それでも地球は曲がってる|毎週ショートショートnote
「彼女ができました」
スマートフォンに、友人から写真付きのメッセージが送られてきた。写真には、ニヤけ顔の友人と微笑む美女が写っている。
俺はその写真を見て、違和感を覚えた。別に羨ましくない……わけではないが、素直に「おめでとう!」という気になれない。
もう一度写真の美女を見る。
AI彼女でも、イマジナリー彼女でもなさそうだ。
普通、「好きな人がいるんだ」とか、何かしらの「前置き」があると思うんだが、そんなものは微塵もなかった。いきなり「彼女ができました」と写真が送られてきて、疑わない方が無理というものだ。
「美人じゃないか。よかったな」
とりあえず、当たり障りのないメッセージを送ると、すぐに友人から電話がきた。
「なんだ? 早速、彼女の自慢か?」
「自慢なんて、そんなつもりないよ」
思ったより低いテンションに、やっぱり違和感がぬぐえない。
「なぁなぁ。今の世の中めちゃくちゃじゃない? 地震、戦争、ゲリラ雷雨、物価上昇、増税、年金カット、その他いろいろ……」
「なんだなんだ? 突然どうした?」
今の世の中がめちゃくちゃなのは同感だが、なぜそんなことをわざわざ電話で言うのか理解できない。
「何より、人の心が荒んでるんだよ。みんな病んでるんだよ。彼女はね、そういう人たちの心を救う仕事をしているんだ」
俺はピンときた。
「彼女の話によると、地球が曲がってるんだってさ。だから僕たちの力で、真っ直ぐにしなきゃいけないって」
「なぁ、ちょっと聞いてくれ」
友人の話を遮り、俺は大きく息を吸い込む。
「彼女から、何か買わなかったか?」
「よく聞いてくれた。大きな壺を買ったよ。623万円で」
「ろっ……。お前、そんな大金、どうやって……」
「2万円の321回払いにしてもらった。君には特別に150万円でいいよ。今度一緒に飯でも――」
ピッ。
俺は黙って電話を切り、一切の迷いなく、友人を着信拒否にした。
――地球が真っ直ぐになるといいな。
壺に26年ローンを組んだ友人を思い浮かべ、憐れみを込めて呟いた。
(了)
たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「それでも地球は曲がってる」でした。
こちらの実話を基にしました。
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