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MEN 同じ顔の男たち
ポップコーンは買わない。vol.137
あらすじ
夫の死を目撃してしまったハーパーは、心の傷を癒すためイギリスの田舎町へやって来る。彼女は豪華なカントリーハウスの管理人ジェフリーと出会うが、街へ出かけると少年や牧師、警官に至るまで出会う男すべてがジェフリーと全く同じ顔だった。さらに廃トンネルから謎の影がついてきたり、木から大量の林檎が落下したり、夫の死がフラッシュバックするなど不穏な出来事が続発。ハーパーを襲う得体の知れない恐怖は、徐々にその正体を現し始める。
監督は「エクス・マキナ」のアレックス・ガーランド。「ロスト・ドーター」のジェシー・バックリー主演で描くサスペンススリラー。
米Indie Wireはガーランド監督による『Men(意味:男たち)』について、「女性たちが経験を強いられている公共空間での恐怖について、という非常に現代的なホラーストーリーを語るという領域に足を踏み入れていることを(監督は)自覚している」と評価しており、本作はA24が得意とする分野の1つである社会問題をホラー作品に落とし込んだものであると分かる。
男性が女性に与える恐怖
『週刊漫画TIMES』にて連載されている「解体屋ゲン」という作品がある。
あらすじは以下の通り
孫請け解体業者「朝倉工務店」の社長・ゲンこと朝倉巌は、大手ゼネコン「三友重機リース」社員・大月慶子が持ち込んだ爆破解体の仕事をきっかけに、世界を股にかけて活躍していた爆破解体技師としての情熱を取り戻し、彼女からの「三友グループ」への参加の誘いを請け、爆破解体会社「三友爆破株式会社」を設立する。その後、古い知り合いである木造建築の専門家・「曳き家のロク」こと岩下ロク、借金を苦に自殺しようとしていたクレーン技師・ヒデこと時田英夫、元タレントであるトラック運転手・中原光を仲間に加え、さらにその後、倒産の危機にあった昔の仕事仲間である「十円」こと近藤敏行の会社を吸収合併し、事業を拡大していったが、建設業界に根強く残る談合などの因習に囚われない「日本一の解体屋(こわしや)」を目指すために「三友グループ」を脱退し、「五友(いつとも)爆破株式会社」として再出発する。
男性の性的視線の難しさはどこにあるのか?(1/2)#解体屋ゲン pic.twitter.com/pMVQfc1sAV
— 星野茂樹(『解体屋ゲン』原作者) (@KowashiyaGEN) July 6, 2023
エピソードの中にこの話がTwitterで見かけて印象に残っている。
まさに男性が無自覚に公共空間の中で女性に向けられるハラスメントの一つである。
男性は自覚しなくてはいけない。具体的には意識的に視線を逸らすということをしていかなくてはいけない。
議論として、露出の多い服装をしているということは見られても当然と思われても仕方がないということに対して、自分が好きな服装をしたいのだからそれを制限するというのは違う、という意見がある。
でも、世の中というのは少数の男性がいくら意識しても、変わらないものがある気がしている。
最低限の対策はしておかなくてはいけないという不条理な現実があることを忘れてはいけない。
そういう逃れられない状況も本作ではホラーとしてうまく表現されている。
恋人や公共空間での女性の立場、男性から向けられる恐怖感。
全裸の男性が主人公を襲うシーンはひどく印象的だが、あんなの誰が見たって恐ろしい。その後警察が捕まえて一安心、かと思いきや危ない男ではないということを警察側が勝手に判断して釈放してしまうというアホさ。
恐怖を与えているのだから留めておいてもらわないとまた、恐怖という名の暴力に苛まれることになるし、新たな被害も生まれる可能性がある。警察や公共機関の倫理的な足りなさみたいなものが現代社会には多くある気がしている。
正直、これらは男性から女性に限らない、男性から男性、子供、老人、それぞれを因数分解したら無限にパターンは考えられる。
そんな膨大なパターンの中で、やはり倫理を学んでいくことで方程式に当てはめるのではない解決を常に考える必要がある。
そういった意味で映画をみて、敏感に感じて、そして考える。というフローを多くの人が踏みやすいのはホラーなどのジャンルは非常に優れている気がしている。
こういった作品が入り口となって、さまざまな作品から感じ取って、日常生活に活かしていくことができれば、鑑賞料金2000円を超えても自分に残る体験として捉えることができればそこまでギャーギャー騒ぐこともないのかな…?笑
とはいえ、私はレイト、サービスデイ等割引の効く時にしか観ないのだが。笑
女性に対する恐怖心
個人的に最も恐ろしいというか、顔を覆った手の隙間から観るような感じだったのは、男性の胸にヴァギナがついたモチーフでそこから出産を繰り返しながら迫ってくるという最悪なシーンだった。
出産のシーンや月経、女性器に対して苦手意識があって、なんとなく破けて爆発してしまうのではないかという恐怖感が女性に対してあるのが原因の一つで、そこにましてやメスや刃物を向けることをイメージするだけで倒れてしまいそうになる。
それだけの神聖さや畏敬の念がある気がしている。
本作に登場するシーラ・ナ・ギグという女性が裸でしゃがんで膣口を露出させた石像がある。教会等で置かれているようなのだが、その意味については謎が多いのだという。
女性は神に近い存在として恐れることを忘れないためのものなんじゃないかって思ったりする。動物界でもハチやライオンなどメスの方が優位にある例はたくさんある。
だから、主人公はあの場面でも平然とできていたのでは…?
最後に
古代にすでに答えが出ている可能性も少なくない。
歴史を振り返ったときに見えてくる普遍性みたいなものをピックアップして現代に活かしていく。
アート作品や民俗学などからも学び取ることができるし、これから生きていく上での武器になり得るはずである。
今すぐ十分得ることは難しいが、少しずつ間違えながらも正しい方向に進めるようにアウトプットしていって、議論して、前に進めていきたいものだ。