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薬師丸ひろ子「Woman "Wの悲劇"より」を和歌と共に聴く(1)
松本隆さんが紡いだ言葉を
薬師丸ひろ子さんの透き通った声が奏でる
「Woman "Wの悲劇”より」は実に、
実に美しい歌です。
大好き。
この歌がサビに入ると、
決まっていつも思い浮かぶ和歌があります。
思い浮かぶと言うよりも、脳内で、勝手に歌詞に覆いかぶさって来る和歌です。
一拍考えないと、
歌詞と和歌の境目がどこだったか分からなくなるくらいに。
まず、下が該当する部分の歌詞です。
ああ時の河を渡る船に
オールはない 流されてく
(「Woman "Wの悲劇”より」・作詞:松本隆)
文字にすると短いけれど、
四行のサビの内の半分を占めているのであり、
たっぷりゆっくり大事に大事に歌われているので存在感はバッチグー。
そして、この歌詞と酷似している和歌がこちらです。
由良の門を 渡る舟人 梶緒(を)絶え
ゆくへも知らぬ 恋の道かも
(『新古今和歌集』巻十一・恋一・1071・曾禰好忠)
(意訳)
広い海峡(河口)を行く舟人が、舵を失い
ゆらゆらと心細げに漂うように、
どうなるか分からない
どうしたらいいのか分からない、
そんな恋です。
百人一首にも採られている歌ですね。
広大な水上を行く船がオールを失い、
心許ない様子。
どちらも同じ情景です。
でも、背景はちょっとずつ違っていて、
薬師丸さんの歌を聴く時は、
和歌のイメージが
恋の雰囲気や、頼りなく不安な心情を
より色濃く塗り重ねてくれて、
和歌を見る時は、
薬師丸さんの歌の言葉が
空間的な広漠に、時間のニュアンスを添えて
より壮大に感じさせてくれます。
つまり、相乗効果的なことです。
お得な気分。
もういくつかお得な気分になれる箇所が
あるのですが、そこにまで話が及ぶと
ちょっと気合を入れないと読めないくらいの
長さになってしまうので、
次回に持ち越すことにします。
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