夜からの手紙|毎週ショートショートnote
「27年もの間、自分なりに務めを果たしたと自負しております」
俺の後任からの手紙だった。4年しか続かなかった俺に対しての嫌味かと思ったが、27年も続いた後任に対して、純粋に尊敬の念を抱く。
夜の帳を下ろす仕事は、言ってみれば昼と夜を結ぶ仕事だ。「繋ぎ」の仕事と侮るなかれ。実はかなり繊細でコツが要る。
特に、太陽が落ちてから帳を下ろし始める数分間は腕の見せどころだ。みんなはこの数分間を「マジックアワー」と名付け、「1日で最も美しい時間」と呼んでいる。
大きなカメラを持って写真を撮る人達や空を見上げる人達の姿を見ると、「してやったり」と思う。
「情けない話ですが、後任選びに難儀しておりまして、またあなた様にお願いできれば、と」
――そういうことか。
わざわざ退任の報告のために手紙をよこすなんて、おかしいと思った。
ふと、空を見る。
言葉で、文字で表せないような、美しいマジックアワーが閉じていく。
やはり、あいつの腕はピカイチだ。
――お前の後任が務まる奴なんて、いないさ。
あいつの最後の仕事を見届けた俺は、白紙を手に取り、一筆走らせる。
「謹んで、お受けいたします」
(了)
たらはかにさんの企画「毎週ショートショートnote」に参加しています。
今週のお題は「夜からの手紙」でした。
ちょっとロマンチックなお題ですね。
難しいお題が出ると、「あいつ、やりやがったな」と思い、割と普通なお題が出ると、「あいつ、手ぇ抜きやがったな」と思ってしまう…。
主催者って、大変ですなぁ…。
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