苺を食べたのは誰?
前触れもなくドライヤーが壊れた。
五歳息子の髪を乾かす途中。
異音、異臭。使い続けるのは怖い。
タオルでどうにか。
問題はこの後使う妻。
「しょうがない、自然乾燥よ~」
あっけらかんの妻に対し、私はやや意気消沈。
風呂上がり、ストロベリームーンを見に誘おうとしていた。
今宵、六月の満月。
ベランダを開いて夜空を仰ぐ。
分厚い雲に覆われて何も見えない。小雨。肌寒い。
月のない中、濡れた髪のまま歩かせるのは……
と、家の逆側がぼんやり明るく光っていた。
私は一人、玄関より出て偵察に。
……うーん。
月明りと思ったオレンジはマンションのライトだった。
あちこち、ビルの隙間を覗いても見つからず。
諦めて家に入る。
「どうしたの?」と駆け寄る息子に事情を話す。
――苺、誰かが食べちゃったみたい。
「誰だろーね?」
含んだジョークを理解して乗っかってくる。
「パパ?」 違うよ。
「じゃあ、ママかな?」
言った瞬間、くしゅんと奥でくしゃみが。
「ママだ!」
常夜燈ばかりの照らす洗ひ髪
(じょうやとうばかりのてらすあらいがみ)
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