ前には、一緒に大阪や広島で講演を行い、藤田さんとそのパートナーも一緒に夜遅くまで話し続けました。いつも本人の視点を教えてもらえるし、いつも医師と患者さんという関係性を考えさせられます。


認知症の人への早期個別支援の可能性について

この記事を読んでいて、思ったこともあります。診断直後の支援について見直すと、ほとんどがボランティアベースか、NPOそれに準ずるものであるのです。
私も、オレンジカフェ(認知症カフェ)にボランティアで参加しています。ボランティアというのは、専門職の善意に任されており、持続可能性が不安定なのが心配です。


例えば、診断直後で、介護認定をとらなくても、医師が必要性を認めて指示を出せは、医療保険を使って訪問リハビリや訪問看護を利用することは可能です。こういうものとインフォーマルな活動を両立して使っていくことが重要だと思います。

作業療法士は精神面や認知機能面に対する評価を学んでいます。言語聴覚士は失語症などの言語性の高次機能評価にたけています。理学療法士は、筋力低下のある人や歩行障害がある人へのリハビリが得意です。認知症の診断後支援に関する技術を身に着けて訪問すれば、その役割を担える可能性があります。

例えば、丹野智文さんは、自著の中で入院中のリハビリで作業療法士にメモリーノートの作り方を教えてもらっています。こういう記憶障害に対する対処法がわかるだけで、仕事の継続につながる可能性はあります。これが訪問リハビリテーションでも行われることができれば、生活の支援につながる可能性があります(注)。

(注)生活機能障害が進行して、介護保険の申請をする際は、介護保険の利用により継続するか判断する必要があります。

認知症の人の診断後において問題になるのは認知症だけではありません。食事の不規則さや服薬管理の不十分さなどから体調を壊す人がいます。それを家族でコントロールするのは至難の業です。そこに訪問看護師が介入していると、服薬管理や体調確認ができます。

これら訪問看護や訪問リハビリテーションの利用には課題もあります。
まず、早期認知症の人に対して、訪問看護や訪問リハビリの指示を具体的に出すことができる医師を増やすことが必要です。
また認知症の早期診断後支援をできる療法士、看護師はまだまだ少ないです。そういった人を教育していく必要があります。

前の記事でも書きましたが、認知症の診断後支援は、レカネマブ発売とともに非常に重要になってきます。既存のサービスも十分に活用しながら、障害があっても地域で生活できるような支援が受けられるような仕組みができたらよいですね。




認知症に関する書籍を執筆しています。10月に発売された新刊の「図解でわかる認知症と制度・サービス」では、認知症の症状、診断、治療だけでなく、認知症の人や家族が楽になる制度やサービスについてもコンパクトにまとめてあります。新聞が読める方には読んでいただけるぐらい平易な文章で書かれています。Kindle版もあります。よろしければ参考になさってください。

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石原哲郎|脳と心の石原クリニック院長
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