『ぬくもりまであと……』
全身の感覚がなくなり、男がいよいよかと覚悟を決めた時、胸にマッチ一本ほどの温もりを感じた。
それは昨日のような記憶。
クリスマスに家族で買い出しに行った帰り。
バスが遅れに遅れ、吹きさらしのバス停に留め置かれた。
男は日中の暖かさにジャケットだけで出掛けており、そのツケを身に染みて払わされていた。十分、二十分……ベンチで震えながら耐える。
傍らにいた六歳息子の手を強く握って――
反応した息子が席を一つ潰し男の膝の上に乗ってきた。妻が出来たスペースに腰をずらし男に寄り添う。無言で行われた一連の動作。
その状態でまたバスを待った。
耳元で息子がクリスマスソングを歌い始める。
揺れる体が重い。六歳ってこんなに重かったっけ。
腿に感じる痛み、同時に手放したくない温み……
どうして今、思い出したのか。
楽しい家族の記憶は他にもたくさんあろうに。
ふっと緩んだ感情が男に再びの奮起を促した。
「帰るぞ、あの場所へ」
数分後、ライトが男を照らした。
枯木星寄り添つてバス待つ家族
(かれきぼしよりそってばすまつかぞく)
※日記を小説 風に表現しています__🖋
バスは30分遅れでやってきました……経験上、初かも。
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