えりんぎ

京都在住、文学部卒の保育士。

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『オペラ座の怪人』長い感想文ー終ー

 前回まで、映画『オペラ座の怪人』の感想文を長々と綴ってきました。  あまりにも冗長になったので礼儀として序章を置いて自らの日記を晒したわけなので、終章も設けます。私の十八番(?)、西洋絵画に落とし込んで長い感想文を締めようと思います。  『オペラ座の怪人』4Kデジタルリマスター版を観た後、喫茶店に入り持参していた本を開きました。至福の時。  すると目に飛び込んできたのが、かの有名な「星月夜」。ゴッホの代表作の一つですね。  私はそこに、怪人の心を見ました。  この絵

    • 『オペラ座の怪人』長い感想文ー4ー

       映画『オペラ座の怪人』でじたるりますたー版を観ていたく感動したので、感想文を書きます。これまでの記事では、ストーリーを追って場面ごとに書いてきたので、最後に全体を通しての考察をします。  柱は三つ。音楽の天使とは誰か、猿のオルゴールが象徴するもの、そしてモノクロ演出の意味です。 本当の音楽の天使  まずは、クリスティーヌパパが語った「音楽の天使」について。  ヴァイオリニストであったクリスティーヌパパは、天国に行ったら音楽の天使を贈ることを一人娘に約束して亡くなりま

      • 『オペラ座の怪人』長い感想文ー3ー

         映画『オペラ座の怪人』でじたるりますたー版を観ていたく感動したので感想文を書きます。  前回の続きで、怪人の書いたオペラ「ドン・ファンの勝利」のシーンから最後までです。 The Point of No Return  オペラ座の面々はついに、怪人をおびき出すために怪人作のオペラ「ドン・ファンの勝利」を要望通り公演することに決めます。  その舞台のおどろおどろしいこと。舞台全体が赤く燃え上がっていて、役者たちの動きも炎のよう、そして歌の詞にも、"fire" とか "blo

        • 『オペラ座の怪人』長い感想文ー2ー

           映画『オペラ座の怪人』でじたるりますたー版を観ていたく感動したので感想文を書きます。  前回の続きで、カルロッタご機嫌取りの「プリマ・ドンナ」シーンから、雪の墓地のシーンまでです。 Prima Donna  「ぷりまどんな」をしばらく「ぷり・まどんな」だと思ってました。よく分からんがマドンナなんだな、と。ちがった。「プリマ・ドンナ」だった。オペラの主役女優をそう呼ぶのか。  怪人のクリスティーヌ贔屓に拗ねて出て行くカルロッタの後を、よく見ると巨大な額縁が追っています。

        『オペラ座の怪人』長い感想文ー終ー

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        記事

          『オペラ座の怪人』長い感想文ー1ー

           映画『オペラ座の怪人』でじたるりますたー版を観ていたく感動したので感想文を書きます。  今回は、最初のオーバーチュアからクリスティーヌが初めて怪人の住処を訪れるシーンまでです。   Overture  オークション会場に現れたよぼよぼ爺さんことラウル翁が、修復された古いシャンデリアの天井へ登って行く姿から若かりし頃を回想するようにして、本編に入ります。  知っていても何度でもびっくり仰天するオーバーチュア。閃光とパイプオルガン(たぶん)の爆音でテンションがぶち上がり

          『オペラ座の怪人』長い感想文ー1ー

          『オペラ座の怪人』長い感想文ー序ー

           映画『オペラ座の怪人』デジタルリマスター版が上映されていました。  でじたるりますたーが一体何なのかメカ音痴にはよく分かりませんが、とりあえず観に行って来ました。4回観に行きました。  『オペラ座の怪人』との出会いはそう、3年前くらい。映画好きでは特にないけれどミュージカル映画はわりと好きだったので、Netflixにあるし有名だしこれも観ておくか~ていうくらいのノリで、なんの前知識もなく観始めました。  あれ、モノクロ?そんなに古い映画なの?と最初はびっくりしました。激

          『オペラ座の怪人』長い感想文ー序ー

          時事短歌二首

          【時事短歌二首】 好きと言うと卑しいようで隠してたでももうサヨナラ福沢諭吉 なにか恋ひむ今日新しき衣とていつ見きとてか渋沢栄一 (新しいお札の顔になったからって、会ったこともない彼のことを恋しいなんて思わないんだから!!) 【描いて分かったこと】 福沢諭吉は左目が二重 渋沢栄一は耳たぶがチャーミング 新札に関するこの二首の短歌を詠み、自分は天才だと高笑いした日から早数ヶ月。 世に放出すべきこの日を心待ちにしていました。

          時事短歌二首

          組曲『展覧会の絵』に見えた藤原家隆の和歌

           『ドイツの詩と音楽』(荒井秀直、1992、音楽之友社)という本をなんとなく読み始め、内容の諸々にいたく感動して音楽のことをもっと知りたいなと思っていた折、YouTubeを開くとちょうど良さげな動画がオススメされていました。  「ゆる音楽学ラジオ」という番組で、パーソナリティのお二人が、ロシアの作曲家モデスト・ムソルグスキーによる組曲『展覧会の絵』について語る動画でした。全体で30分程のこの組曲を、語り手の浦下さんがタイトルを伏せて一曲ずつ流し、聞き手の黒川さんが感じ取った

          組曲『展覧会の絵』に見えた藤原家隆の和歌

          我流に和歌鑑賞〜「ゆる言語学ラジオ」ビジュアルシンカー回を聴いて〜

           しばし自分語りをば。  YouTubeチャンネルあるいはポッドキャスト番組「ゆる言語学ラジオ」が好きなのであります。半年弱前に偶然知ってからというもの聴き狂い、夢中なのであります。  最新回は、定期的に投稿される言語学そっちのけの、読んだ本があまりにも面白かったので思う存分語らせろ!と、喋りまくるシリーズのやつ。当該回の、あまりにも面白かった本というのが以下です。  この本を読んで語り手さんが考えたことなどを聴いて私が考えたことなどを書きます。  私が理解したところに

          我流に和歌鑑賞〜「ゆる言語学ラジオ」ビジュアルシンカー回を聴いて〜

          奥の細道パロディ日記「寒夜の路」

          冴え渡る弦音が的を打つ、極寒の弓稽古。その帰り道、凍てついた内臓を溶かしたのは百三十円のコンポタだったーー 奥の細道パロディ日記「寒夜の路」をお楽しみください! 本当は3月初旬にあった出来事を、季節の整合性をとるために12月ということにしたのはここだけの話。そう、「コンポタ」は冬の季語で間違いありません。 奥の細道パロディ日記「寒夜の路」 師走始めの寒夜、弓稽古す。冴ゆる弦音は的を打てども、矢は安土を穿ちたれば、腸凍るまで涙を落としはべりぬ。稽古終わりてちゃりんこ漕ぐほ

          奥の細道パロディ日記「寒夜の路」

          ダナエみたいな万葉歌

          (意訳) 清らかな月夜に花を開く梅のように、 私が心を開いてお慕いするあなたよ。  清らかに潔白に、「君」を慕う純情の歌と捉えることもできるようですが、月が美しい夜に、梅が花を開いて月光を受け入れるという描写は、地下室に閉じ込められていたダナエの元へ、ゼウスが黄金の雨となって降り注いだ(そして子を宿した)神話にも似た、官能的な歌に見える気がします。  故に、夜空と梅花と月が一枚に収まった写真は、私にとっては18禁。

          ダナエみたいな万葉歌

          桜の気配(和歌)

          (意訳) 枝先に、今にもあふれんばかりに 花の気配がこもっている。 気持ちが先走って 桜の咲き誇る光景が、目に浮かぶようだ。  歌会で、この歌が、たっぷりと間を持って詠唱されている場面を想像してみましょう。テーマは「花を待つ」です。 い そ ぐ よ り て に と る ば か り に ほ ふ か な  ここまで聞いて、その場にいる人々は、キラキラと咲き誇る満開の桜を想像するはずです。 え だ に こ も れ る は な の お も か げ  そしてこの下の句が

          桜の気配(和歌)

          優しくてちょっとアホな和歌(万葉集)

          (意訳) 梅の花に降る雪を袖に包み 君に見せてあげようと、取り出すけれど すぐに消えてしまうよ  そこに美しいものがあるから、愛する人に見せたくて、反射的に手に取る。それがあっという間に溶けて消えてしまうものであることを忘れて。なんだか愛らしい歌です。雪の白さも相まって、純粋無垢な印象を強く受けます。  この和歌を知った時、隣に友人がいたので、「この歌かわいくない?」と共感を求めました。友人の返答はこうでした。 「なんか良守みを感じるな」  良守とは。  少年漫画『結界

          優しくてちょっとアホな和歌(万葉集)

          紀貫之の和歌 雪への眼差し

          (意訳) 雪は 万物を覆い隠し 世界を白く染め上げてしまうが、 水には、自身の色も失い消えるだけなのだ。  雪の性質を三十一文字にまとめただけの、シンプルな歌ですが、これがやたらと私の心に刺さります。降り積もったならば、圧倒的な存在感、重厚感、純潔感、そして畏怖の念をもたらす雪だけれど、水にはあっさりと消え去る、その不思議を思案する視点が好きです。  作者である紀貫之は、雪について他にこんな歌も詠んでいます。 (意訳) 雪は 降っては梅の花の散る景と混ざり合い我々を欺き

          紀貫之の和歌 雪への眼差し

          キノコと、愛車ワインレッドの悲劇

           とあるキノコは、怒り狂っていた。  某市に住む某キノコは、普段は自転車で高速突破する帰路を、激おこぷんぷん丸で歩いていた。相棒のワインレッドを、放置自転車として市に撤去されたのだ。某チェーンカフェ店の駐輪スペースがいっぱいだったので、限りなく駐輪スペースに近い歩道、いや、見方によっては駐輪スペースと歩道の境目に、致し方なくワインレッドを停め、店内に入った。その結果が、前述のとおりである。 「許容範囲内でしょ!」 「情けをかけてもいいくらい遠慮がちな停め方だったでしょう

          キノコと、愛車ワインレッドの悲劇

          大切な今と、懐かしい過去(和歌)

           いつかの日常が思い出になってしまった事が、日常がいつか思い出になってしまう事が、たまらなく悲しい。そんな気持ちになる事が、時々あります。  眠れない夜、なつかしい音楽を聴きました。  一時期どっぷりとハマって、何度も何度も聴いた音楽でした。大学の自習室で、気分転換に聴き耽ったり、眠気に襲われるままに子守唄代わりにしたものです。  夜も更けて早く眠りにつきたかったけれど、待っても待っても睡魔はやって来ず、しばらく眠れそうにないと諦めてイヤホンを耳に挿し、疎遠になっていた曲を

          大切な今と、懐かしい過去(和歌)