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[朗読 2分]『とびバス』__試聴版

【ツマヨム】妻がショートショートnote杯の自作の物語を読んでくれました。【期間限定公開】
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小雨が降っている。
ピーヒョロロ。
不思議なクラクションを鳴らし、一台の黒いバスが来る。
ロータリーをぐるりと旋回し、一人の男の前に止まってドアを開いた。
「ご乗車下さい。まもなく、跳びばす」

男が吸い寄せられるように乗車すると、すぐに動き出した。
男の体はふっと軽くなり、空中を漂う感覚になった。
窓外の景色に息をのむ。
そこには、かつて男が人生で幸せを感じた――妻との結婚、長男の誕生、初めての家族旅行の場面が流れていた。
「この時に戻れたら……」
男が呟くと、バスが呼応するように告げた。
「ごちそうさまでした。終点です」

ドアが開くとそこに、あの日の妻と息子の姿があった。
「あ、パパだ」「あなた、おかえりなさい」
男はまさかの再会に歓喜し、バスを降りた。

ピーヒョロロ。
再びバスが旋回する。
警察が不審死した男の現場検証を行っている横を通過し、次の|乗客《えもの》――女の浮浪者の前に停車した。

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